おさるアイコン ほぼ日の怪談2009
怪・その26
見知らぬ友人


半年ほど前、
見知らぬアドレスからメールが来ました。
何の変哲も無い「アドレス変えました」の
お知らせメールです。

一年に数回、携帯に届くそれ。
私は何も考えず差出人を確かめました。
知らない女性の名です。

おかしいな、と思いました。
私のアドレスは迷惑メール防止のため、
間違えようのないほど長い言葉で登録しており、
知っているのは会社や友人、身内のみ。

ならこの女性(仮にAさんとします)は
知り合いなのでしょう。
私は携帯の電話帳でAさんの名を検索しました。

出てきました。
なんて事はない、薄情な事に私は
ただAさんの名を忘れていただけの事。
変更了承の返信メールを送り、
Aさんの事を思い出そうと考えをめぐらせました。

何も出てきません。

いつ出会ったのか、どのような関係か、
顔すら思い出せないのです。
ぼんやりとしていると、また携帯が鳴りました。

Aさんから。
先ほどのアドレス変更時のメールの時も
感じた事ですが、割と親しそうな内容でした。
しかし、私は相手を思い出せません。

そこで私はAさんに
「ご無沙汰してます」という内容のメールを
送りました。

Aさんがそこで
何かのリアクションをしてくれたら、
思い出すきっかけになるかもしれないと思って。

しかしAさんから返ってきた返事は
「一ヶ月ほど前に会った」でした。

手帳を取り出しページをめくります。
たいていの事は書いてあるはずの手帳にも
なにもない。

携帯の受信メールをチェックしても同じ。
私はまだAさんの事を思い出せないのです。

私は再度Aさんにメールを送りました。
「他の皆さんと連絡取ってますか?」

2人きりで会った記憶がないのですから、
それはきっと大勢の中に
紛れてしまったのかもしれない。
卑怯ながらも、私はAさんに
「○○さんたちにも会ってない(または会った)」
という第三者の名前を引き出させたかったのです。

それで思い出せる。
この薄ら寒いような感覚から抜け出せる。
そう思ったのに、返ってきた返事に
言葉を失いました。

「他の皆さん?」


実は、先日Aさんに会ってきました。
あれから時折交わすメールの内容から判断すると、
趣味で親しくしている友人の一人らしいのです。

でも、私は知りません。
彼女の顔を、いっさい記憶していませんでした。
趣味の話、それにまつわる人間関係。

話す内容に齟齬はないのに、
私から彼女の存在だけが抜け落ちているのです。

私が記憶してないだけですか?
それとも‥‥
彼女は本当に私の友人なのでしょうか?

私はまだ、怖くて、
ほかの友人に確認が取れないでいるのです。

(YUU)

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2009-08-23-SUN