YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson691
     悪い習慣 ― 2.サイン


悪い習慣が、どうして悪か?
というと、

心も体も欲してないことを、
妥協+怠惰の産物としてのみやり続け、
いま、心と体が欲しているものに
気づけないところにある。

去年のいまごろ、

むしょうに「なまの魚」ばかりが食べたかった。

カルパッチョ、
お刺身、
魚介サラダ…。

「何を食べよう」と、自分に問う前にもう、
カルパッチョが目の前にちらちらしている状態で、

来る日も、来る日も、
カルパッチョばかりを
食べ続けた。

これが「サイン」とは気づかなかった。

ことし、

ふとテレビをつけると
医療番組で、
女優さんが、お医者さんに質問していた。

「なまの魚ばかり食べたくなるんですけど、
 カルパッチョとか、お刺身とか、
 何かの病気の兆候でしょうか?」

私のことだ! と、画面にくいついた。

お医者さんは、
「聞いたことねぇなー」「わかんねぇなー」
という表情をしながらも、

経験上、

「ひとつの食品ばかりを欲しがるのは、
 良い兆候ではない。」

と言い、
こんなキーワードをあげた。

「つわり」。

むかし、母から、
妊娠しているときは、
ふだん食べてるものが食べられなくなり、
ふだん食べなかったものがむしょうに食べたくなる、
という話を聞いた。

母の場合は、
ふだん、いい匂いであるはずの
炊き立てのごはんの匂いが
つらくてたまらなかったという。

それから、母は、いろんな女性の
つわりの偏食について話してくれたのだが、
なかでもいちばん焼きついたのが、

「壁の土」だ。

もちろん妊娠は喜ばしいことで
病気ではない。
だが人によっては、
それで体のリズムを壊してしまい、
中毒をおこす人までいる。
で、ふだんでは考えられないのだが、
「壁の土」が、
むしょうに食べたくなってしかたがなくなってしまう
人までいる、ということだ。

お医者さんは、

1つの食品だけを欲しがることは、
ゆきすぎた「つわり」により、
1つの食べものばかりをほしがることが、
平常な体の状態ではないように、
なまの魚ばかりを食べたがることは、
何かしら変調の兆しではないかと言った。

私は、ぞっ、とし、

壊れた「ジュークボックス」が
頭に浮かんだ。

昭和時代に、コインを入れたら1曲、
音楽が聴ける、
ジュークボックスという、大きなゲーム機のような
機械があった。

コインを入れて、
恋の曲のボタンを押せば、
恋の曲が、

哀しい曲のボタンを押せば、
哀しい曲が、

応援ソングを押せば、
元気な応援ソングが流れる。

だけど、去年の私は、

恋のボタンを押しても、
哀しい曲のボタンを押しても、
応援ソングを押しても、
何枚コインを入れても、

出力は、

「カルパッチョ。」

「カルパッチョ。」

「カルパッチョ。」

「カルパッチョ。」

あのまま突っ走ってたら、
ぶっ壊れてたかもな。

自分なりに
へっぽこダイエットに成功し、
運動や食の新習慣もできた、
先日、

ひさしぶりに、大好きなカルパッチョを食べた。

で、翌日、
たまたまランチに入ったお店が
魚の店だった。

私は、

「きのうカルパッチョを食べたから
 さすがに今日は、なまの魚はいらないや。」

と思い、自然に、
揚げ団子定食を注文していた。

いま、私は、いろんなものが食べたい。

魚を食べたら、次の日は肉が。
生のものを食べたら、次は、火をとおしたものが。
肉を食べたら、野菜が、果物が‥‥。

そんなふうに体調や、
不足している栄養や、目先が変わる楽しみや、
体と心の声に、ちゃんとセンサーが働いて、
いま、食べたいものを出力してくれる。

センサーも出力もぶっ壊れた
機械のように、
ただ1つの食品のみを連呼する、
ということは、もう決してない。

悪い習慣の渦中にいるときは、
自分では悪と、なかなか気づけない。

私自身も、生魚だけを欲することは、
むしろヘルシーくらいに思っていた。

でも、ふりかえると私の場合、
変調の兆しが、偏食としてはっきりあらわれていた。

偏は、変に通ず。

偏り出したら、悪い習慣の「サイン」
なのかもしれない。

さいごに、古い習慣から脱皮する
読者からのおたよりを紹介してきょうは終わろう!


<新しいリズムの始まり>

先週、
「何だか下腹も痛いし」と
産婦人科へ立ち寄り、
子宮けいガンの検診で、
「筋腫があるよ」と言われました。

生活習慣を振り返らずにはいられません。

最近
休日は特に

「今日は何を食べようか?」

で悩むことが多かったです。
食べることは好きなのに
いま何が食べたいのかが
スッと出て来なくて。

お金が不足しているのかと思っていたのですが
財布に現金があっても
「何食べたらいいんだろう?」って。
自分で自分の反応に
ショックでした。

子宮筋腫について
色々調べましたが
結局
常日頃の生活を大事にすることが
筋腫の影響を
小さくすることにもつながると判りました。

何となく
パソコンを開いていることを止め

無理してまで早寝はしないけれど
何となく起きていることは止め。

食事は特に何かを食べるのではなく
どうも体に合わないと感じる
乳製品を積極的に控えようと
パンを食べず洋菓子も避けて。

何かを取り入れるというより
削ぎ落としている最中でしょうか。

まだ始まったばかりの
新しいリズムですが
面白いことに
色々なことに対しての意欲が
増しつつあります。
(泉鈴)


<自身の棚卸し>

私は3年間で、17kg減量しました。

きっかけは、同僚男性からの
「太りすぎですよ。」という言葉でした。

当時、30歳を過ぎたばかりで
仕事もプライベートも停滞していました。

ストレスを抱えた自分を慰めるという名目で、
過食と飲酒を重ねていました。

過食という概念もなく、
飲酒については惰性で、
体調が悪い日を除き、通年休みなく飲んでいました。

体は重く、
体型の崩れから容姿に対してコンプレックスを抱き、
鏡を見るのも嫌なくらい、
「女を捨てている」という状態でした。

同僚男性の「太りすぎですよ。」の言葉に、
大変ショックを受けたのは言うまでもありません。

「絶対に痩せるぞ」と心に誓い、
ダイエットをスタートしました。

まず、水中ウォーキングと水泳を
週3回程半年間行いました。

水中ならば必要以上の負荷がかからずに、
楽だと感じたからです。

しかし、一向に効果が出ません。

体力を消耗する為、
かえって食欲が旺盛になり、
体重が増加してしまいました。

ランニングに変更しました。

体が重く思うように走れないことや、
全身筋肉痛になり
情けない気持ちでいっぱいになり挫折しかかりましたが、

段々と効果が確認できたことにより、
俄然やる気が出て来ました。

スルスルと体重が落ちてゆきました。

痩せ始めると、
「いかにコンディション良く走られるか」
が課題となってきました。

その為には、
過剰な食事量と飲酒は、
最悪な要素であることが分かりました。

と同時に、
効果があがらなかった水泳をしていた期間が、
痩せ始める為の準備期間であったことが分かりました。

今思い返せば一笑に付すくらいなことですが、
運動を始めたら即座に効果が出てくるものだと
思い込んでいました。
当たり前ですが、それまで全く運動をしていない人が、
多少の運動だけで体に変化が表れるはずありません。

ダイエットは「運動」「食事」の両輪で
成し得るものです。
即ち、楽してダイエットということはないというのが、
私の経験からの持論です。

考えてみれば、生活が体型に出ているのは当然です。

過剰に摂取しダラダラと過ごせば、
加齢と共に体型に変化が生じるのは自然の結果です。

ダイエットというのは、
自身の棚卸しを行いながら実行する
プロジェクトだと考えます。

自分の生活スタイル
自分の考え
自分の食生活
そこをよく棚卸しして、
無駄を削減してゆくことが「干す」行動かと
解しています。

仕事以外でここまで自分に向き合い、
自分に結果を出す事に取り組んだ事がありませんでした。

減量した私は、体型に自信が持てるようになりました。

おしゃれも楽しめて、
「見られる」「魅せられる」という事がどれだけ大切か。
そして、これからも継続してゆきます。
(ペリコ)


<欲するものに正直に>

私は昨年から、ウォーキングを続けています。

はじめたころは、習慣にするつもりではありませんでした。

とにかく一日何か一つでも、
有意義なことをしようと。
一日を振り返った時、
今日はこんないいことをしたと言える様に
日々を過ごそうと。

「いいこと」は読書であったり、
会いたい人との時間を大切にしたりと色々ありましたが、

おそらく自分の欲するもっとも「いいこと」が
ウォーキングだったのだと思います。

もしウォーキングをしなくなっても、
そのころにはもっと別のことをやっているでしょう。

慣れ親しんだ習慣に安住すると、
周りにも自分にも鈍感になり、
毎日が惰性になってしまいます。

自分の欲するものを、
そのつど大事にしながら毎日を過ごせば、
ベストの習慣が身に付くのではないでしょうか。
(たまふろ)

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2014-07-09-WED
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