フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

熱狂! インテルとミランの「ダービー」。

1780年6月最初の水曜日、
ロンドンから南へ25キロのところにある
エプソンという小さな町は、とてもとても美しい
春の一日に包まれておりました。

草のエメラルド・グリーン、花のほのかな香り、空の青さ、
そして太陽の甘く優しいぬくもり、それらすべてが
この水曜日をスペシャルな日にしていました。

でもこれだけではなく、この日をもっとスペシャルに
していた事があったのです。
この町、エプソンの丘でくりひろげられる、
3歳馬だけの1マイル半のレースです。

このレースには、
勝利者のための青いリボン(ブルー・リボン)を
競馬に取り入れた、男性の名前がつけられました。

その男性はロード・ダービー、ダービー卿です。
世界で一番有名な競馬は、今もこの人の名前で
「ダービー」と呼ばれていますね。

さて、「ダービー」は英語の言葉でありながら、
イタリアの、なんとサッカー・ファンを
夢中にさせるのであります。

ん? サッカー・・ダービー・・?
実は、この場合の「ダービー」とは、
同じ街のサッカー・チーム同士が戦う
特別な試合のことなのですよ。

会長→監督→選手→ファン
ぜんぶが燃やす「対抗意識」。

今このダービーが開けるのは、
イタリアでは3都市だけです。
ミラノ、トリノ、そしてローマ。
イタリアでもっとも重要なこの3都市だけが
セリエAに属するチームを、
2つ持っているというわけです。

そしてこの3ダービーの中でも
情熱的なことこの上ないのが,
ミラノのインテルvsミランの試合です。

この2チームの対抗意識といったら、
全く類まれなるユニークさです。

この特筆すべき対抗意識は、まず双方の会長に始まり、
それぞれの監督・選手に引き継がれ、
そして熱狂的ファンたちに及んでも終わる事なく、
果てしなく続くのです。

加えて今年のインテルとミランは
両者そろってイタリア・サッカーの頂点にいます。
これは、ここ数十年間も起こらなかった事態であり、
今年度のイタリア・チャンピオンの
タイトルを賭けた試合は、
最終的にこの2チームが
戦うことになるに違いありません。
ああ、夢に見た優勝者のワッペン!!

この2チームは会長たちも違うふうなら、
ファンたちの情熱も異質です。

インテルの会長マッシモ・モラッティは石油業者で、
イタリアの大金持ちのひとりです。

彼は、ルネッサンスの高貴な人、
ロレンツォ・ディ・メディチとでもいうふうで、
いつも優しく、
どんな要求にも「ノー」と言うことができない人です。



一方、ミランの会長シルヴィオ・ベルルスコーニは
イタリア共和国の首相です。
かつ、部下をして多くの要求に
しばしば「ノー」と言わしめる命令の才能があるお陰で、
彼のテレビ帝国を築いた決断主義者のメディア王です。

モラッティはいつでも「イエス」と言い、
ベルルスコーニは「ノー」と言うことが多いのです。

会長たちの対戦は、
経済力vs政治力といったところでしょうか。

ファンたちはと言えば、
これがそれぞれ贔屓のチームの選手たちに似ています。

インテルはヴィエリやディ・ビアジオのように頑固で
ごつごつと岩っぽい感じ。
ミランはインザーギやリバウドのようにエレガントな
芸術家肌。



インテルがプレイする時は美的な面ではなくて、
より良い結果につながる実際性だけを見つめています。

ミランは反対に、ゲームの美しさを通して結果を模索します。

ふたつの正反対のサッカー哲学です。

そういうわけで今年のダービーは、2チームのうちのどちらか
相手より先に駆け込んだほう(おっと競馬じゃなかった..)
つまり相手を制したほうが、ミラノばかりでなく
イタリアでも一番ということですから、
すごいことになりますよぉ。

それにこの事態こそは、
黒と空色(インター)にせよ
黒と赤(ミラン)にせよ、
どちらにとっても人々の「夢」だったのですから・・・


翻訳/イラスト=酒井うらら

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2002-11-11-MON

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