嘘ってなんだ!? ドリブルデザイナーの岡部将和さんに訊く、 嘘とドリブルのこと。スクロール

世界中のサッカー選手に
「ドリブル」だけを指導する専門家がいます。
その人とは、ドリブルデザイナーの岡部将和さん。
フットサルの元プロ選手で、
現在は国内外のサッカー選手に
『99%抜けるドリブル理論』を教える
ドリブル指導者として活動されています。
このドリブル理論が、またおもしろい! 
感覚でとらえがちな「ドリブル」というプレーを、
誰でもつかえる理論へ落とし込んでしまったのです。
ドリブルとはなにか? フェイントとはなにか? 
オフェンスとディフェンスの間にある、
巧みな「嘘」や「だまし合い」について、
たっぷりと教えていただきました。
「嘘」にまつわる不定期連載、担当は稲崎です。

第1回99%抜けるドリブル理論。

──
岡部さんのドリブル動画をみたのですが、
なんで、あんなに華麗に
相手ディフェンダーを抜けるのでしょうか?
岡部
ひとことでいえば、
「抜けることがわかってるから」です。
──
抜けることがわかっている?
岡部
ぼくは相手の動きに関係なく、
「抜ける位置」というものを知っています。
その位置にボールを運ぶことができれば、
相手がどんな動きをしても抜けるんです。
──
えっと‥‥その、もう一度お願いします(笑)。
岡部
サッカーというスポーツでは、
ディフェンスがボールを取るためには、
「足でボールにさわる」か
「オフェンスの体にふれてボールをはがす」か、
この2つしかありません。
──
ディフェンスが直接できることは、
その2つしかない。
岡部
はい。理論上はその2つをさせなければ、
ボールは取られません。
ということは、
「相手の足が届く距離」よりも
遠くでプレーができれば、
ボールを取られる確率はゼロに近くなります。
──
「相手の足が届く距離」というのは、
どうやって見極めるんですか?
岡部
ぼくがこれまで対戦した相手で、
元イタリア代表のマテラッツィという選手がいます。
彼の間合いが180センチ。
公式な試合じゃなかったので、
いっしょにプレーしているときに
「ちょっとそこで止まって!」といって
メジャーで測りました(笑)。
──
けっこうアナログなんですね(笑)。
岡部
彼のリーチをひとまず最大として、
相手の体格や能力によって、
その「間合い」を微妙にかえています。
──
でも、もし「間合い」が取れていても、
試合中は相手が近づいてきます。
岡部
試合では相手が間合いをつめてくる前に、
こっちからしかけます。
相手の足が届くか届かないかの
ギリギリの間合いにボールを運び、
タイミングよくしかける。
しかける距離は、遠すぎても近すぎてもダメ。
これがぼくのドリブル理論で、
なによりも大切なポイントです。
──
ギリギリの間合いでしかける‥‥なるほど。
岡部
ドリブルをしかけるときは、
間合いだけじゃなく相手の「角度」も大切です。
相手の体の向きが正面なのか、
真横なのか、ななめ45度なのか、
それによってしかけ方がかわります。

極端な例をあげるなら、
相手の体が90度「右」を向いていたら、
「左」へドリブルすればいいわけです。
なぜなら相手が「左」へ行くには、
体を反転させなければならないからです。
──
体を反転させる分、
ボールへの反応が遅れるわけですね。
岡部
あくまでいまのは例えですが、
理論上は適切な間合いを保って、
相手の角度や重心をきちんと把握すれば、
誰でもドリブルで抜くことはできます。

もちろんそれを成功させるだけの
スピードやテクニックは必要ですが、
それはトレーニングで補えるものです。
──
まだちょっと信じられないのが、
「間合いと角度」を理解すれば、
本当に誰でも
ドリブルで抜けるようになるんですか?
岡部
基本的なスキルを身につけ、
選択肢さえまちがえなければ、
誰と何回やっても、確実に抜けます。
それは断言できます。
──
おぉー。
岡部
ただ、頭でわかっていても、
相手の角度や位置関係によって、
いろんな可能性があるので、
いつも正しい選択ができるとは限りません。
そこは実践で磨くしかありません。

ぼくの動画を見てもらったら
わかると思いますが、
実際にぼくはいまの理論で、
何百人というサッカー選手を、
ドリブルで抜き去ってきました。
そう話すと特別なことのように思われますが、
根本のところは、
そんなに難しい話じゃないんです。
──
ドリブルで相手を抜くときって、
「足でボールをまたぐ」といった
フェイントがいると思っていたのですが、
そういうのはやらないんですか?
岡部
細やかなボールタッチやフェイントは、
ドリブルの大切な要素ですが、
それは自分が伝えている
『99%抜けるドリブル理論』の
メインの話ではありません。
ぼくのドリブル理論では、
フェイントはあくまで「飾り」であって、
そこが本質ではないんです。
──
ということは、
「フェイントがうまい人」と
「ドリブルで抜くのがうまい人」は、
同じというわけではない?
岡部
ぼくのドリブル理論でいえば、
フェイントはまた別の話ですね。
──
あ、別の話なんですね。
今日はフェイントの話から
「嘘」や「だまし方」について
うかがおうと思っていたので、
ちょっと予想外の展開になりました(笑)。
岡部
あぁ、そうでしたか(笑)。
でも、ドリブルをしかけるときは、
フェイント以外にも
いろんな「かけひき」があります。
ぼくは、かけひきの主導権を取るためなら、
いろんな「嘘」をついていると思います。
──
それは例えば、どんな嘘を‥‥。
岡部
ぼくのドリブル理論は、
抜ける位置にボールを運ぶことで、
どんな相手でも「99%抜ける」というものです。
これは嘘ではありません。
──
はい。
岡部
でも、相手ディフェンダーからしたら、
そんな魔法みたいなこと、
ふつうはありえないと思いますよね。
なので、相手はぼくのドリブルを
「がんばれば止められる」と思っています。
──
ええ。
岡部
ぼくのドリブル理論は、
適切な間合いが取れた時点で、
オフェンスが絶対的に有利なんです。
判断さえまちがえなければ、
99%の確率で抜くことができます。

ただし、サッカーは1試合の中で
同じ相手となんどもマッチアップするので、
自分の「勝ちパターン」を相手にさとられずに、
「勝ちパターン」に誘い込む必要があります。
そういう嘘をいつもついてますね。
──
自分の「勝ちパターン」を
相手にさとられないための嘘。
岡部
はい。
──
素朴な質問なのですが、
その「勝ちパターン」というのは、
実際には
どういうものなんですか?
岡部
うーん、言葉で説明するとしたら‥‥。
そうだ、いまからちょっと
数字をつかったゲームをしてみましょう。
そうすれば、ぼくのいいたいことが、
よくわかると思います。
──
数字をつかったゲーム?