フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

オバオバの宙返り。


プレイしながら楽しみ、
楽しみながらプレイする‥‥
サッカーが人生の喜びそのもののように
生き生きとプレイするオバフェミ・マルティンスが、
今回のお話の主役です。

ナイジェリア出身の彼はまだ20才で、
インテルの選手です。
カンピオナートや様々な選手権を通して
17ゴールをマークし、もはやインテルだけでなく
イタリアの総てのティフォーゾたちの
アイドルになりました。

14でイタリアに、15でインテルに


彼が好かれるのは、
プレイを楽しんでいるからです。
サッカーの世界では、今や、楽しむことは罪であって、
唯一のするべきことは汗をかき、プレイを「責務」として
こなすことだという雰囲気が強くなってしまったのですが、
彼は、まず自分が楽しんでいます。

若さは、サッカー選手にとってしばしば
デメリットだとみなされる風潮もあります。
経験こそがものを言うのであって、
選手は段階を踏んでチャンピオンになるのだ、
というわけです。

それもあながち「間違い」ではありませんが、
ナイジェリアからやって来たこの若い選手にとって、
そんなおとなたちのもっともらしい説は、どこふく風です。
だって、彼がイタリアに来たのは、
まだ14才の少年のころで、
インテルが今の値段にして100万ユーロで
彼を購入した時にも、
彼はやっと15才だったのですから。
そんな彼に、
しかつめらしい顔をして
サッカーという「責務」を果たすなんて発想を、
いきなり押し付けてみても無理というものです。

彼はこう言っています。
「ボールがぼくの方に来るのが見えたら、
 相手のキーパーを良く見て、
 ディフェンダーの先回りをする事を考える。
 ボールにあうようにスタートするんだけど、
 その時に自分の足がもう
 地面に触っていないように感じると幸せだ。
 ゴールも勝利も大切だけど、
 でもぼくにとっては楽しむことのほうがもっと大切だ」
ってね。

愛称オバオバ、
みごとな宙返りで観客を楽しませる!


そんなマルティンスのゴールのお陰で、
2月23日のUEFAチャンピオンズ・リーグの対ポルト戦を、
インテルは1対1の引き分けに持ち込みました。
ポルトは昨年のヨーロッパ・チャンピオンであり、
最後のトヨタ・カップの優勝チームですね。

インテルにはアドリアーノやヴィエリなど、
彼よりも強いとされるアタッカーがいますが、
彼の素早さとゴール能力はとんでもないものです。
平均すると71分に1ゴールの割合です。

インテルのオーナーであるマッシモ・モラッティは、
マルティンスがゴールするたびに1万ユーロを
彼にプレゼントするのですが、
それは彼には渡されるのではなくて、
彼の母親と6人の兄弟のマルティンス一家の暮らす
ラゴスの地へ、直接送られます。

マルティンスがインテルのティフォーゾばかりでなく
イタリアのサッカーファンの誰からも愛されているのは、
自分が楽しむだけではなく、
いつも観衆を楽しませようとする
彼の気持ちの表しかたがあるからです。

ゴールの度に彼は喜びをトリプル宙返りで表します。
これはもう彼のトレードマークになりましたね。
ほんとうに喜びに満ちていて好感がもてます。




ところで、オバフェミという名前は
イタリアの観衆たちには長くて発音しにくいので、
彼は「オバオバ」というニックネームで呼ばれます。
リオ・デ・ジャネイロの有名なサンバのバンドと同じで、
でもマルティンスはナイジェリア人なんですが、
ま、固いことは言わない言わない。

もっか彼はミラノで一人暮らしです。
彼を孤独との闘いからすくってくれるのは、
よく食事に招待してくれるモラッティやヴィエリの
家族ぐるみの友情です。

ヴィエリに至っては、
ことオバオバに関する限り、
まるで「親代わり」の気分のようです。
批判から彼をまもり、ミラノの寒い夜には彼を誘ったり、
時には彼をディスコに連れて行くこともあるとのことです。
ディスコの帝王ヴィエリといえども、
あまり夜がふける前にオバオバを家に連れて帰れるように、
ちゃんと気を付けているみたいですよ。

インテルはポルトとの引き分けで
新記録を打ち立てました。
カンピオナート、コッパ・イタリア、
UEFAチャンピオンズ・リーグを通して38試合、
負け無しという記録です。

これはインテルが誇れる快挙です。
幸運なことに、まだサッカーを
純粋な楽しみとして表現している
20才の若いオバオバも、
この記録を誇りにして良いでしょう。



訳者のひとこと
それにしても、ひゃ〜な写真ですね。
これは「写真」でないといけません。
絵だと「嘘っぽすぎ」になってしまいます。

「宙返り」と訳しましたが
「でんぐりがえし」のほうに近いかもと
迷いました。
イタリア語ではcapriolaカプリオーラと
いって、馬術の跳躍の意味もあります。
これがフランス語のcabrioleから
cabriolet(二輪小型馬車ですが、このへんで
車好きの方はピンとくるかも)となり、
英語化して更に短縮されたのが
現在タクシーの意味で使われるcabだそうです。
翻訳/イラスト=酒井うらら


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2005-02-28-MON

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