YAMADA
おとなの小論文教室。
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Lesson161 文章をはやく書くには?


文章を、はやく、書き上げるには、
さきに文章構成を決めてしまうことだ。

すごくいい文章になるかどうかは保証できないが、
要求をはずさないレベルの文章を、はやく、
書かなくてはならないときに、絶大な効果がある。

たとえば、あなたが、
「私の幼少時代」というタイトルで、
800字のコラムを自由に書いてください。
と頼まれたとして。

慣れないと、書いては消し、書いては消し、
えんえん時間がかかる。

ところが、
「私の幼少時代」というタイトルで内容は自由に、
ただし、
型は、つぎのとおりに書いてください、
と頼まれたとする。

第一段落 幼少時代の印象に残るエピソードは?
    → 体験をできるだけ具体的に、約300字で。

第二段落 そこから自分について何が観えてくるか?

    → 体験から自己分析を筋道立てて、200字で。
       
第三段落 つまり、幼少時代の自分とは?
         (キーワードの提示)

    → 一語で定義し、その説明を含め、100字で。

第四段落 幼い自分をふり返って、
     今、自分は何を想うか?

    → 現在から過去を観ての想いを、200字で。

これならなんとか、書けそうな気がしてくる。
これでも、書けそうにないと言う人も、
少なくとも、
書いていて「わけがわからない苦しみ」から、
「自分はいま、面白いエピソードが浮かばないんだな」とか、
「キーワードが出てこないのだな」とか、
わけのわかる苦しみには、なりそうだ。

たとえば、小論文の入試など、
時間との戦いで文章を書かねばならない場でも、
合格した人の大半が、
事前に、3〜4段構成の、
書きやすい自分の型を決めて持っていた。

論点→論拠→意見。とか、
問題提起→問題の現状→原因分析→問題解決。
などの基本から、
皆、自分なりのアレンジをして持っていた。

ひとつ、自分の基本の型があると、作業がはやい。
型がある人の方が、
変形も比較的自由にでき、柔軟なようだ。

逆に、もやもやと、書いては消し、
書いては消ししているとき、
こうした、枠組みそのものから、
自分で、考え、起こしていこうとしているわけだ。

混沌とした世界に、
秩序や方向を、新たにつくろうとしている。
だから、書くのに時間がかかっている人も、
それは、尊い、必然性のある作業なのだから、
落ち込まないでほしい。
そこからいいものが生まれてくる。

さて、こうした、型が
どうしても自分でつくれない場合はどうしたら
いいだろうか?

そういう人は、
「型取り」練習をしてみるといいのでは?

用意するものは、
コラムならコラム、
依頼文なら依頼文、
小論文なら小論文と、
自分が書きたい方向の文章で、
とてもいいと思ったものをひとつ用意する。

自分が以前書いたものでも、
プロのものや、他人のものでもいい、
自分の心に触れた大好きな文章であるところがみそ。

その文章の構成を割り出してみるのだ。

さっそく、わたしもプロのコラムの中から、
お気に入りのものを1つ取り出してやってみた。

1600字(原稿用紙4まい)弱の新聞コラムで、
全部で6段落あった。

第一段落 身近な体験から問題提起をする
   自分のごく日常のささいな体験から書きおこし、
   そこで、自分の心にひっかかった疑問を
   「なぜ、あれは、……だったんだろう?」と提起する。 

第二段落 提起した疑問の答えを、まず一言で言い切る

   疑問の答えを、
   「それは、……だったからだ。」と、
   いきなり一言で言いきる。       
↓       
第三段落 次に、くわしく、筋道立てて説明する

   第二段落を補足する形で、
   疑問の答えを、こんどはくわしく筋道立てて解明する。
   ここですっきり疑問は解決される。
↓       
第四段落 同じ問題構造を抱える、
     もっと社会的な事例をあげる

   同じ問題構造をかかえる具体例をもう一つあげる。
   ただし、今度は、身近な個人的なことではなくて、
   もうちょっとビジネスや社会に通用する例をあげる。
   それにより、個人的な問題は、普遍化されていく。
↓       
第五段落 その事例の問題解決をする

   はじめに身近な例を解き明かした理屈をつかって、
   社会的な事例の方の問題を分析し、原因を割り出し、
   解決の方向を示していく。 
↓       
第六段落 現代に潜む問題とは?
     その中で何が大事か?

   いままで言ってきたことを、
   「結局、現代には、このような問題が潜んでいるから、
    このような考え方で対処するのが大事だ」
   という形でまとめる。

これが、6段落の型になる。

むかし、気に入った洋服に、
直接、紙をあてて、線を引き、
型紙をおこしている人がいた。
型紙さえ仕入れれば、あとは、
自分の好みの色や柄、質感で、
同じ型の洋服がいくとおりもつくれる。
アレンジも自由というわけだ。

文章からの「型取り」は、それに近い作業だ。

なれないと少し難しいが、

まず、文章全体を1回通して読み、
次に、1段落読んでは「要するに…」と要旨をまとめ、
最後に、結局、その段落の役割は何だったか?
「意見」なのか? 「問題提起」なのか?
「具体例」なのか?
意見の「根拠」なのか? と割り出していく。

長い文章よりは、短いものの方が。
また、文系の人が書いたものよりは、
数学者とか、科学者とか、
理系の人が書いた文章の方が、
論理構成が割り出しやすい。

そう言えば、
人の意見や、文章のフレーズを盗んだら、
盗作だと大変なことになる。
ところが、「文章の構成を盗用しただろう!」
というような問題を、
わたしは、まだ、聞いたことがない。

文章の構成の方こそ、
著者の思考の筋道であり、
尊い、知的生産であるのに、なぜだろう?

先ほど、「型取り」した、文章構成にそって、
私も、自分の伝えたいことを書いてみた。

身近な体験から「なぜ?」と疑問をあげること、
そのワケを分析したり、説明したりまでは、
つまり、3段落目までは、すいすい書けた。

ところが……。

4段落の、社会的な事例をあげるところで、
ずどーんと、つまづいた。

マイナスの見方をすれば、
私は、個人的な体験を、社会に普遍化するところが
弱いのだ。その方面の知識も疎いのだ、と言える。

でも、肯定的にみると。
いまの私は、私の個人的な発見を、マクロな視野、
社会全般に普遍化して語るのに、あまり興味がないようだ。

私は、いま、個人としてつかんだものを、
個人の視点のまま語ることに興味があるようだ。
1人称「個人」、2人称も「個人」
私は、こう考えるが、あなたはどうか?
と、問うことに、気持ちが向いているのだと思う。

このように、夏目漱石でも、湯川秀樹でも、
好きな人の文章の「型取り」をして、
それに添って書いてみると、
自分の知識の幅や、能力の幅、
同時に自分の思考回路、志向も見えてくる。

そこから知識を集め、思考力を磨き、漱石を目指すもよし。
自分の志向にあわせて、
文章構成の方を書きやすくアレンジするもよし。

おとなになったら宿題のない夏だが、8月31日までに、
大好きな作家で、
型取りして文章を書いてみてはどうだろうか?




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

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2003-08-20-WED

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