フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

モラッティvs.ベルルスコーニ
因縁、続報。
(UEFAチャンピオンズ・リーグ準決勝戦)

カルチョ(サッカー)を一言で言い表わすとしたら、
なんと言ったら良いでしょう。

「スポーツである」
まあ、間違いではありません。
「スペクタクル・ショーである」
たしかにそう。でもそれだけでもありませんよね。
「ただのビジネス」
それは悲しすぎますよ。

じゃあ、何?と聞かれたら、
サッカーとは「感動」であると、
僕は答えたいです。


ロナウド、雪辱を半分果たす。


ヨーロッパで一番のクラブ・チームを決める
UEFAチャンピオンズ・リーグの準決勝戦では、
イタリアのサッカーは
まさにこの感動にあふれていました。

4強チームのうち3チームがイタリア勢でしたから、
最低でも1チーム、
うまく行けば2チームが
決勝に進むという計算です。
イタリアチーム同士の決勝戦!!
考えただけでもドキドキです。
おっと、落ち着きましょう、
まだそうと決まったわけではないのでした。

さて、先に試合にのぞんだのはユベントスです。
場所はマドリードにある
サンティアゴ・ベルナベウ競技場です。

ロンドンのウェンブリー競技場が
なくなってしまいましたから、
スペインの首都にあるこの競技場は、
今や世界サッカーの「聖地」と言えるでしょう。

ユベントスを待ちうけていたのは、
ロナウドのいるレアル・マドリッドです。

ロナウドがまだイタリアでインテルの選手だったころ、
イタリア・チャンピオンのタイトルを2回、
1998年と昨年、
のがしていることは、先週も書きましたね。
勝利者の印「スクデット」を手にする満足感を
彼から奪ったのは、
2回ともユベントスだったことも。

ですからロナウドにとって、準決勝第1試合、
ユベントスと対戦する5月6日水曜日は、
雪辱をはたすべき日でもあったのです。

イタリアの諺に曰く、
「復讐とは冷ました状態で出すべき料理である」
(これに似た諺は世界中にあるんじゃないでしょうか)

つまり、復讐は急いではならない、
冷静に沈着に果たすべし、
ということですね。

ロナウドは待ちました。
この日が来るのを長いこと待っていました。
そして因縁のユベントスに立ち向かい、
見事に勝利をおさめたのです。

彼は超絶ゴールを決め、
第1試合は2ー1でレアル・マドリッドが
勝ちました。

ああ、でも運命のいたずらが、
ロナウドを苦しめ続けていた運命のいたずらが、
またもや間髪を入れずに彼を襲ったのです。
負傷してしまった彼は、
第2試合には出られないでしょう。

この日、この試合を見守っていた
全マドリッドの人たちは、
ロナウドのドラマの背景を知っていました。
まだ若く並外れて優秀なこの青年が、
運命のいたずらに弄ばれるかのように退場していく姿は、
何十万人もの人の涙を誘いました。
かわいそうなロナウド、
僕らと苦しみを分かち合おうね、と
誰もが言っているようでした。


インテルvs.ミランの行方は?


ロナウドの雪辱が半分しか果たせなかった一方で、
もうひとつの準決勝戦に挑んだインテルの
マッシモ・モラッティ会長の燃える思いたるや、
これまた筆舌に尽くし難いものでありました。

対戦相手は、同じミラノのチーム、ミランです。
会長はシルヴィオ・ベルルスコーニ。

この2チームのライバル意識については
何回か書きましたから、
皆さん、もうご存じでしょう。
宿敵という言葉は、この2チームのために
あるようなものです。

インテルのマッシモ・モラッティ会長は
イタリアきっての大石油業者、
ミランのシルヴィオ・ベルルスコーニ会長は
イタリア共和国首相ですよ。
このふたりの強烈なライバル同士は、
ミラノのサン・シーロ競技場のVIP席で、
ほとんど手の届きそうなくらい近くに座って、
この試合を観戦しました。

彼らの間には、もちろん友情なんかありません。
少しは相手に敬意をはらっているかというと、
これも論外と言ってよいでしょう。
政治的にも大きな距離があります。
(ベルルスコーニ首相を支持しているインテリは、
 イタリアにはほとんど居ないと思いますが)
ともかく、このライバル関係はサッカー上に留まらず、
あらゆる場に及んでいるのです。

同じ市に属する2チームが対戦する時、
これを特別に「ダービー」とイタリアでは呼んでいますが、
今年のダービーでは、
ベルルスコーニ会長のミランが3勝しています。
カンピオナート(イタリア選手権)で2勝、
親善試合で1勝、とね。

それでインテルのモラッティ会長は、
心中穏やかではないのです。
この準決勝戦では、ぜひとも勝ちを
取り戻したいことでしょう。

第1試合は、テクニック面から見れば
大した事はありませんでした。
でも、この感情的側面から見たら、
緊迫度は抜群でした。

心臓の弱いかたには、お薦めできないくらい。

すでにイタリア国内では、
カンピオナートの「スクデット」を
トリノのユベントスに持っていかれているんです。
UEFAチャンピオンズ・リーグでも負けたりすれば、
見放されるリスクは両チームともに背負っています。
両チームの監督にとっては、
クビを賭けた背水の陣なのです。

第1試合の結果は0ー0。
両者ゆずれないのは分かりますが、
誰もが「あーあ」とがっかりしました。
両監督にとっては、第2試合まで
苦しみが1週間のびただけという、
お気の毒な結果です。

この決戦の結果は1週間後に決まるのですが、
決まったからといって
ライバル関係が終るわけではありません。
単に一試合に負けただけ、
で終らないのがこの2チームの宿命です。

監督のアンチェロッティ対クーペル、
それ以上に会長のベルルスコーニ対モラッティ、
彼らの果てしなき闘いは延々と続くのです。

訳者の一言
急いては事を仕損じる・・・が、
日本の諺では近いんでしょうか。
「復讐」という強烈な言い方は
日本ではあまりしないですね。
江戸の仇を長崎でうつ、にしても
「あ、こんなところで、できちゃった」
みたいな、おおらかさがある気がします。
肉食と草食の違いか・・・?
翻訳/イラスト=酒井うらら


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2003-05-12-MON

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