フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

インテルは危険な愛人。


ユベントスやミランを熱烈に愛することは、
イタリア人にとって、
自分の恋人や伴侶を愛するのと似ています。
目下のイタリア・チャンピオンチームのユベントス、
ヨーロッパチャンピオンのミラン、
どちらも熱烈に愛する(応援する)のに
ふさわしいチームですからね。

そう、サッカーも人間も、
小さい気遣いから大きな優しさまでの
深い愛情と、全幅の信頼をもって、
時間をかけて築くものです。

ところが、インテルを熱烈に応援するとなると、
がらりと意味がかわってしまいます。

インテルは「信頼できる恋人や伴侶」とは
言い難い存在です。
インテルは、あなたに自分のほうを向かせ、
誰かから強引に引き離し、
あなたの愛人に納まってしまう、
魔性の女のような存在なのです。
彼女に惹き付けられたが最後、
どんなに理不尽だとわかっていても、
あなたはもう止むに止まれぬ情熱で
彼女を愛するしかないのです。

ティフォーゾ(熱狂的サポーター)の多さでは
ユベントスが一番。
強さから言ったらヨーロッパ・
チャンピオンズ・リーグ優勝のミランが
今のところ最強でしょう。
けれどもイタリアサッカーの旬の話題と言えば、
インテルです。
多くの新聞の見出しや主要テレビ局の番組が
インテルに独り占めされている
今日このごろなのです。

「モラッティさん、お帰りください」


インテルは1965年からこちら、
ヨーロッパのチャンピオンになれないどころか、
イタリア国内でさえ1989年を最後に優勝はしていません。

にもかかわらず‥‥!
にもかかわらず、いつも話題の中心なんです。
自分の歳も忘れて舞台の主役でありたがる
無声映画時代の(ちょっと古過ぎですか?)
銀幕の女王みたいです。
インテルの場合は銀幕ではなく
イタリアサッカー界が舞台なわけですが、
そこの主役でいたいようです。
悲劇や喜劇、嘘もドラマも演じられる「舞台」でね。

僕が先週ここで報告したように、
インテルのマッシモ・モラッティ会長は
クーペル監督を解任し、
ザッケローニを新監督として迎えました。
その一方で、選手のひとり、
カロンがドーピング検査で陽性という結果がでるなど、
インテルは不祥事続きです。

先日のローマとの試合の前から、
モラッティ会長はティフォーゾたちに
激しく突き上げられていました。

そして試合当日、観客たちはスタンドに
「モラッティさん、お帰りください」
という意味の言葉が書かれた横断幕の数々を
張りめぐらせていたのでした。

モラッティ会長はこれらの横断幕を見て、家に帰りました。
そして、試合を家のテレビで見たのです。
イタリア屈指の金持ちで「インテル会長」だというのに‥‥



この3日後、インテルの今年度の株主総会が開かれ、
企業としての決算が公表されました。
世論は、彼が辞任するだろうと予想していました。

株の12%を持っている、タイヤで有名なピレッリの
トロンケッティ・プロヴェーラ社長のような大企業家か、
ヨーロッパのテレビ業界の富豪である
ロバート・ムルドクなどに、
インテルが売り渡される可能性もささやかれていました。

ところが、どうしてどうして、
モラッティは踏ん張りました。
異議を唱える声にも、
インテルを手放すという誘惑にも耐えたのです。

むしろ彼は断固、
あらゆることを敵にまわしても
インテルに残るという、
その意志を固めました。

モラッティ一族の名を汚す???


モラッティ一族というのは、イタリアでは大変な名家です。
彼、マッシモの妻は政治家でもあります。
その他、イタリア石油業者会の会長であるジャンマルコや、
映画や舞台で活躍する有名な女優のベーディ、
ベルルスコーニ政権の教育相であるレティツィアなど、
家族親類縁者には偉大な成功者たちが名を列ねています。

マッシモが、今このぼろぼろのインテルに
留まるということは、
この偉大な「勝ち組」の系譜に
決闘状をたたきつけるほどの
暴挙と言えるかもしれません。

10月29日、運命の水曜日、彼は辞任しませんでした。
彼は2500万ユーロをはたいてインテルの借財を返済し、
インテルを上位に引き上げる為ならもっと多くを、
喜んで支払おうじゃないかと宣言しました。

それで、インテル自体は今のところ階級的にもぱっとせず、
ユーベやミランには程遠いにもかかわらず、
まさに試合中の試合とも言うべき
ユーベ対ミラン戦の三日後の
10月29日の各新聞は、彼ひとりのために
その紙面をさきました。

ガゼッタ・デッロ・スポルトという
イタリアで最重要なスポーツ日刊紙は第一面の見出しに
力強くこう書きました。

「モラッティ残留、続投!!」

長いこと低迷し、勝てないでいるインテル、
イタリア中で最も欲求不満な
ティフォーゾたちを抱えるインテル、
すべてを超えて止むに止まれぬ情熱を集め得るその魅力、
これこそが、危ない愛人そのものみたいだと、
僕は思うのです。

訳者のひとこと

‥‥‥‥。
殿方のお気持ちのことは
私にはよく分からんです。
それがイタリア人であろうが、
日本人であろうが・・・。
そういうわけで、今週の
「訳者のひとこと」はパス!!

翻訳/イラスト=酒井うらら


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2003-11-03-MON

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