嘘ってなんだ!? ドリブルデザイナーの岡部将和さんに訊く、 嘘とドリブルのこと。スクロール

世界中のサッカー選手に
「ドリブル」だけを指導する専門家がいます。
その人とは、ドリブルデザイナーの岡部将和さん。
フットサルの元プロ選手で、
現在は国内外のサッカー選手に
『99%抜けるドリブル理論』を教える
ドリブル指導者として活動されています。
このドリブル理論が、またおもしろい! 
感覚でとらえがちな「ドリブル」というプレーを、
誰でもつかえる理論へ落とし込んでしまったのです。
ドリブルとはなにか? フェイントとはなにか? 
オフェンスとディフェンスの間にある、
巧みな「嘘」や「だまし合い」について、
たっぷりと教えていただきました。
「嘘」にまつわる不定期連載、担当は稲崎です。

第2回マジシャンズセレクト。

岡部
いまから「ノット10ゲーム」という、
数字をつかったゲームをしてみましょう。
──
「ノット10ゲーム」?
岡部
1から交互に数字をいいあって、
「10」をいったほうが負けです。
ひとり「3つ」まで数字がいえます。
──
「10」をいったら負け‥‥わかりました。
岡部
まずはためしに。じゃあ、1。
──
ひとり3つまでいいんですよね?
ええ、2、3‥‥4。
岡部
うーん、5‥‥。どうぞ。
──
えっと‥‥6。
岡部
7、8、9。
──
10。あっさり負けました(笑)。
岡部
もう1回やってみましょうか、1。
──
2。
岡部
3、4‥‥5。
──
6‥‥7、8、あれ?
岡部
9。
──
10。また負けた‥‥。
岡部
いまのゲーム、
なぜ2回とも負けたかわかりますか?
──
なぜ負けたか? 
「9をいえたら勝ち」ということは
わかるんですが‥‥。
岡部
そうなんです。
このゲームは「9」をいえたら勝ちです。
そして自分が「9」をいうには、
じつは「5」をいえばいいんです。
──
あ、なるほど。
「9」じゃなくて「5」をいえば勝てる。
岡部
はい、絶対に勝てます。
で、もっとタネあかしをすると、
「5」をいうには「1」をいえばいい。
──
え、そうなんですか?!
岡部
なので、さっきは2回とも、
ぼくからゲームをはじめました。
──
ずるい(笑)。
岡部
すみません(笑)。
でも、いまのトリック、
ゲーム中は気づかなかったですよね?
──
まったく気づかなかったです。
岡部
ここがとても大切なところで、
なぜ気づかなかったというと、
ぼくが「考えるフリ」をしていたからなんです。
つまり、考えるフリをすることで、
「同じ条件で勝負している」
という嘘をついていたんです。
──
えっと、それはつまり‥‥。
岡部
いまの嘘を
ぼくのドリブル理論に落とし込むと、
こうなります。

相手ディフェンダーは、
ぼくのドリブルを止められると思っています。
ぼくはぼくで「勝ちパターン」を知っていますが、
わざと「どうしよう」と考えるフリをします。
そうやって考えるフリをしながら、
「絶対に抜ける位置」まで
ボールをこっそりと運ぶわけです。
これはさっきのゲームでいう、
先に「1」を取るのと同じことなんです。
──
あぁ‥‥。
岡部
はじめにすこし説明しましたが、
ぼくのドリブル理論のポイントは、
「絶対に抜ける位置」にボールを運ぶことで、
「99%抜ける」というものです。

つまり、相手に気づかれないように、
抜ける位置にボールを運べなければ、
「勝ちパターン」にハメることはできません。
──
その「勝ちパターン」を
相手にさとられないために、
あえて「考えるフリ」をしていると?
岡部
そういうことです。
──
はぁーー。
岡部
こういうテクニックのことを
「マジシャンズセレクト」といいます。
相手がどんな選択をしようが、
それによって自分の答えを変えることで、
最終的には自分の思い描いたゴールに、
相手を誘導するテクニックです。
──
マジシャンズセレクト‥‥。
岡部
マジシャンズセレクトは、
相手にトリックを気づかれないかぎり、
何度やっても同じ結果が得られます。
ぼくの『99%抜けるドリブル理論』も、
基本はこれと同じロジックなんです。

もしボールを取られるとしたら、
それはぼくが判断ミスをするか、
相手が反則をするかのどちらかです。
反則というのは、
さっきの数字ゲームでいう
「6、7、8‥‥9!」みたいに
ルール違反をすることです。
──
もし自分が「1」を取れなかったら、
そのときはどうするんですか?
岡部
そのときは「99%理論」はつかえません。
「1」を取れなかったというのは、
ドリブルに例えると、
「絶対に抜ける位置にボールを運べなかった」
ということなので。
──
その「絶対に抜ける位置」というのは、
具体的には「どこ」になるんですか? 
どこにボールを運べばいいんでしょうか?
岡部
「絶対に抜ける位置」というのは、
ものすごく簡単にいえば
「相手が足を伸ばしても届かないギリギリの距離」
のことです。
その位置から相手の動きにあわせて、
自分の「勝ちパターン」にハメていきます。
──
なんだか、それだけ聞くと、
ものすごく簡単そうに思えるのですが‥‥。
岡部
実際はもうすこし補足が必要ですが、
理論自体はそんなに難しくないんです。
ただ、本当に難しいのは、
その理論を実行するための「技術」です。

いくら理論を頭でわかっていても、
しかけるタイミングがずれたり、
判断ミスをして相手に取られることはあります。
「99%抜けるドリブル」は、
理論と技術の両方がそろって、
はじめて成立するんです。
──
技術的なことでいうと、
ドリブルで抜くのがうまい人って、
自分の動きを読まれることなく、
軽々と相手の裏をつきますよね。
岡部
はい。
──
例えば、基本的なフェイントといえば、
「右に行くとみせかけて、左に行く」という、
いわゆる「相手の裏をつく」ものだと思うんです。

でも、ふつうにそれをやると、
「右に行くとみせかけて、左に行くつもりだな」と、
相手に簡単に動きを読まれてしまいます。
岡部
あぁ、そうですね。
──
そういうフェイントが
「見破られる人」と「見破られない人」って、
いったいどこがちがうんでしょうか。
岡部
フェイントのしかけ方は、
人によってそれぞれあると思いますが、
ぼくは「右に行くとみせかけて、左に行く」
というフェイントはしないんです。
──
しない?
岡部
しないです。
ぼくは「自分の嘘がバレたら取られる」
というフェイントが好きじゃないんです。
わかりやすくいえば、
「本物のプレー」しかしません。
そもそも本物のプレーをするからこそ、
フェイントになるわけで、
嘘のプレーをしても、
それはフェイントにならないんです。
──
本物のプレー? 嘘のプレー?