YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson237 近づこう、話そう。

春、卒業をひかえた高校生から、
こんなメールが届きました。

>>はじめまして。高校3年、♀です。
大切な人を失いました。高校生ながら真剣でした。
でも未練タラタラなんです。

なんで!? と考えて、考えて、悩んで……
もう4か月も経っていました。
二人してまさに「相手を考えすぎ」てました。
あぁ…あの時ちゃんとケンカできてたらなぁ。
と思いました。

3月1日、私達は卒業します。

彼にとにかく伝えたい事が
たくさんたくさん残っています。
人として今でも尊敬しているから、
このまま同じクラスなのに無視状態はおかしいから、
本当の私を知って欲しいから、
彼にぶつけてみようと思います。
そう思えたらスッキリしました。
          (読者 高校3年、♀さん)


卒業式、
きのうでしたね。

卒業おめでとう!

「本当」は届く、と私は思います。

先週のコラムには、
全国の、相手の気持ちを考えすぎる、優しい人から、
だからこそ、
「相手の気持ちを考えない勇気」のメールを
いただきました。

もう一通こんなおたよりをお読みください。

>>先週のコラムの、

「しばらく距離を置くことが
人間関係の得策のように言われているけれど、
ほんとに距離を置くことが
いいことなんだろうか?
なんか、縮こまっているなあ。」

こういうの、あります。(汗

営業の現場で、
ちょっとした行き違いから、
相手に対する負い目のようなものを
勝手に自分の中にためこんでしまうようなケース。

お恥ずかしい話し、
「もう少し、もう少し」なんてやっているうちに、
10年以上会ってない相手が一人います。

その方は、既に取引先を辞めてしまっていて、
もうどうにもならないのですが。

縮こまって、
「しばらく距離を」と考えそうになるたびに、
その人のことを思い出すようにしています。
           (鹿野青介さん)


ふと気がつくと、
人と人との距離が「離れて」いる。

人づき合いの特集を多数やってきた編集者さんが、
「だんだん回を重ねるうちに、
 人づき合いをうまくいかせるには、
 人とつきあうな、と読者に言っているようで。
 だんだんと、そういう結論が見えてきてしまって……」
と言っていた。すごくよくわかった。

相手との距離を尊重し、
相手のやり方を尊重し、それは正しかったはず。

でも、いつのまに、私たちはこんなに
「離れて」生きるようになったんだろうか?

「ストーカー」という言葉が出てきてから
たくさんの人が、しつこさに身構えるようになった。

いったいメールだったら、
変なメールが何通来たところで、みんな、
「ストーカー」と呼んでいるのだろうか?
100通? 30通?

現実には、
どうも2〜3通で見切っている人が多いようだ。
いや、それどころか、
たった1通、ヘンな長いメールが来ただけで、
もう「ストーカー」だと、
メールを人に見せて騒いでいる。

名付ける「速さ」、切り離す「速さ」。
自分にもそんなところがある。

エキセントリックなメールの、30通や40通、
別にメールボックスが腐るわけでなし、なぜ、
どーんと受け取っておく器量がないのだろう?

いやそれ以前に、
2〜3通きて、メールの内容がいやだと思ったら、
その時点で、
「ちょっとこのメールわかりづらいんだけど」
と話してみればいいことだ。
変に思う方がヘンかもしれない。

たてつづけにメールがきて負担になったら、
「ごめん、読むスピードがおっつかない、
 もう少し、ゆっくりくれるかな」
と頼んでみればいいだけだ。

なぜ、それが言えないのだろう?
言えない距離なんだろう?

現実にしつこい人はずっと少ない。
それよりも、さらり乾いた寂しい人、
「しつこくされたらどうしよう」とか、
「しつこく思われたらどうしよう」とか、
しつこさへの「怯え」の方が、ずっと多く、ずっと遠く、
人との距離を離している。

たぶん、日常の
ちょっとずつ、ちょっとずつ、の判断が、
人と距離を置く方へ、距離を置く方へ、
枝分かれしてきた結果なんだろうな。

なぜ、そこで「話す」道を選ばないのだろう?

読者のカオリさんは言う。

>>このごろ、
相手の気持ちを先回りして読もうとしないように
意識するようになりました。

考えすぎても、いいことなんて
ひとつもないように思えましたし、
また、相手に合わせるというのは、
気を遣っているようでいて、
その実、自分の考えるべき問題に
自分で責任をとろうとしていないような気がしたからです。

周りを見てみると、世の中を面白くしているのは、
周りになんか気を遣わない、
自分の面白いと思ったことを
実践している人たちではないかな、

気を遣って生きている人は、
実は気を遣わない人にいろんな面で
ぶら下がって生きているのでは。
           (シミズカオリ)


自分で面白いと思うことを相手になげかけて、
思うような反応が得られなくても、無反応でも、
それは、イコール、
自分の放ったものがまずかったということではない。
そこで、自分を変えないことが大事なんだろうな。
ぶらさがらない生き方でもある。

読者のIZUさんは、
こんな体験を寄せてくれた。

>>2年前にメールしたものです。当時は、
短大で、ある東京の作曲家の先生が実践している
合奏理論をどうしても学びたくて
その先生の直弟子に直談判し、
鹿児島から毎月東京へ通って3年になる頃でした。

「人間関係が目的じゃない」
と心の中で自分に言い聞かせながら
研修を続けていましたが、

その直弟子の先生との関係が立ち行かなくなり、
結局は自分をさらけ出すあと一歩の勇気出ず、
何もかも放り出して逃げ出しました。

しかも、最後は師匠だった作曲家の先生に
今までの思いのたけをメールでぶちまけ、
ひどい辞め方をしてしまいました。

先生はじめ、現場の人たち、研修仲間、
たくさんの人に迷惑をかけました。

そして、一年前の3月の終わりに、
その先生たちが指導している
合奏グループのラストコンサートが
行われることを知りました。

そこは、私が初めて実際にその音楽に触れ、
自分の世界観をひっくり返された場所だったので、

最後まであれこれ迷い、悩みましたが
もう何を言われても、
どう思われてもいいから
とにかく聴きに行きたいという
本能に従うことにしました。

覚悟を決めて会場のドアを開けると、
先生二人の顔が飛び込んできました。

お互い目が合った瞬間、
先生は私の名を呼び、駆け寄り、抱き合い、
それで、もう何かが一気にとけていきました。

その後のコンサートもいつも以上にすばらしく、
私は久しぶりに音楽に全身全霊で浸りました。

あの時のことを思い出すと、
今でも体がじーんとあったかくなって
力が沸いてくる感じがします。

やっぱり、自分の本当の思いにいつも耳を傾け、

それを判断基準に自分が動いたり、
相手と関わっていった時、

初めてそこから新しい世界が
広がっていくのだと思います。

来月、その先生が指導する合奏実習の合宿に
参加することにしました。

正直、また
「恐れ」に縛られないかとか不安になり、
やっぱり行くの辞めようかと思ったり、
でも「なんとかなるさ!」と思ったりしています。

結局あの頃と
何にも変わってないのかもしれないけど、
ちょっとでも、自分の思いと身体が一致して
それを音に表せられる瞬間があったら幸せです。

そう言いながらも、きっとみっともなく
最後まで「どうしよう〜」とか言っていそうですが。

やはり、こうやって恐れの中に飛び込んで、
押し戻されても押し返して、
そうやってちょっとづつ、
自分を広げていくしかないという気がします。
とにかく、行ってきます!  
         (IZU)


そこで、
近づくか、離れるか?

読者のやすかふぇさんは、その問い自体、
ナンセンスなのだと言う。

>>先週のコラム、胸をチクッと突かれました。

友達にメールを送るとき、
「今忙しいのでは?!」、「邪魔になるのでは?!」
「迷惑にならないように」といちいち気にしている。

それも無意識にです。
相手の反応にビクビクしてて正直疲れます。

そして、そんな気遣いの言葉を多用することによって
メールや手紙で伝えたかった気持ちの濃度が
薄まってしまいますよね。
そこにあるのは「相手を気遣った私」っていう
ただの自己満足。。。。。

社会に出て、あれほど一緒にいた友人たちとも
なかなか会えなくなってきた頃から、
こうゆうふうに気を使い始めたような気がします。

すごく仲のいい友達だから、
たまには会ってお茶したいし、飲みにも行きたい。
それを伝えるのに躊躇するなんてナンセンスですよね。

「会おうよ!」
「愚痴をきいてほしい」
「楽しいことがあったの_」
「相談にのってほしい」

って、もっと素直に言いたいなぁと思いました。
               (やすかふぇ)


会おう、
話そう、
それでいい。

春。

私も、縮こまりから、ようやく卒業できそうだ!




『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房1400円




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「山田ズーニーさんへ」と書いて、
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2005-03-02-WED
YAMADA
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