フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

イタリア・サッカー界で話題の
ふたりの人物のこと。

こんにちは、フランコです。
試合のない季節、
イタリアはまだカルチョ・メルカート
(サッカー・マーケット)の話題で賑わっています。
メルカートでの選手の移籍話が
面白くってしょうがないんです。
「試合さえなければ、
 サッカーはいちばん素敵なスポーツだね」
なんて人までいます。
「ドキドキしちゃって、試合なんて見てられないからね」
ですって。もちろんジョークです!
なにはともあれ、この時期は
試合とはまた別の夢が見られる季節なんですよ。

泣きながら会見したルチアーノ君。


ここのところ、
サッカー界の耳目を集めているふたりの人物がいます。
ベッカムほどのスーパーチャンピオンでもなければ、
お騒がせイタリア首相のベルルスコーニほど
有名でもないふたりですけれど、
僕らイタリア人の興味は、
目下このふたりだけだけに集中していると言っても
いいんじゃないでしょうか。

ひとりはブラジル人で、ルチアーノ君といいます。
もうひとりはロシア人で、
ローマン・アブラモヴィッチといいます。
ではまずルチアーノ君のお話から‥‥。

話は、1年ちょっと前にさかのぼります。
エリベルト・ダ・コンセイカオ・シルヴィオ
(長い名前ですね)という選手が、
キエーヴォでプレイしていました。
1979年1月21日生まれの彼は、
大変に素早い左ウィングの選手で、
カンピオナート(イタリア・リーグ)の
新星と言われていました。

彼は、抜群のキャリアを
着々と進めているように見えました。
インテル、ミラン、ユベントスといった大きなチームも
彼を欲しがるほどでした。
ブラジルのナショナルチームも彼を招聘するらしいぞ、
と噂されるまで、話はとんとん進みました。

夢のような成功談です。
でも夢っていうのは、朝、起きたら、
覚めちゃうんですよね。

そう、まさにある朝のこと、
エリベルトは自分の夢に自分で終止符を打ちました。
会見を開くと言って記者達を集めたのです。
そして‥‥彼の口から出た言葉に、
さすがの記者たちもびっくり仰天したのでした。

「僕の名前はエリベルトではありません。
 1979年生まれでもありません・・・」

ここまで言うと、彼は泣きはじめました。
涙ながらに彼が言うには、

「僕の本当の名前はルチアーノ、
 1975年生まれなんです」


とのことでした。
そう、これが今、イタリアの話題のひとり、
ルチアーノ君です。

本名はLuciano Siqueira De Oliveira
(ルチアーノ・シクエイラ・デ・オリヴェイラ)、
これまた偽名より長い名前‥‥。
彼はイタリアに来たいばっかりに、
いろんな書類を偽造して入国したというのです。
そして、そのことをとても後悔している、と。
(なんでそんなことしたんだか‥‥)

「このことの重みが、いつも胃をきりきりさせるんです。
 怖かったんです。ばれたらどうしようと思って。
 だから、ばれる前に白状しようと・・・」


そう言いながら、彼はまためそめそと泣きました。

ジャーナリストの僕も、さすがにびっくりです。
そんなことが本当にできるものでしょうか?!
理解に苦しみますよねえ。



とにかくイタリアは、国として、
偽造書類で入国した彼を追放せざるをえませんでしたし
サッカー・フェデレーションも、
彼を出場停止処分にしました。

やがて処分の期間が過ぎ、彼は本当の名前、
ルチアーノ(こんどこそ本名なんでしょうか?)として
キエーヴォにもどってきたのでした。
(よかった、よかった)

ルチアーノとしての彼と、
エリベルトとしての彼の歳の差は4才ですが、
もどってきた彼は、なんだかもっと老けて見えました。
本当につらい思いをしたんですねえ。

でも彼が優秀であることには変わりありません。
「エリベルト」時代に彼を欲しがった大チームのひとつは、
彼が「ルチアーノ」だとしても欲しい、と言いました。

その大チームとは、インテルです。
彼は来期はインテルの一員になります。
もっともインテルでは、
「エリベルト」のまんまで、いいんじゃないか、
そのほうが4才若いってことになるし、
という冗談も飛んでいるらしいですけど。
来期、日本にインテルの試合が中継されることがあったら
ぜひ「エリベルト」君がいるかどうか
注目してくださいね。

富豪のロシア人、サッカーチームを金で買う。


さあ、メルカートを活気づけている
もうひとりの話をしましょう。
ローマン・アブラモヴィッチなる人物です。

ロシア人の彼は、フォーブス誌の世界長者番付によると、
世界第41位の金持ちです。
そして、熱狂的なサッカーマニアでもありました。

ものすごい資産を持つ、サッカーマニアのおっさんが
したいと思うことは何でしょう?
そう、それは、サッカーチームを持つこと、です。

彼はまずロンドンに行き、
あっというまにチェルシーというチームを買収しました。
それから周りを見渡して、
世界中にむかってお金をばらまき始めました。
(正確に言うと「ばらまこうとし始めました」ですが)
優秀なスター選手獲得のために、ね。

手始めに、レアル・マドリードに対して
ロナウドの値段をたずねました
が、
返事はもらえませんでした。
めげない彼は(いや、ものすごく真剣な彼は!)
バイエルン・ディ・モナコにはバラクを要求し、
ミランにはネスタのために大金を提示しました。
ミランは、レアルとは違って、彼に返事を送りました。
そこには素っ気なく「ノー」とあったそうですが。

まだまだ続きます。
インテルにはヴィエリを、
パルマには中田とムトゥーを要求し、
これまた大金を提示しているようですが、
どうも成果はなさそうです。

金額の問題ではなくて、信用の問題なんです。
今のところ、誰も彼を信用していないんですね。

でも、まだわかりませんよ。
数週間のうちに、イタリアの企業は経営の申告のために
収支の帳じりを合わせなければならないのです。
そう、収入がほしいわけです。
帳簿をながめて、誰か偉い人が考えを変えるかもしれません。
多くのサッカーチームが赤字に苦しんでいますからね。
アブラモヴィッチ氏に散財の幸せをプレゼントするチームが
出るかもしれません!
(でも、やっぱり出ないかもしれません)
そんなふうにスターが集まったチーム、
見てみたいような見たくないような。複雑です。

というわけで、
ルチアーノ君の活躍はいかに?
アブラモヴィッチ氏に金で選手を売り渡すチームはどこ?
その選手はだれ??
などなど、イタリアのサッカー・ファンが
楽しんでいるのがこの季節、
メルカートの季節なのです。

訳者の一言

訳しながら笑ってしまいました。
記者会見での記者のようすが
目に見えるようです。
有名な、マンマ ミーア!!
Mamma mia!!
(なんということだ!!)
は、こういう時にこそ使います。
イタリア人も、
あっけにとられると
「開いた口がふさがらない」
ということになります。
restare a bocca aperta
(開いた口のままいる)
お店などに「APERTO」という
札がかかっていたら、
営業中という意味です。

翻訳/イラスト=酒井うらら


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2003-07-14-MON

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