YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson676
   まほうの帽子 ―― 2.読者の声


ふだん、バカにされないよう
気をはって生きている私だけれど、

はからずも、
ちょっと「おバカ」に見える帽子で、
外に出かけたとき、

人々の対応は、
いつもとうってかわって、

でも、わるいものではなかった。

という前回コラムの、
さいごに出てきた次の問いかけ、

「そのかっこうをすると、
なぜか、周囲の反応がいつもと変わるというもの、
あなたにありますか?」

「そこにどんな人の心があるのだろう?」

たくさんおたよりをいただいたので、
きょうは、読者の声を紹介しよう。


<和解をとりもってくれたもの>

賢そうに見えることがいつもいいとは
限らないのですね。

県下トップの進学校を出て、
国立大学を卒業して、
建築構造設計という硬い仕事をしています。

自尊心は強いほうだと思うし、
仕事相手に賢そうに見られたいという
人並みの欲求はあります。

でも仕事で、
今後の仕事の継続がかかっているような相手と
喧嘩になってしまった時、

和解をとりもってくれたのは、
そのとき妊娠中だったわたしの大きなおなか
だったりしました。

「バカに見える」というのとは
ちょっと違う気もします。

「等身大の、自分とおなじ人間だ、とはっきりわかる」

ズーニーさんの帽子は、

家族に愛されていて、
ちょっと突飛な色や形の愛情でも
それを受け入れる余裕があると
周囲の方々に伝えている。

それが等身大のズーニーさんなのではないでしょうか。

お互いがお互いを
「等身大の、自分とおなじ人間」
と受け入れることのできる社会、

それは受け入れてもらう側の
服装や言葉遣いや振る舞いで作ることができるんだ
と改めて気付かされました。
(ちえ)


<先週のコラムを読んで>

「オレンジの蛍光色のぼんぼんがついた帽子」
が象徴的で、じんわりと心に響きました。

確かに、人をバカにすると、
大事なものが見えなくなるというのは感じますが、

「人をバカにするな」から、一歩進んで、
なにか温かいものを感じます。
(辻)


<すっぴんで見えてくるもの>

女で小柄、中年、小太りと
スキだらけ。

肌が弱いので化粧もしません。

髪型もキマッタ感じでない。

仕事をする上では
本当に仕事ができない人に見えるらしく
バカにされること多々あります。

でも、初対面の人の感じがよくわかるので、
最近はそれもいいかなと思うようになりました。

長く仕事をすることになった人には
初対面の態度がいかに悪かったか
くどくどと言ってやります(笑)
(よーぶー)


<見えない帽子をいつも被って>

私、天然で、自分の中に
その帽子と同じものを持ってます。たぶん。

人が怖いけど、
それ以上にスキだらけでまぬけなんでしょうね。
全然知らない土地で、よく道を聞かれるし・・。

自分のヌケ感が悲しくなることもあるけど、
あらためて、これって私のいいところなのかと。
気づかせてもらって、ありがとうございます。
(わかば)


<だれのための装い?>

美容室帰りに、
親切にされた日のことを思い出しました。

ほぼ毎日、すっぴんでジーパンやパンツで
ヒールの無い靴を履いている私ですが、

その日は、カットして頂くイメージの為に
あまりしないおしゃれな服を着ていました。
また、カット後お化粧を
サービスしてくださるお店だった為、
上手にメイクをしていただいていました。

その後寄った、電気屋さん、小売店、携帯ショップで
本当にどこでも丁寧な説明を受けたのでした。

電気屋さんでは、買わない前提でだったのに、
閉店過ぎてまで、熱心に話してくださり。
自分はいつも通りで、
よく行くお店で違和感を感じてました。
後から、自分の服装・外見のせいだと気づきました。

「服装・外見は自分の為ではなく、
 周りの方の為なんだよ」、

という言葉を、時々思いますが、
周りの方の為にあって、
それが回って自分の所へ来るのかなと思いました。

ズーニーさんも、きっとその帽子をかぶっている時は
それが被れる状況であり
(多分難しい仕事等の時ではない)、
ご自身もオレンジ色のパワーで
軽快な身体・心にもなって、
表情もかぶらない時よりも
柔らかくなっているのだと思います。
そして、声をかけられた経験が
より柔和にすることにつながっているのだと思います。

最近出会った乳幼児の保育ボランティアの方は、
かわいいアップリケのついたエプロンをしています。
そしてその表情はにこやかです。
今度私も、アップリケをつけたエプロンで
子どもたちと遊ぼうと思います。

大学の恩師は、しっかりした体格の方ですが、
トトロ等のキャラクターのネクタイをよくしています。
武道も強いという人だったので
あえて、とっつきやすい印象にする、
という計算もされていると思っています。

自分は、最近マスクを毎日ずーっとしていますが、
職場の方やお客さまから
結構話しかけてもらうことが減ったかも、と
今書いていて思いました。

明日からちょっとマスクは必要になってから
つけるようにしてみようと思います。
自分自身も、ちょっと自由になりそうな気がします。

次のお休みは、口紅を塗って眉を書いて
ときめく自分が、ありたい柔らかい表情が、
自然にでてくるような服とアップリケ、靴下を
探しに行こうと思います。
(玲子)


<模索中>

ここ数年、
じぶん自身もこういう工夫で
他者との風通しをよくできないか
と試みつづけていたんです。

ロックミュージックがずっと好きで、
すこしハードな格好を好んでいたのですが、
だんだんと「かわいい要素」のあるものを
取り入れるようになっていきました。
(あおい30)


<表情と服装のギャップ>

そのかっこうをすると、
なぜか、周囲の反応がいつもと変わるというもの、

ありますあります。

オレンジ色のコート。

ボタンを付け替えてから
途端に周囲の反応が変わったので
かなり驚いています。
ええ。
話しかけられる確率高いです。

靴だと
足袋型の靴ですね。
効果抜群です。
やっぱり
話しかけられますね。

これらを身につけていると
どうも
「好奇心旺盛」
「人懐っこい」感じを与えているようです。

普段は
「まじめ」
「おとなしい」
という印象で
話しかけづらいと言われるんですけどねぇ
これでも。

普段のことを知らない人でも
表情と
ギャップのある格好をしていたら
それだけで
惹き付けられるものがあるのでしょうか。
(泉鈴)


<人の心を揺らすもの>

それは、母が作ったセーターやマフラーです。

手作りの感じ、というのが
人の心を揺らすのかな、と思います。

着ている私はというと、
いろいろな人から話しかけられるし、
面倒で面白い感じで複雑です。

一度職場の同僚に、
カウチンセーターを着せてみました。
一言、
「今時、こんなにみっちり編まれているセーター、
 ないですよ」

みっちり、みっちりした間、
人と人との関係、
少ないような感じがします。

母のセーターを着ると話しかけてくる人は、
みっちりした間が欲しいのだと思います。
(eco24)


<叔母からのメッセージ>

叔母から誕生日にプレゼントされた
夏用のカーディガンは、
自分では手に取らないような
フェミニンなデザインでした。

ちょっと気恥ずかしい気持ちを隠しつつ
職場に付けて行くと、
同僚の女性たちからはいつになく好評価で、
さらに気恥ずかしいのと同時に
嬉しかったのを覚えています。

「もう少し可愛らしく、女性らしく」

という、地味な私への
ささやかなメッセージなんだろうな、と思います。

以前ならそんなメッセージに内心反発して、
「私のことあんまりわかってないな〜」なんて
冷めた見方で捉えていたと思います。

でも、ひとりの人間は球体のようなもので、
光をあてる方向がちがえば見え方も違う。

「叔母」という距離で私を見ている人のメッセージも、
私という球体のひとつの見え方を反射している。

正しい・間違っているという判断は差し挟まずに、

自分を違う視点から捉えるチャンス、

しかもちょっとワクワクするような、
楽しく手を伸ばせるような変化のチャンス

として考えると、
周りとの接し方や自分自身との関わり方も
少し柔らかいものになるように感じます。
(なナリコ)



読者のメールを読みながら、
あらためて自分が、ふだん、

「ばかにされまい」
「センスよく見られたい」
「誤解されまい」

と気をはって生きていたんだな
と気づかされた。

気をはって、それが知らず知らずに
人に対して「バリア」をはっていた。
いわば、

「アイデンティティのバリア」

家族がくれた、
頭のてっぺんにオレンジのぼんぼんがついた
とんがり三角帽子は、
バリアを取り去る帽子だった。

自分が自分らしく、
中身とブレず、
人に正しく理解されるのは大事。

尊重される、賢く見られる、センスが良いと思われる‥‥
どれもいいことなんだろうけれど、

そのことと、
その場にいる人たちが楽しいかどうかは、
また、別問題。

ときにブレて見られても、いいじゃないか。

そう思えるようになってきた。

そのブレが、
自分のふり幅になったり、
自分の新発見になったりする。

家族がくれた、
およそ自分の好みに合わなかった帽子。

自分の気に入る格好をすることに
かなりこだわってきたけれど、
この帽子を被って、ひと冬過ごしてみて、
気がつけば、
けっこう「なんでも来い!」
の自分になっている。

春からの装いが、楽しくなりそうだ!

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2014-03-12-WED
YAMADA
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