怪・その18

「いつもの笑顔で」

今から20年前になりますが、
父方の祖父が亡くなりました。

祖父は兼業農家をしており、
私が小さい頃は毎年
稲刈りのお手伝いに駆り出されていました。

稲刈りは辛くて大変でしたが、
終わったら祖父が近くの川へ
泳ぎに連れて行ってくれたり、
浜辺でBBQをしてくれたので、
疲れが吹き飛んだのを覚えています。

日頃からよく宴会をしていて、
私たち一家が祖父の家に行くと
「来たか!」
と嬉しそうに笑顔で迎えてくれました。

その祖父が亡くなった時、
私は大阪で働いていたので、
同じく大阪の大学に通っていた妹と
一緒に実家に帰り、
家族全員で祖父の家に向かいました。

たまたま車から降りた順番で私が先頭になり、
何と言って入ればいいのか考えながら
玄関の扉を開けた時です。

玄関を上がってすぐのところで、
祖父がいつもの笑顔で

「来たか!」

と迎えてくれました。

一瞬、何をしに祖父の家に来たのか
わからなくなった私は、
少し困惑して、
後ろにいた妹と顔を見合わせました。

そして、もう一度前を向くと、
そこには祖父ではなく伯父がいたのです。

祖父と伯父は顔も声も全然違うので、
おかしいなぁと思いつつ

「あ〜ビックリした。
 おじいちゃんに見えた」

とつぶやいた途端、
後ろから妹が

「私も!
 私もおじいちゃんに見えた!」

と言うのです。

みんなは見間違えたんだと言って
信じてくれませんでしたが、
あの「来たか!」という、
いつもの優しい声と嬉しそうな笑顔を
忘れる訳がありません。

「絶対におじいちゃんやったよ!」

と言うと、叔母が

「遠い所からわざわざ来てくれて、
 おじいちゃん嬉しかったんやろ。
 あんたたちの顔を見に来たんやね」

と涙をぬぐっていました。

今でも、この時のことを思い出すたびに、

祖父の

「来たか!」

という優しい声が思い出されて、
涙が溢れてきます。

(マイマイ)

こわいね!
2016-08-15-MON