怪・その10

「真っ黒な目で」

あれは数年前、帰宅途中の出来事でした。

私は毎日仕事が終わったら、
電車を乗り継いでバスに乗って帰宅しています。

その日もいつもと同じように
混み合うバスに乗りました。

乗り込み口に入ると、
サラリーマンたちが立ち並ぶ中に

おじいさんが立っていました。

私は少し離れた席に座り、
目の前にいるおじいさんを

何気なく
ちらっと見たのですが、

おじいさんには何となく暗い雰囲気がありました。

グレーがかった肌色は白く、
生気のない感じ。

でも更に
異常なことに
気付いてしまいました。

おじいさんの目は空洞のように真っ黒で、
この世の人とは思えない顔つきでした。

すると私に気づいたおじいさんは、

にたぁと笑いながらこっちを見てきました。


うわっと思い、
ものすごく嫌な感じがして、
必死で目を伏せました。

降りるバス停に着くまで、
怖くてひたすら下を向いていました。

顔を上げるとおじいさんが見えるからです。

やっと降りるバス停に着き、
ついてきたらどうしよう、
と背筋が冷たくなりながら
急いでバスを降りました。

おじいさんはバスに乗ったままでした。
次の日からしばらく
バスに乗るのが怖かったのですが、
それ以来その方を見かけていません。

今も毎日ずっと、
そのバスに乗って帰宅しています。

(c)

こわいね!
2017-08-26-SAT