おさるアイコン ほぼ日の怪談2008

怪・その38
ある夏のひととき


あれは私が高校2年生の夏でした。
その晩も蒸し暑く、扇風機をかけ、
一人6畳間のど真ん中に
布団を敷いて寝ていました。

いつの間にか
扇風機のタイマーが切れていたようで、
あまりの暑さに目が覚めました。

同時に、自分の真上にある電灯の
スイッチの紐をカチャカチャする音。

きっと別室で寝ている母か妹が起きてきて、
豆電球を消そうとしているんだと思い、
「何してるの?」
と声を掛けようとして、
「何‥‥」まで声が出たその瞬間、
足元から首下まで一気に金縛りにあいました。

それは初めてのことで
何がどうなってるのかさっぱり分からず、
頭の中はパニック。

首から上、目は動かせそうだというのは
分かるものの、怖くてとても目を開けられません。

すると、布団の周りを
誰かがぐるぐると歩いています。

畳を擦る足音がします。
ちょっとすり足気味です。

一周一周まわりきったというのは
分からないのですが、
ただ、とにかくぐるぐる歩いてるというのは
はっきり分かりました。
感覚で分かるという感じでした。
何周まわるか数えてみようか、
思い切って目を開けてみようか、
と考える余裕はなぜかありました。
でも次第に恐怖が募っていき、
そんなこととてもじゃないけどできませんでした。


どのくらい時間が経ったのでしょう。
ふっと全身の力が抜けました。
とっさに布団を頭までかぶり、
心の中で「南無阿弥陀仏‥‥」を繰り返しながら、
自分が冷や汗でびっしょりだとわかりました。
気がつくともう朝になっていました。
いつの間にか眠っていたようでした。

このことは何となく家族には話しづらく、
そのままにしていましたが、
それからはとても一人では眠れず、
母にしがみつくようにして眠りました。
真夏なのに日中は
ゾクゾクしていたのを覚えています。

そして、今年。
もうすっかり30代になった私は、
そういえば、という感じで、
妹に当時の出来事を話してみました。

すると妹が、
「そういえば、あの頃のお姉ちゃんは
 ちょっとおかしかったよね。
 『ピアノの上にあるおじさんの写真が』、
 って言ってたけど、そんなものなかったよ。
 いったい何のことだったの」

そんなこと、言ったことも、
見たことも、全く覚えがありません。
あの夏は私は誰か別人になっていたのでしょうか。

(ごりんぴっく)

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2008-08-29-FRI