YAMADA
おとなの小論文教室。
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Lesson141 はじめての人に自分を説明する

時期がら、「自己紹介」ラッシュなのだろうか。

はじめての人に自分を説明するって、おっくうだ。
何を言えばいいんだろうか?
わたしも、つい、お茶を濁してしまいたくなる。

自己紹介に決まりなんてないわけだから、
思うように、自由にやればいいのだ。
だがもし、何を言えばいいか、わからなくなってしまったら、
ちょっとだけ、今日の話を思い出してほしい。

あれこれやってみて、わたしが今、
一番いいんじゃないかと思っている手がある。それは、

「今から未来に向けて、自分は何をやりたいか?」

という「意志」を、はっきり言っておく、という手だ。
自分を「意志」で説明する、とでも言うのかな。

自分を「趣味」や「特技」で説明する、
というのは、わりとよく見かける。
たとえば、会社で新人が自己紹介するときに、

「4月から、営業課に配属になりました田中です。
特技はスポーツで、
学生時代は、水球で全国大会までいきました。」

とか、初対面の人が多い飲み会などで、

「えっと、鈴木と言います。
えーと、趣味はぁ……なんだろう、えっと、映画鑑賞です。」

というような感じのものだ。
これで、自分がしっくりすれば、まったく問題ない。
だが、これじゃどうも、自分の説明になっていないんじゃないか、
と自分で思うとき、なにが、違うんだろうか?

もしかしたら、その趣味は、
自分にとって、あくまでも「趣味ていど」のものに過ぎなかったり、
特技は、「過去のもの」で、今はもう、やってなかったり
しないだろうか?

だったら、自分の「主旋律」ではなくて、
プラスアルファの部分で説明していることになる。
ちょっともったいない。

「自己紹介」の言葉は、意外に印象が強いものだ。
そこをきっかけに、あとで話かけてもらったり、
何年もたって、本人さえ忘れた自己紹介の言葉を、
人がおぼえていることさえある。

自分と初対面のだれかとの、
関係のはじまりにくる言葉だからだろう。
自分と相手の、つながりの「種」。

だから、自分のこれまでで、
いちばん「栄光ある」部分にスポットを当て、
「水球で全国大会…」と言いたい気持ちはわかる。
そして、自分の「主旋律」が、今も水球にあるのなら問題ない。

ところが、「田中くんと言えば、水球で全国大会の人よね。」
と人におぼえてもらえたとしても、
自分にとって、それは過ぎたことで、
今はもう、スポ―ツはやっていない。
興味や関心は他にうつってしまっている、というならば、
「種」の置き方として、少しもったいない気がする。

同僚に「水球で全国大会ってすごいねえ、いまもやってるの?」
と話し掛けられても、「いや、今はもう…」
と話がとぎれるかもしれないし、
たとえ話がはずんでも、いまの自分の問題関心とはそれた、
「過去の自分」で関わることになるから、活気がちがう。

「趣味は映画…」も、もし、
「これといって他に趣味がないからしかたなく言った」としたら、
なら、今、自分の世界の大部分を占めているものは何か?
たとえ地味なものでも、そっちを言った方がいい気がする。

自分の「主旋律」はなにか?

理想を言えば、「過去→現在→未来」とつづく時のなかで、
自分は何者か、が語れればいい。
「過去から現在まで、私は、このような経験をしてきて、
そこから今、このようなことを想っています。
だから、未来に向けてこういうことをやりたいです。」
というように、自分の主旋律が、きちんと説明できるといい。

でも、これを語りきるのは大人でも難しいし、
第一、説明が長い。

そこで、自分が何者か、まだつかめない人でも、
人に言うほどの、特技も、趣味も、栄光も、歴史もない人でも、
「いまから未来、自分はどうしたいか?」で、
自分を端的に説明することができると思う。

初対面のとき、わたしの友人は、
「小説が書きたい」という「意志」で自分を証明した。
それに向けて、いま何をしているかを説明した。

私は、友人の過去を総集編で見せてもらうより、
肩書きや資格をくどくど説明されるより、
ずっと速く、はっきり、彼女という人間を認識できた。

「自分の意志にまだ自信がない」、という人でも
うそや、はったりは、よくないが、
自分が本当に想っていることなら、
言い散らかしていいんだと私は思う。

そこを「種」につながる人も、寄せられる情報も、
きっと、あなたを引き上げてくれる。
「今→未来」の最大の関心事だからあなたの向かう勢いが違う。

今から未来に向けて、どうしたいか、
自分を「意志」で説明する。

自分と相手との関係は、「いま」はじまったばかり。
そして、「未来」につなげるものだから。




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内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
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読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2003-04-02-WED

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