フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

あらためて、ロナウドの譲渡について、
モラッティ会長へのインタビュー。


ミラノでは、何ということかインテルのファンたちが、
夢見ることを止めてしまいました。

先日ロナウドが、ヨーロッパの最優秀選手として
フランス・フットボール誌から金のボール賞を受け、
世界で最も偉大な選手として
FIFAプレイヤー賞も受けました。
しかし彼は9月から、もうインテルではなく
レアル・マドリードのシャツを着ているのです。

彼に次いで2位の成績を納めた、
もうひとりのブラジル人世界チャンピオン、
ロベルト・カルロスも、
数年前すでにインテルから
レアル・マドリードに譲渡されています。

いったいどうして、こんな事が起こり得るんだ?

インテルのサポーターも
イタリア中のサッカー・ファンたちも、
首をかしげています。

インテルの会長マッシモ・モラッティが、
世界で最優秀の選手を
ふたりともレアルに売り飛ばすなんて、
そんな事、有りか?
モラッティはイタリアでも有数の金持ちだっていうのに・・・

クーパーが出て行くか、
僕が出て行くかだ


インテルはロナウドのお陰でウエファ・カップに勝利し、
それからの4年間ずっと、
世界で一番有名なチームであり続けました。
一番人気のロナウドを擁するチームとして
有名だったのであり、
いくつ勝ったかという問題ではなかったのです。

ロナウドはサッカーのエッセンスそのものであり、
創造性であり、ファンタジーであり、力であり、
ゴールへの近道であり、持続する感動です。

インターは1997年に、まだ21才だったロナウドを
バルセッローナから買い受けました。

インテルは彼を、子供を可愛がるように、
なでまわすようにして大切にしました。 

ロナウドは、インテルのサポーターたちや
総てのサッカーを愛する人たちを夢中にさせ、
夢を見させてくれました。

そして膝のひどいトラブルと、その後の長い回復期間・・・

しかし彼は、まさに日韓W杯の年に復帰を果たし、
めざましい活躍をしたのでした。

W杯で優勝を果たした後、イタリアに戻って来るなり、
彼はインテルのクーパー監督と衝突します。
監督はといえば、多くのアルゼンチン人の常にのっとり、
ブラジル人に対してあまり好意的とはいえない存在です。

「ロナウドは世界チャンピオンだって?
 私にとって彼は、多くの選手のひとりでしかない」
とクーパーは言い放ちます。

一方、クーパーと衝突したロナウドはモラッティ会長への
直訴に及んで、こう言い放ちます。
「クーパーが出て行くか、僕が出て行くかだ」

モラッティはクーパーを残し、
世界最強の選手を失いました。
それは6年前に、当時の監督であったイギリス人、
ホジソンとの確執で、
ロベルト・カルロスを失ったのと同じ状況でした。

クーパーはサッカーの世界では、
むしろ「負け組」として知れわたっています。
マッロルカを率いてコッパ・デッレ・コッペで2位、
ヴァレンシアを率いてはチャンピオン・リーグと
ヴァレンシア杯でも2位。
そしてイタリアではインテルを率いた最初の年に
イタリア杯を逃し、
ウエファ杯とカンピオナート杯では
3位という成績でした。

モラッティはロナウドを売りたくはなかったのです。
でも、クーパーを首にしたくもありませんでした。

モラッティ会長に
インタビューしてきました。


僕はモラッティ会長に会って、
ことの次第をインタビューしました。

「私はロナウドを大切に思っていました。
 本当の息子のひとりみたいにね。
 彼が試合中に膝を壊した時には泣いたくらいですよ。
 日本でW杯に優勝した時には、優勝したのはブラジルでしたが、
 本当に嬉しかったのです」

では何でまた、彼をレアル・マドリードに
売ってしまったのですか?

「日本から戻ってきた時の彼は、別人でした。
 当たり前ですが彼は世界一を自負していました。そして
 もともと折り合いの悪かったクーパー監督との激突状態に
 入ってしまったのです。
 私はクーパーの仕事に何の不満もありませんでしたし、
 首にすることは出来ませんでした。
 その結果ロナウドが出て行くことを決めてしまったのです。

でも、貴方は売らずに済ませることも出来たのでは・・・?

「それはそうですが、
 ロナウドがレアルに行きたがったのです。
 鳥かごの中のカナリアのように思えましたよ。
 私は私の幸福より、彼の幸福のことを考えたかったのです。
 たぶん私は判断を間違ったのでしょうが、後悔はしていません。
 私はロナウドを愛していましたし、これからもそうでしょう。
 息子というものは、よその地へ行ってそこで生きるために
 家を出て行くものです。
 そうしてこそ彼は幸せであり、
 愛されるに値するようになるのです。
 私は、ロナウドがインテルのシャツを着て
 プレイすることが無くなっても、
 彼を大切に思っています。
 私がレアルに彼を売ったのは、
 彼の幸せを考えた私の愛情からです。
 もちろん金目当てではありません。
 金銭で言えば、マンチェスターは
 レアルの倍額を言ってきました。
 でも、ロナウドが満足し喜ぶほうを、私も望みました。
 彼が全世界のトップとして受賞した今、
 私は泣きたいほど幸せです。
 彼のためを思って・・・」

訳者の一言
「愛」アモーレ(amore)というイタリア語は、
あまりに有名ですが、
このほか、もっと一般的、
日常的に使う言い方に
volere bene があります。
Ti voglio bene.
[ティ ヴォーリョ ベーネ
(リ、は巻舌じゃなく)]
君を愛しているよ、というふうに使いますが、
amare(amoreの動詞形)もこれも、
男女間に限った「愛」とは少し違って、
家族、友人など、
大切に思っている人に対しては誰にでも使います。
初めはちょっと戸惑いますが、
慣れると納得の「愛」なのです。 
翻訳/イラスト=酒井うらら


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2002-12-24-TUE

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