フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

イタリア人たちの夢、
それは監督になること!



イタリアは、みなさんご存じのようにサッカー大国ですが、
多くのイタリア人たちの夢は、
ゲームをただ見ているだけではなく
「監督する」ことのようです。

たとえば平均的なイタリア人は
朝のバールでカプチーノを飲み、
ブリオッシュを食べながら会話を楽しみますが、
その話題は、まずまちがいなくサッカーです。
特にセリエAの試合の次の日にあたる月曜日には、
議論にも力が入ります。



いわく、カペッロはデル・ピエロにプレイさせるべきだった、
マンチーニはヴィエリをピッチに出すべきではなかったし、
それにアンチェロッティはどうだ、
気の毒なシェフチェンコだけに
アタックの役をまかせるなんて、
ほかに手段はなかったのか、などなど。

すべては批判です。
イタリア人のだれもが、自分は監督としてベンチに座れば
最高の陣形を作れると、思っているみたいです。
やってごらんなさいって。
口でいうほど簡単じゃありませんから。

さて11月3日水曜日、イタリア首相であり
ACミラン会長であるシルヴィオ・ベルルスコーニは、
ロシアのプーチン宅を訪問していました。
そこで彼は、まずブッシュに電話をして、
合衆国大統領再選の祝辞を述べ、
つぎにイタリアへ電話をかけ、
自分のチームであるACミランの
アンチェロッティ監督を叱りました。
前夜のバルセロナとの対戦に、
2:1でACミランは負けたのですが、
これはアンチェロッティが陣形を誤ったからで、
もうひとりアタッカーを使うべきだったという訳です。

ベルルスコーニが口を出すのはいつものことですが、
結局のところ、イタリアではベルルスコーニならずとも、
だれもが監督のポストにつきたがっているらしいのです。

どうもそれが平均的イタリア人の夢なのですが、
この夢が、とうとう実現してしまいました。
だれかとんでもない金持ちがチームを買った‥‥
というのではなくて、
ごく普通の人たちの夢が叶ったのです。

「カンピオーニ」という番組が大人気!

もう1ヶ月以上も前から、
シルヴィオ・ベルルスコーニの持ち局のひとつである
イタリア・ウーノというテレビ局が、
毎日の13:35から14:00までと
金曜日には1時間以上もかけて、
「カンピオーニ(チャンピオンズ)」
という番組を流しています。

どういう番組かといいますと、
カンピオナート・デッチェレンツァ・
デッラ・フェデラツィオーネ
(フェデレーションの優秀選手権)という
セミプロの選手権のチームである「チェルヴィア」を、
追いかけるという内容です。
10台ほどのカメラが、
全24選手の日常をライブで撮影し、放映します。
ある事のために、そうする必要があるのです。



この番組の視聴者は、
このサッカーチームがどう生活するのか、
どう練習し、日曜日の試合にどう備えるのか、
そして選手どうしや監督とのケンカの数々なども、
すべてを、やらせなどは一切無しに
見ることができる仕組みです。

こうして2百万人以上のイタリア人たちが、
日曜日の午後には決まってピッチに入るチェルヴィアが
試合に備える様子を見るために、
毎日テレビの前にすわることとなりました。

これは、陣形をつくるのは誰なのかという疑問が、
イタリア人たちの好奇心に火をつけた結果でもあります。

通常は監督が、その日の陣形を決めます。
チェルヴィアの監督はフランチェスコ・グラツィアーニです。
彼は選手としては1982年のW杯優勝に参加しており、
監督としてはアレッツォ、フィオレンティーナ
そしてアヴェッリーノを監督したこともある人物です。

このチェルヴィアの場合、
出場させる選手たちのうち8人だけを
グラツィアーニが決めます。
そのかわりに彼はベルルスコーニのそのテレビ局から、
年間25万ユーロの支払いを受けています。
そして残りの3人については視聴者が選ぶのです。
もうお分かりでしょう、
一般人がメンバー選びに口を出せるというのが、
この番組の仕掛けなのです。

投票方法は、
www.campioniilsogno.itというサイトを通すか、
電話でメッセージを伝えます。



得票上位3名が、グラツィアーニの選んだ
8選手とともに出場するという段取りです。

放映される番組では、
イタリアのテレビではとても人気のあるタレントのひとりの
イラーリア・ダミーコという司会者が、
視聴者を3選手えらびのためにスタジオに招待します。



次にグラツィアーニを呼んで、
選ばれた選手たちをプレイさせるという契約をします。
監督のグラツィアーニは、この3名については
視聴者たちの選択に従わなければなりません。



視聴者たちは投票の前に、
彼らのお気に入りの選手たちが練習し、
食べ、議論し言い争うなど彼らの基本的な状態を見てから、
テレヴォートと呼ばれる投票をします。
このために、テレビカメラが全24選手たちを
一日中追いかけるのです。

番組は大好評で、
日曜日にはラジオやテレビが、
まるでセリエAのチームを追いかけるみたいに
チェルヴィアに付いてまわります。

サッカーの監督をしてみたいという
庶民のひとつの夢が実現したと言えるでしょうが、
そこにはリスクもあります。
チェルヴィアはセミプロのチームですから
まだ良いのですが、この人気を見て
他のチームも見習うとなったら問題です。

もしかして、イタリア代表チームのリッピ監督までが、
ある日、デル・ピエロ、ヴィエリ、トッティらを、
自分の選択ではなく、
多くの視聴者たちが望んでいるからという理由で、
アズーリでプレイさせることを余儀なくされるとしたら、
大問題でしょう。
ぼくは考えすぎでしょうか?


訳者のひとこと
シルヴィオ・ベルルスコーニは
イタリアの首相になるより以前に、
まずメディア王としてのしあがった人で、
テレビ局もいっぱい持っています。
気に入らない人材はかたっぱしから更迭し、
報道規制も彼がかけているという人もいます。
真相は定かではありませんけど、
まんざら嘘でもなさそう‥‥。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2004-11-08-MON

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