YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson679
  スイッチ −2.読者のスイッチ


「自分の中で、いま、
 あきらかに何かのスイッチがはいった!」

としか言いようのない経験を、
去年した私は、
先週、ここで読者に、

「スイッチが入り、
 一気に流れが変わった経験、あなたはありますか?」

とたずね、続々反響をいただいた。
さっそく紹介しよう!

読者の「スイッチ」とは?


<チーム・スイッチ>

保育士をしています。
年度末の保育園は、やることが山ほどあって、
残業しても追いつかなくて、でもやるしかなくて、

みんなでいっせーのーせでスイッチをいれたようでした。

卒園していく子への物は特に手を抜けない。

どの学年の子どもたちも、
それぞれの学年で過ごす最後の月、
特にのびのび過ごしてほしい、大切にしたい。

頭がパンクしながら、
本当に大事にしたいものや、
押さえるべき所が見えてきたような、
そんなひと月でした。

スイッチが入った人は強いけど、
スイッチが同時に入ったチームも、
なかなかに熱くて強い!
(さんご)


<思いを取り戻す>

スイッチ体験は、
学生時代の卒論作成。

学部で学ぶ内容とは、
まるで違うジャンルでの卒論を選び、
試行錯誤しながら書き進めていました。
しんどいなりに、
考えが形になる作業は楽しいものでしたが、

締め切りまで一週間を切り、
にっちもさっちも行かなくなると、
ただしんどいだけの作業になり、

「卒業出来ないかもしれない」

というプレッシャーに押しつぶされそうでした。
ひとりで考えても一文字も出てこず、
投げ出したくなった時、
このままでは息が詰まると思い、
彼女と会うことにしました。

ふたりで回転焼きを食べながら、
ぼんやりしていると、ふと

「そういえばこのテーマって、
 自分が書きたかったことのはず」

と思い出しました。
その途端急に視界が開けたかのように、
もう一度書く気力が湧き上がり、
後は不眠不休で、一気に最後まで書き上げられました。

「これは自分が書きたかったこと」
「自分にしか書けない物」

という根本を思い出したことで、スイッチが入った。

しんどさに振り回されて、
もともとの動機を見失っていました。

そんな自分をもう一度
スタートに戻してくれるだけの力が、
「書きたい」という思いにあった。
だからこそスイッチが入りました。

書きたいという思いを、
人に代わってもらうことは出来ません。
やれるのは自分だけ。

自分自身と深く結びついた動機は、
迷っている自分を立ち戻らせてくれます。
それが私のスイッチだと思います。
(たまふろ)


<自分自身を助けるチカラ>

仕事から逃げ出して、
うつ病になって治療中のときのことでした。

何も感じなくなり、
最低限の家事をしてソファーに横になる毎日。

ある日とつぜん、
猛烈に体の奥から何かうごめくかたまりがでてきて、

「これじゃいかーん!」

と私に言ったのです。

「とにかくいますぐ窓をあけて空気をすえ!
 とりあえずサングラスしてでいいから、歩け!
 ウォーキングしろ!」

それから外にだんだん出るようになり、
回復して社会復帰できるようになりました。

無意識の自分はときどき自分を助けてくれる。

壊れかけてても、
自分を立て直す力があると思うと心強い。
(しろろ)


<頼れる先輩の異動>

先輩が異動することになりました。

その仕事ぶりと人柄に憧れ、
十数年ずっと目標にしてきた先輩の仕事を
私が引き継ぐことになりました。

困った時には必ず助けてくれる人なので、
つい私は頼りがちになっていました。
「彼女が後ろにいてくれるから、私は安心して頑張れる」
でも、いつまでもそれではダメなんだ、
という事も十分わかっていたんです。

だから、異動の話を聞いた時、
ショックと同時に

「やらねばならん!」

と及び腰ながらも自覚し、
先輩への感謝を綴った手紙に

「次に一緒に仕事する時は、
 私の成長ぶりを見てください」

ささやかな決意表明をしました。

へなちょこでも自分に負けたくない、
いつか私も頼られる人になれるよう、
今まさに私は、スイッチを入れようとしています。
(トランプ)


<仕事で追い詰められたときに>

私のスイッチ、それは、
その仕事を終わらせなければならない時間が
迫っているとき、誰も助けてくれない、
切羽詰まった状況のときに入ります。

どうしても終わらせないといけない。
でもなかなか終わらないのに、
新たな仕事、電話 等々‥‥

あせって、テンパって、どうしよう‥‥!!

そんな時、スイッチが入ります

いつもは発揮出来ない、ものすごい力が出ます。
力というか、集中力が上がり、
体もスピードアップします。

最後は、自分が頑張るしかない!!

‥‥やり終えた後、反動からかぐったりします。
あまり、頻繁には入れたくないスイッチですが。

私が思うに、スイッチは

誰かをあてにせずに
腹をくくって 目の前のことに全力をそそぐこと

と思います。
(まいこ)


<喜びがスイッチを押したとき>

14年前、
念願のイギリス留学の前日、私は、
空港近くのホテルで
ひどい悪寒と高熱に一睡もできませんでした。

親元を離れるのも、海外経験も初めて。
大きなストレスを抱えていたのでしょう。

フラフラになりながら空港へ向かい、
機内でも気分の悪さを
ひたすらガマンするしかありません。

ガイドブックから日本語の通じる病院を見つけ、
到着したら直行するつもりで
その電話番号のメモを支えに、
何とか長いフライトをやり過ごしました。

空港に降り立った瞬間、

自分でも信じられないくらいに、
身体も頭もなぜかシャキッとしたのです。

さっきまであんなに苦しんでた熱も寒気も
何処かに消えたかのように、
気分もスーッとクリアになりました。

憧れ続けたイギリスにようやく来れた喜びと、
世界中の人々がごった返す空港で、
「今、頼れるのは自分だけだ、しっかりしろ」
という気持ちが湧き上がってきました。

そこからの私はたくましかった。
病院の代わりにその日の宿を予約し、
1人夜のロンドンの地下鉄へ。
「私に誰も近づくな!」と警戒心満載で
タクシーへ乗り継ぎ、
ホテルでてきぱきとチェックインを済ませ、
ルームサービスの軽食をつまんで爆睡しました。

翌朝は熱もすっかり下がり、
朝のロンドンから意気揚々と
留学先のリバプールへ向かったのを今でも覚えてます。

あの時、最悪の体調と、
自分でも気づかないほど不安だった私の
「スイッチ」を入れたのは、

夢の一歩を踏み出せた途方もない喜びと、
自分が自分を引っ張っていくんだという自由と責任を、
身体まるごと実感したからだと思います。
(なナリコ)


<ヘコみかけたとき>

好きになりかけていた男性を、
食事に誘ったんです。

同じ職場の、年下の人。
お仕事をする様子とか、時々交わす会話とか、
彼を少しずつ知る中で、
だんだん気持ちが膨れていってしまい‥‥
少々うるさく思われたかもしれません。
案の定、誘いの返事は、

「遠慮いたします。」

なんとも堅っ苦しいことばが並んだお返事でした。

これまでのケースだと、ガックリと落ち込む‥‥
だけど、今回はなぜか違っていたんです。

「これっぽっちのことでヘコんでられない!」

と、出会いの定番、
お見合いパーティーに申し込みました。

お断りメールをもらった数分後の行いに、
我ながらびっくり。

あれは、まさしく「スイッチ」でした。