フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

インテルとACミランへの
選手の「無償貸与」って
いったいどういうことなんだろう。



ミラノも暑い日が続いています。
バカンスの季節、といっても不況ですから
むかしみたいに優雅なバカンスを過ごす人は
多くはなくなりましたが、
街に観光客の姿がふえ、夏らしい活気が出てきました。
この時期は、妻子を先に
バカンスに送りだしたパパたちの外食姿も、
たくさん見受けられます。
留守宅での泥棒被害もふえる季節です。
クリーニング業界風のユニフォームを着た一団が、
高価な絨毯を白昼にどうどうと
盗み出したという話もあるほどです。

この暑い夏の訪れとともに、今年も、
夢の製造所であるカルチョ・メルカート、
サッカー・マーケットが始まりました。
毎年のこととはいえ、
イタリアの熱いサッカー愛好家たちにとって、
メルカートは大きな楽しみのひとつです。

ヨーロッパ選手権では、
UEFAチャンピオンズ・リーグでも
EURO2004でも、
イタリアの不振にがっかりさせられましたが、
メルカートでは、まず、
ヨーロッパチャンピオンのポルトと、
最近あまり勝っていないとはいえ
格式の高いベンフィカが、
それぞれネーリとトラパットーニ、つまり
イタリアの著名な監督たちと契約しました。
これはよい契約だと思います。
一方で、
良い選手たちが一向にイタリアにやって来ないというのは、
どうしたもんでしょう、ちょっとつらいところです。

イタリアに誰も来ないのではありません。
来るには来るのですが、
どうも、いわく付きなのです。
イギリスからは、インテルにヴェロンが来ます。
譲渡されて来るのではなく、
チェルシーから無償貸与されて来るのです。
ヴェロンは、インテルの新監督であるマンチーニの
親友でもあります。
そして、クレスポがACミランに来るそうです。
これも無償貸与で。

このヴェロンとクレスポの「貸与」という形が、
イタリアサッカーを他国がどう見ているかを証明していると、
ぼくには思えてなりません。

15年前とは、何もかもが
違ってしまったね。

15年ほど前には、
ACミランとインテルはヨーロッパ中をめぐり歩き、
イタリアに来ることを希望する選手たちの中でも優秀な、
ファン・バステン、グリ、ルンメニゲ、マテウスなどを
購入していました。
欲しい選手を、いくらでも選ぶことができたのです。

アーセナルやレアルも、
このミラノ市の2チーム(特にACミラン)には、
対抗できませんでした。
価値ある商品、要するに高い契約金をとれる選手を
持っているチームは、
ACミラン会長のベルルスコーニや、
インテル会長のペッレグリーニに
殺到して列をなしました。
彼らこそが、高値で買ってくれる
「良い入札者」だったからです。

そのACミランは、
今ではチェルシーの支店にでも
なってしまったような印象です。

なにもかもが変わってしまったのですね。

有名でアピール度も大きい選手たちは、
もうイタリアに来ることなど
露ほども考えていないのです。
こうして、ぼくらのイタリアサッカーは、
どんどん弱くなるのです。

イタリアのクラブ・チームが
競技の上でも弱くなったことは、
先のヨーロッパ内での選手権で、
イタリア国内リーグの2大チームが、
デポルティーヴォとヴィラレアルに、
それぞれ敗退させられたことからも分かります。
そして今期のメルカートで、
チェルシー、レアル、バイエルンなどから
強力な駒を横取りできなかったところをみると、
経済的にも本当に弱まっているのです。

駒を横取りするどころではありません。
もしチェルシーが余分な選手や、
先シーズンに弱かった選手や、
下品な言い方をすれば
「どうにかしたいお荷物」から解放されたくても、
少しでも節約したいミラノの商人たち以外に
頼める相手がいなかったのだとしたら、
どうでしょう?

インテルにヴェロンが来たと思ったら、
ほら、ACミランにクレスポが来るとも
言われているではないですか。



この無償貸与が吉と出るか凶と出るか?

1年間の無償貸与でチェルシーの得になることと言えば、
契約金はもらえないけれど、とにかく少なくとも1年間は
ヴェロンへの高い給料を払わずにすむ、
ということなのですよ。

こういう形で放出された選手が
環境が変わることで見事に生き返ることも、
ままありますので、
その移籍は吉とでるか凶とでるかの
賭けであるのは事実です。
その意味では、ヴェロンにせよクレスポにせよ、
このふたりの移籍が「賭け」を意味しているのは明白です。

持ち金の少ないミラノの商人たちにとっては、
契約金なしで済むこの賭けにでるしかないのです。

ぼくは、このふたりのアルゼンチン人選手の
技量を疑いたいのではありません。
彼らが、
チェルシー会長でサッカー・マニアのロシア人、
アブラモヴィッチに、
彼らの貸与を後悔させるであろう可能性を願っています。
たくさん活躍してくれる可能性は十分にありますから。

ぼくが特に言いたかったのは、
イタリアと外国の企業どうしの関係が、
金銭的にどう変化したかということなのです。

ヴェロンとクレスポの貸与は「賭け」であり、
賭け事は面白いものです。が、しかし、
賭けが重なると、先で待っているのは、
すべてを失うという「危険」です。


訳者のひとこと
私がこのコラムの翻訳を始めてから、
まだ2年弱ですが、
状況が刻々と変化しているのが分かります。
チェルシーを買収したアブラモヴィッチについて
フランコさんが初めてふれたのはちょうど1年前、
2003年7月14日でした。
サッカー業界も、ひとつの大きな生き物
なのですねえ。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2004-07-12-MON

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