フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

Ricardo Izecson Dos Santos Leite,
彼の名はカカ。



ラテン系人種というのは、面倒くさがり屋が多いんです。
そして彼らを生かしているのは
「愛とファンタジー」という、
実体があるようなないような、そんなものばかりです。
中でも飛び切りのラテン系を地で行くのが
ブラジル人だと、僕は思うのです。
ということは、彼らの「面倒くさがり」も大したものです。

だって、彼らは人の名前を呼ぶのも
面倒臭いらしいんですよ。
まず、長い名前は嫌いです。
これがまた、ブラジル人の名前は
長いのが多いときてますから、
「呼ぶのに時間がかかるよ、
 話が長くなるし疲れるし‥‥」
というわけで、ながーい名前は見事に縮めます。

たとえば
Edson Arantes do Nascimentoという
本名で呼ばれることはまずないであろう、
サッカー史上に名を残す有名な選手がいます。
この名前は「ペレ」と縮められて
誰からも愛されています。
(「縮めて」というには原形すらとどめていませんが)

Arthur Antunes Coimbraと聞いて
誰だかすぐ分かる人は通ですね。
でも「ジーコ」と言えば
世界中で知られている名前でしょう。
そう、みなさんのナショナルチームの監督ですよ。

この先10年の、
ミランのシンボルだ!


さて、数キロメートル級の長さの
名前を持つ人物がいます。
その名はRicardo Izecson Dos Santos Leite、
今日は彼の話をしましょう。
彼はイタリアのサッカー界に燦然とかがやく、
新しく、そして、僕らの目を覚ましてくれるほど
明るい星なのです。

イタリア・リーグでは、
同じ街に属するチームが対戦する試合を
特別に「ダービー」と呼びます。
セリエAのチームを
ふたつ持っている街は少ないので、
大変に盛り上がる試合なのです。

そして、伝統あるミラノ・ダービーが先日行われました。
対戦は、もちろんミランとインテルです。
「彼」はこのダービーに出場していました。
誰も彼の本名を覚えてはいなかったと思いますが、
試合が終った時に「カカ」の呼び名を知らない人は、
もう、いなかったでしょう。



彼はまだ21才ですが、
昨年のW杯ではブラジルチームの一員として、
世界チャンピオンの座につきました。
もっとも、日本と韓国と両地で行われた試合に、
合わせても40分くらいしか出場しませんでしたけどね。

ともかく、10月5日、
日曜日のこのミラノ・ダービーでは、
カカは驚異的なプレイを見せました。
たった90分、つまりたった一試合で、
彼は所属するミランのティフォーゾ(熱狂的サポーター)を
虜にしました。
ティフォーゾたちがカカを
「完璧なアイドル」に選んだほどです。

この試合で彼はゴール1本を決め、
もう1本のゴールのアシストをしたのですが、
そのプレイは彼の才能の大盤振る舞いという感じで、
最高レベルの見せ場は彼が作りました。



ミランのティフォーゾたちは、
こういう選手を何年も待っていたのです。
スキアッフィーノとリヴェーラという、
ついに赤黒縦縞のミランのシャツを着ることのなかった、
2人のずば抜けたミッド・フィルダーたちを
再現してくれるような選手を。

優雅な走り、ボールへの柔らかく確実なタッチ、
味方のフィールド内で見せる幾何学的なセンス、
敵のペナルティー・エリアで圧力を受けた場合の
自由な発想‥‥
事実上、カカひとりでインテルを
粉砕したと言って良いでしょう。

しまいには、この若い才能に、
チャンピオンの揺るがない風格を保つ
ブラジル・サッカーが
新たにもたらしたこの星に、
敵さえも喝采を贈っていました。



ミラン会長でありイタリア首相である、
かのシルヴィオ・ベルルスコーニ氏も観戦していました。
彼は興奮しきってテレビでこう言いました、
「カカは、この先10年のミランのシンボルだ!!」

ミランは、自分たちがミラノで一番のチームであり、
インテルとは一線を画したと自負しています。
自分達は「サッカーの正しいプレイ方法」を
表現しているのだと、
ミランのほうが裏付けた格好です。

インテルのサッカーは「走り」と「努力」が中心です。
想像力にはあまり重きをおきません。
「夢」や「楽しむこと」の入り込む余地は
少ないということです。

反対に、ミランは楽しみながら、
選手ひとりひとりのイマジネーションを生かしながら、
試合を勝ちに行きます。

10月5日のミラノ・ダービー、対インテル戦で、
ミランはディーダ、セルジーニョ、カフー、カカの
4人のブラジル人選手を配置しましたが、
これは「やみくも」にそうしたのではありません。
ラテン系のなかでも、
とりわけ「愛とファンタジー」に敏感なのが
ブラジル人なのですから。

「楽しむこと」は
サッカーの重要な要素のひとつですから、
ブラジルを通してとはいえ、
ミランが選択したこの道は正しいと、
僕も思います。

訳者のひとこと

フランコさんに
「じゅげむじゅげむ」を教えて差し上げようと
思っております。

新聞の見出しは
「50日でミランを惚れ込ませたカカ」
「カカルチョ・スペクタクル」
Kakalcio=Kaka'+calcio(サッカー)
カカルチョ‥‥
定着しそうな造語ですね。

翻訳/イラスト=酒井うらら


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2003-10-13-MON

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