谷川俊太郎の『家族の肖像』。

『家族の肖像』鼎談 第3回
届きすぎるものを聴くときに。



賢作
このCD、弱点は、
みんなでワイワイいいながら
聴けないところだよね。

俊太郎
そうだね。

糸井
内容がぜんぶ、
「オンリーワン」だからですよ。

賢作
だから、糸井さん的な聴き方してくれるのが
いちばん、とか思っちゃうな。

糸井
そういえば、『家族の肖像』を
スピーカーで流したことが、まだないです。

俊太郎
ずっとイヤホン?

糸井
そうです。
まあ、かみさんが、家にいますよね。
スピーカーでこれを流すということは、
「おまえも聴けよ」「聴いちゃってもいいよ」
っていう、無言の圧力をかけることになるわけです。

俊太郎
うん、うん。

糸井
言葉が流れてくることは、
音楽が流れてくるのと違って、
「いいだろう」って言ってるふうなんですよ。


俊太郎

なるほどね。

糸井
言葉だけじゃなくて、
そういう音楽もいくつかある。
これはもう、まったく、そうなんですけど、
綾戸智絵さんと、矢野顕子さんについては
ほとんどかみさんに聴かせてないんですよ。

俊太郎
う〜〜〜ん。そうか。

糸井
「いいだろう」って言ってるみたいになるのが、
嫌でね。
押しつけがましくなるんですよ。

賢作
確かにな‥‥。

糸井
そういうものって、
「届きすぎるもの」なんです。
届ける役目を持ってるものにふれるときって、
なんだか知らないうちに
「ひとり」になっちゃうんですよ。

谷川さんは、これを制作しているときは
どうやって聴いていたんですか?

俊太郎
えーと。
そうだ、MDにして、
自分の部屋で、
わりと小さな音でひとりで聴いたのと、
それから、車の中でも聴きましたね。

糸井
車か。
あんまり泣いたりしなきゃ、
車でひとりで運転しているときが
いちばんいいかもしれないですね。

俊太郎
うん。僕、あんまりイヤホン使って
聴く習慣がないもんだから。

糸井
賢作さんは、いっしょに住んでいるご家族が
いらっしゃいますよね。
ご家族に、自分の仕事を
聴かせたりするんですか?

賢作
します。妻には、します。
子どもたちにもするんだけれども、
どこまでわかってるのかな?
「ズッコケ三人組」とか、「ぶ〜ば〜が〜」とか、
子ども向きのものは見せます。

糸井
それがしたくて、
子ども向けの仕事を受けるような
心境もありますか?

賢作
いや、それはないです。

糸井
僕なんかは、明らかにそうでしたね。

賢作
へぇ!

糸井
子どもに、自分が何かしてるのを見せたくて、
子どもの成長に合わせて仕事を引き受けてました。
「子ども」という動機がないと、
きっと、詩を書かなかったです。

俊太郎
あ、そう。ほんと!

糸井
歌詞は、ゲームとして書けるんです。
だけど、音楽がつかない詩については、
書くつもりがまったくなかったんですよ。
「『一年生』の詩をやりませんか?」って
言われたときに、子どもが幼稚園だったから、
それ用に書いたとしかいえません。

俊太郎
うーん、なるほどね。

糸井
その後はほとんど書いてないです。

賢作
でも、子どもが劇中のインストの曲を
ハミングしてたりすると、
「あ、そこ、俺、俺」みたいな気になる。
あー、そうか! おとうか!
って言うの‥‥うれしいですよ。

糸井
だって、いちばん知ってるお客さんですからね。

俊太郎
そうね。


(つづきます!)  

2004-07-25-SUN

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