怪・その4

「息子の引っ越し」

私はかれこれ三十年ほど
トラックドライバーをしています。
この業界にも心霊体験談は溢れていますが、
大抵は深夜のドライブ中のことですよね。

しかし私は時間に関係なく
不思議な体験を頻繁にしています。

ある夏の日の午後、
会社から急な転勤命令を受けて
引っ越しをすることになった青年の
単身パック業務を受けました。

二十八歳の独身男性には、
冷蔵庫や洗濯機以外に大きな荷物は無く、
彼の母親が手伝いに来ていたこともあり、
一時間ほどで積み込みは終わりました。

荷物を痛めないように毛布をかけ、
お決まりの緩衝材を当てて固定を終え、
荷台から降りようと振り返った時、

トラックの下に
五十代後半くらいに見える男性が立っていました。

じっと私を見上げていたので、
「何か?」と声をかけると、
彼は深々とお辞儀をし、

「宜しくお願いします」

‥‥と言いながら、忽然と姿を消しました。

そう言えば、
今日のお客さんとそっくりな顔をしていたなぁと‥‥
たぶん、青年の亡くなったお父さんなんですよ。

死んでからもずっと息子を見守り、
ちゃんと父親をやっているんです。
心の中で、
「お任せ下さい、ご心配なく」と呟き、
出発いたしました。
(b)

こわいね!
2017-08-22-TUE