フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ベルルスコーニ、政治とサッカーのジャッジ

「権力は、それを持たない者を疲弊させる」

これは、第2次大戦後のイタリアに最も大きな足跡を残した
政治家、もと首相のジュリオ・アンドレオッティが残した、
いまや「格言」ともなっている言葉です。

現イタリア首相のシルヴィオ・ベルルスコーニは
この「格言」にのっとり、ちゃくちゃくと、
それもやすやすと、権力を積み上げてきました。
(驚きです!!)

札でほっぺたをたたくベルルスコーニ


ベルルスコーニはイタリア政府首相であり、
サッカーの最大の人気チームである
ミランの会長でもあります。
また、出版社とTVネットワークのオーナーでもあります。
彼の地位はその経済力を背景にしてもぎとったんだ、
という人もいます。
それだけの人物ならさぞや尊敬を集めているんじゃ、
と、みなさん、お思いでしょう。とんでもない。
ベルルスコーニは、とくにミラン会長としては、
ほめ讃えられているかというと、そうでもないんです。
ミランのイベントに顔を出しても
ティフォーゾたちからは、あまり歓迎されていません。

「事を人にまる投げして
 自分はのうのうとしている」
とも言われているんですが、ミランに関しては、
なんでも人任せ、というのはちょっと違いますね。
むしろ口を出しまくっています。
彼の自慢は、ずいぶん前にアマチュアチームの
「エディナルド」を鍛え上げたということなんですが
プロのミランについても同じだと考えているのか
断定的な調子で口をはさんでくるんです。
口というか、金というか。
金持ちですから、あの選手が欲しい、となったら
自分の小切手を切っても契約にこぎつけます。
札束でほっぺたをたたいて、という感じ。
去年フィオレンティーナから
ルイ・コスタを買い取ったのも
彼個人でした。
チームの財政に負担はかけていない、文句あるか、
ってことでしょう。

ティフォーゾのひとりとして
ミランにプレゼントをしたんだ、ってね。

アンチェロッティ監督、ピンチ!?


で、今年もやってくれました。
ブラジル人のリバウドを買い取ったときには、
報酬の新記録(日本円にして日当4百万円以上!!)で
雇い入れました。

試合を観るときには、外国政府の要人を招待して
一緒にきたりします。
UEFAチャンピオン・リーグの
対ボルシア・ドルトムント戦には
ドイツの要人を連れて、といった具合‥‥。
そして試合後のインタビューには、
ミランのプレイ方法にまで口を出す始末。
(金は出しても口は出さないほうが
 かっこいいのにね。)

その会長の思惑と最近ぶつかってしまったのが、
カルロ・アンチェロッティ監督です。
危ないなあ、と思います。
シーズン終了時にはクビにされかねません。
ここ数年のうちにあいついでミランを去った
ザッケローニやテリム両監督の場合と、
まったく同じ展開にならないといいんですが・・・
彼らもベルルスコーニの助言を尊重しなかったということで、
クビになりましたからね。

アンチェロッティはシーズンのはじめのころ、
ベルルスコーニが望んだような
アタッカーを使いませんでした。
ベルルスコーニは、勝利のためには、
ふたりのアタッカーを希望していましたが、
ラツィオ戦とアトランタ戦においては、
前半でこのふたりの内のひとりしか出ておらず、
ミランはまけていました。
2試合とも、
後半にもうひとりのアタッカーを入れることで
ベルルスコーニが望んだように劇的に試合がかわりました。

アンチェロッティにしてみれば、
いつ誰を使うかの采配が
あってのことだったんでしょうが
ベルルスコーニの助言を尊重しなかったという事実は
残ってしまいました。


金を出すもの、口も出す。


ただ、ベルルスコーニの不満も
まったく訳の分からないことではなく、
カンピオナート(イタリア・リーグ)で
ミランはユベントスに大きく遅れをとっていますから、
がっかりもしようというもんです。

あんまりがっかりしたので、
ベルルスコーニは記者たちを集めました。
そして、この時期にイタリア共和国首相が
記者たちを前に何を言ったか。
イラク戦争におけるアメリカを、イタリアが何故また
どのようにして支援するかの演説?
そうではありませんでした。
ミランは何故、またどのようにして試合を楽しみ、
勝利をあげるべきなのかについて熱弁をふるったのでした。
(やれやれ、これが一国の首相です)

イタリア首相でありミラン会長でもある
彼の演説はこうでした。
「わがチームの監督であるアンチェロッティ氏は、
 インザーギならびにシェフチェンコ選手を
 いかに活躍させるかを認識すべきなのであります。
 この偉大なる両選手をもって敵の防衛力を混乱に導き、
 その隙をついて我らのミッドフィルダーを
 敵の陣営に進めてこそ、
 勝利のゴールを打ちこめるのであります。
 これが唯一の勝利への道なのであります」

名指しを受けたカルロ・アンチェロッティ氏は、
大変に優秀な監督ですが、
監督である以前に、ひとりの賢い人物です。
2005年6月に契約が切れるまでは
クビになりたくないでしょう。
高額な給料を棒にふるよりは、
その給料をくれる会長に
意見をすり合わせたほうが良さそうです。

イタリアでは金を出す者は口も出すんですねえ。
(日本でもそうかな?)

なんたってベルルスコーニは一国の宰相です。
大臣たちだって「へへーっ」と命令に従うんですから、
たかが監督ごときが逆らえばどうなるか・・・
(イタリアは民主主義国です、お忘れなく!!)

「権力は、それを持たない者を疲弊させる」
そう、ベルルスコーニが持っているのは、まさしく権力。
ぼくらはくたくたに疲れています。

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おわびと訂正(フランコさんより、4月15日記)

こんにちは、フランコです。
お恥ずかしい、最初に書いた原稿に
15日、訂正を入れさせていただきました。
最初に僕が書いた原稿に
こんな文章がありました。

アンチェロッティはシーズンのはじめのころ、
ベルルスコーニの大のお気に入り、
ウクライナ人のシェフチェンコを
あまりプレイさせませんでした。
彼をベンチに座らせたままで、
もうひとりのアタッカーばかりに
プレイさせていました。

アンチェロッティにしてみれば、
いつシェフチェンコを使うかという
考えがあってのことだったんでしょう。
たとえば対ラツィオ戦では、
前半に2ー0で負けていたところ
後半にシェフチエンコを入れて同点に追い付かせ、
サン・シーロ・スタジアムでの対アトランタ戦でも
前半3ー0と離された時点で彼を入れて、
やはり同点にもちこみました。

これにたいし、熱心な読者のRoxyさんから、
このようなご指摘のメールをいただきました。

>4月14日にアップされたコラムの中で、
>ラツィオ戦で後半から投入されて、
>同点に持ちこんだゴールと
>アシストを決めたのはインザーギです。
>また、アタランタ戦では
>シェフチェンコは召集自体されてませんでした。


Roxyさんの言った事がただしいです。
ご指摘ありがとうございました。
お詫びいたします。

ベルルスコーニは、勝利のためには、
ふたりのアタッカーを希望していましたが、
この2試合においては、
前半でこのふたりの内のひとりしか出ておらず、
ミランは負けていました。
ラツィオ戦とアトランタ戦では
後半にもうひとりのアタッカーを入れて、
ベルルスコーニが望んだように劇的に試合がかわりました。
残念な事に、ぼくは彼らの名前を混同しました。
ラツィオ戦ではシェフチェンコは前半から出ており、
後半にインザーギが入ってゴールも決めました。
アトランタ戦ではインザーギが前半からプレイしており、
後半には怪我をしていたシェフチェンコではなく、
もうひとりのアタッカー・トマソンが入りました。
ベルルスコーニが望んだように
アタッカーを使っていなかったという意味では
同じことなのですが、名前を間違えました。
恥ずかしく思います。
ほぼ日と、サイトの訪問者のみなさんにお詫びいたします。
本当に申し訳ありません。
ゴメンナサイ(Gomennasai)

フランコ・ロッシ Franco Rossi

訳者の一言
これはまた、絵に書いたような
「なんでだろう」現象がイタリアに
起きているということですか?!
自由を愛するイタリア人が金と権力に
身売りしたらどうなるか、想像できません。
ローマ帝国の末裔たちは
この難局にどう立ち向かうんでしょうか・・
したたかに乗り越えるんだろうな。
翻訳/イラスト=酒井うらら


フランコさんのくわしいプロフィールはこちら、

フランコさんのホームページはこちらです。(日本語もあるよ!)

2003-04-14-MON

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