フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

監獄の町オペラの
囚人たちのサッカーチームが
第2クラスに昇格した!!




ミラノの南側近郊に「オペラ」という町があります。
そこには、厳重な警備でその名をイタリアにとどろかす
刑務所があります。
70年代半ばにイタリアを震撼させた
「アルド・モーロ暗殺事件」の犯人たちも、
そこに収容されました。
当時の首相だったモーロを誘拐し殺害したのは、
左翼テロリスト集団の
ブリガーテ・ロッセ(赤い旅団)です。

オペラの、この刑務所が、
イタリアで今また話題になっています。
新たに誰か凶悪犯が収容されたのでしょうか?
いいえ、いいえ、ぼくがここに書くからには、
サッカーがからんでいるのですよ。
それも、イタリアにおいてさえユニークな事態で、
話題沸騰中なのです。

対戦相手はすべて
刑務所にやって来なければならない?!

じつはこの刑務所では囚人たちがサッカーチームを設立し、
すでにカンピオナートの第3クラス、
つまりもっとも低いレベルに登録していたのですが、
このチームをフェデレーションが公認し、
なんと第2クラスに昇格させたのです。

このチーム、その名も「フリー・オペラ」といいます。
自由なオペラといいながら
ぜんぜん自由ではないのですから、
皮肉なのか、ユーモアなのか‥‥

この囚人選手たちは、
サッカーのボールを蹴ることを楽しむだけでなく、
ボールを蹴ることで心を自由にしたいのです。
心までは、誰も鎖につなぐことはできません。

それにしても、
刑務所の中の囚人チームが
カンピオナートに参加するというのは奇怪な事態で、
ほとんどシュールですらあります。
考えてもみてください、チーム「フリー・オペラ」は、
刑務所の外ではプレイできないのですから。

でも第3クラスから第2クラスに昇格したということは、
そう、去年、プレイした実績があったということです。
ど、どこで?
もちろん「塀の中で」です。

アマチュアからセリエAまで、
すべてのイタリアのサッカーを管理するF.I.G.C.
(フェデラツィオーネ・イタリアーナ・
 ジョーコ・カルチョ)は
シーズンを前に作戦をねりました。
フリー・オペラは
このF.I.G.C.カンピオナート(選手権)の
第3クラスに登録されていたからです。
さて、F.I.G.I.は他の参加チームに、
ある書類に合意のサインをしてくれるよう要請しました。
その書類は、ホームもアウェイもなく、
とにかくフリー・オペラとの対戦は
「刑務所内で行う」ことを義務付けたものでした。

かくして、
フリー・オペラとの対戦チームはすべからく
刑務所におもむくことになりました。
ピッチは土が固められただけで、草は一本も生えていません。
そして、鉄格子にかこまれながらプレイしたのです。

ティフォーゾも囚人たち!
すべてを忘れる90分間。

イタリアでは、
ミラノでプレイする時のインテルや、
トリノでプレイする時のユーべを助ける、つまり
彼らの地元ティフォーゾの応援のことを
「ファットーレ・カンポ」(畑の管理人)と呼びます。
フリー・オペラにたいするファットーレ・カンポは、
たぶん、ものすごいと思います。
特に勝利の場合には決定的なものすごさでしょう。

なぜってフリー・オペラの地元ティフォーゾは
囚人たちですからね。
畑、つまりピッチの周囲で、といっても頑丈な鉄格子ごしに、
しかも刑務所の警備員たちににらまれながら応援するのは、
殺人犯、婦女暴行犯、強盗、テロリストなど、
あらゆる種類の無法者たちなのです。
彼らは毎週日曜日の90分間は苦しみを忘れ、
特別なティフォーゾに変身します。
まるで自分たちがミラノのサン・シーロ競技場や、
ローマのオリンピコ競技場にいるかのように、
この90分に熱中するのです。

この9月には彼らの2回目のカンピオナートが始まります。
そしてチーム会長であり刑務所長でもある
アルベルト・フラゴメーニは、
フリー・オペラが長くプレイし続け、
勝ってくれることを望んでいます。

ただし、
第3クラスは最下級ですから
例外についても寛大でしたが、
第2クラスに例外は認められないと思います。
ということは、フリー・オペラが
外の競技場でプレイする必要が出てくるでしょう。

外といっても、全国リーグではありませんから、
いちばん遠くても17キロしか離れていない
セグラーテまでしか行かないでしょうが、
事は囚人護送そのものです。
囚人たちは装甲車で運ばれ、
ピッチの周囲は脱走を阻むための
特別な警備員たちが取り囲むという
物々しい警戒体勢が敷かれるでしょう。
ペレが彼自身の役を演じ、
シルベスタ・スタローンがゴール・キーパーの役を演じた
有名な映画「勝利への脱走」が思い出されます。
でも、サッカーが彼らを変えてくれるのではないでしょうか。



イタリアの法律で「良い態度」と呼ばれる
囚人の模範的態度をしめせば、
数年後に刑が減らされるのですが、
訓練と試合をすることによって
規律を身につけた囚人選手たちは、
最も「落ち着かない」連中への最高の模範になるでしょう。

トレード希望の囚人続出!

囚人選手として認められている40人の若者たちの出身地は
14ヵ国にもおよびます。
イタリア人だけではないのですよ。
特にアルバニア、アルジェリア、モロッコ、
エジプト、イラク、トルコなど、
周辺の国からやってきて犯罪に手を染める若者も
少なくありません。

フリー・オペラの監督はアルジェリア人です。
今ちょっとしたサッカーマーケットが
彼の周囲で起きています。

彼のもとへ、イタリアの他の刑務所の若い囚人たちから
「トレードしてくれ」という手紙が、
ぞくぞくと届いているのです。

まあ、彼らの希望をかなえるのは無理でしょうねえ。
どこの自治体も、大変な危険のともなう移動の責任は、
とりたくないでしょうから。
実現させてやりたい気もしますが‥‥


訳者のひとこと
イタリア的です。
実にイタリア的です。
これだから、イタリアはぶっ飛びだと
言われるのですが、
本人たちは大真面目です。
「前例が無い」の言葉にひるむようでは
イタリア的とは言えません。
独自の発想をもって突き進むのです。
そして、
レオナルド・ダ・ヴィンチ的ともいえる
発想の柔軟さは、今も健在のようです。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2004-08-16-MON

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