フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ロベルト・バッジョの最後の青。

美しさを愛し、
自分の美学を追いつづけたチャンピオン、
そう、誰あろうロベルト・バッジョが、
イタリア・ナショナル・チームの一員として
アズーリのシャツを着る最後の日が、
4月28日水曜日と決定しました。

ロベルト・バッジョが
今期を最後に引退すると宣言したことは、
みなさんにもお知らせしましたね。
その彼が、またアズーリのシャツを着るのです。
そしてこれは彼がアズーリのシャツを着る
最後の試合になるはずなのです。

チャンピオンというものは、
しばしば、才能の総てを使い果たしてでも
自分の美学を守ろうとします。
バッジョも、そのひとりです。
その日、ジェノバの
フェラルシ競技場に集まった人々は、
ひとつの「美」を堪能することになるでしょう。
それは道徳的なモラルよりも美しく、
学問的な美学が足もとにもおよばない「美」です。
バッジョは、彼の美学の集大成を
見せてくれることになるでしょう。

アズーリ色は美しい空の青であり、
海の、つまり命の源の色です。
それはまた、
サッカーにおける幸福を表す色です。
──アズーリ色のシャツを着ることで
よりいっそう生き生きと
自分たちのアイデンティティを認識する
イタリア人にとっては、なおさら。

そして、
ロベルト・バッジョが、
ここしばらくの間このシャツを着ていなかった彼が、
再びアズーリ色に包まれてプレイします。
彼のアズーリ色との旅は
ここに完結し、「永遠」となります。



思い出す、1988年の秋の日を。
彼が初めて青色のユニフォームを
着た日のことを。


彼が愛し続けたこのシャツを着ての最初のゲームは、
ローマにおけるオランダとの対戦で、
1988年11月16日のことでした。
彼はこのゲームで一躍その名を
世界の隅々にまで、知らしめました。

バッジョは、この30年間の
「最も優れた選手たち」の中には入りません。
そこには入れられません、なぜって
ロベルト・バッジョはそれ以上に別格の
「サッカー選手そのもの」なのですから。

とにもかくにも、そして、どこに居ようと、
彼は常にアズーリのシャツを着た
偉大な主役であり続けました。

彼のアズーリ色へのデビューから2年後、
1990年のW杯イタリア大会では、
彼のプレイはいよいよその本領を発揮し、
世界を魅了しました。

当時のイタリア・ナショナル・チームは、
彼と同様にまだ若く輝いていました。
当時現役の世界チャンピオンであった
アルゼンチンに比べれば、
まだまだ経験が浅かったイタリアは
準決勝で破れてしまいましたが、
なんとか3位を獲得できた大きな要素のひとつに、
バッジョのプレイがあったことは否めません。

その4年後のW杯アメリカ大会の時には、
彼はサッカー選手として更に
偉大になっていました。

実はこの時、
イタリアはアメリカでの本戦にたどり着くまでに、
大変に苦労しました。
アメリカに着いた時にはすでに
筋肉はパンパンに固まり、
息も絶え絶えというくらいに苦しんだのです。
バッジョの勇敢さだけが選手や我々に希望を与え、
イタリア・チームを決勝戦にまで導いてくれたのです。
ですから、優勝をかけたPK戦で
まさかのミスを犯したバッジョを、
だれも責めることはできませんでした。
ブラジルに勝利をもたらすことになった
ミスのなかでも決定的に痛いミスでしたけれど。

みんなが彼に言うだろう。
「ありがとう」と。


その更に4年後、
フランス大会でもロベルト・バッジョは
まだまだ偉大な主役でした。

アズーリの当時の監督だった
チェザレ・マルディーニは、
その時はベスト・コンディションではなかった
アレッサンドロ・デル・ピエロに固執していました。
一方、プレイにひらめきを見せたバッジョの活躍は、
素晴らしいものでした。

2002年の日韓共催のW杯には、
残念ながらバッジョは召集されませんでした。
でも、
最後には韓国によって敗退する悲劇にいたるまでの
イタリアの苦戦ぶりに、
「バッジョが居てくれたら」と悔しがり、
彼の不在ゆえに、
より懐かしく彼を思いおこした人が
たくさん居たはずです。

2002年のW杯にはバッジョを呼ばなかった
ジョバンニ・トラパットーニ監督ですが、
4月28日の対スペイン戦には
彼を召集することを決めました。

トラパットーニはこう説明しています。

「イタリア・サッカーに多大な貢献をした
 チャンピオン中のチャンピオンである
 ロベルト・バッジョの大いなる才能を、
 もう一度みんなの目に焼きつけておこうと思うのです。
 これが、彼がアズーリのシャツでプレイする
 最後の試合になるでしょう。
 フィナーレでは総てのイタリア人が、
 ──まずもってこの私が彼に、
 ありがとう、と言うつもりです。
 ありがとう以外の言葉はありません。
 ただ、シンプルに、ありがとう、と」

トラパットーニは正しいと、
僕は思います。
僕らがロベルト・バッジョに言えるのは
「ありがとう」です。
ミスター・バッジョ、ありがとう!!
ミスター・サッカー、ありがとう!!
Grazie Mister Calcio!!


訳者のひとこと

フランコさんは、ジャーナリストという
現実的な仕事をなさっていますが、
実は詩人になりたかったロマンチストなのです。
そして、バッジョの話になると、
俄然、詩人魂が目覚めるらしいのです。
なにが翻訳しにくいかと言って、
「詩」ほどむずかしいものはありません。
今回は詩的な文章を訳すのが大変でした。
フランコさんの「美学」を
傷つけないように気を配ったつもりですが、
あまり抽象的になっても読みにくいし・・・
訳者のひとこと、ではなくて、
訳者のいいわけ、でした。

(追記)
バッジョは4月25日日曜日の
対ペルージャ戦の前半戦で
脚を傷めたそうです。
「大した事はないと思いますが」
との解説をネットラジオで聞きました。
詳細はわかりませんが、
水曜日の対スペイン戦出場を危ぶむ声も
出ているようです。

翻訳/イラスト=酒井うらら

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2004-04-26-MON

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