おさるアイコン ほぼ日の怪談2007

怪・その4
「雨の中を」

もう20年も前のことです。

弟の同級生が運転する自動車が、
スピードの出しすぎで、
国道の急カーブを曲がりきれずに路外に飛び出し、
同乗していた他の4人の同級生もろとも、
亡くなる大きな事故が起きました。
弟と仲の良かった子もその4人の中にいました。

事故の知らせを聞いた弟が、
その子のことを悼みながら、
その日、
一人自分の部屋で遅くまで夜を過ごしていました。

雨がしとしとと一晩中降っていたそうです。
そのうち、
雨の音に混じって、
弟の部屋の窓を、
とんとん、とんとん、
と誰かが窓ガラスを叩くような硬い音がしました。

弟の部屋は二階です。
ですから、
気のせいかと最初は無視していましたが、
とんとん、とんとん、と、
音は繰り返し、いっこうに鳴り止みません。

妙に思いながらカーテンを開けてみると、
窓の外には、
亡くなったはずのその子が、
ずぶぬれで佇んでいました。

そして弟に泣きながら、

「ここはとっても寒いんだ、
 T(弟の名前)、開けて中に入れてくれないか」

と懇願しました。

弟は窓を開けようとして、
はっと、思いとどまりました。
その子は事故でなくなったはずだから。

「ごめん、
 お前はもう死んでしまったんだよ。
 だから、もうここに入れてはやれないんだ。
 お前、もう、いかないとだめだよ」

弟がそう諭すと、
その子は

「やっぱりそうなのか。
 わかった。ありがとう」

そう言ってすうっと消えてしまったそうです。

あの時はあいつがかわいそうで、
一生懸命話をしたんだけど、
あれでよかったんだよな、と、
弟は言いました。
たぶん、それでよかったのだと私も思います。

(kubotti)

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2007-08-05-SUN