YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson139  
どんなことを言えば、人は歓んでくれますか?



先日、ライブの帰り。
ともだちと、アジアごはんを食べた。

いつも元気な、そのともだちも、
その日は、いろいろなことが重なり、
さすがにトーンが暗かった。

そういう状況はいやじゃない。
私たちは、そのトーンの中に身を置いて、しばらく
まったり……………………していた。

ところが、

そこに遅れて、もう一人の友だちが来て、
彼女の様子はころっ! と変わった。 あれ?!
ひざを打って、
手をたたいて、
大声でわらいはじめたのだ。
目とか、イキイキしている。

もう一人の友だちは、話がうまかった。

あちゃー、もしかして、私がつまんなかった?
ごめんよー……。
わたしも、まじめ一辺倒ではなくて、
もっとエンターテイメントというか、
場を盛り上げる、こう、はじけるような、
話をした方がいいんじゃないか。ちょっと落ち込んだ。

でも、それって、何を話せばいいのだろう?

自分の数少ないレパートリーの中で
ああいう話をしようか、こういう話題はどうか……、
とシュミレーションしてみた。

どれもつまんない。話してて、こっちが持ちそうにない。


小論文でたまに聞かれるのが、
点の取れるものを書くためにどうするか、
こんな質問だ。

「国際問題について書けって言われたって、
まさか、僕はわかんないし、関心ないし……、
なんて書けるわけないですよね。
自分の意見なんてきれいごとを言っても
ある程度ウケる方向って決まってるんじゃないですか。

で、どんなことを書けばいいんですか?」

なんか、違うなあ……。
もやもやしていたある日、頭にふと、
こんな言葉が浮かんだ。


ああ言おうか、こう言おうか、ではない。
ほんとうのことを言うために、どうしようかだ。


先日、ある編集学校の生徒さんと、
「取材して記事を書く」ことの難しさの話になった。

「なかなか、自分が取材して面白い、と思ったことと、
読者から見て、面白いことが違いますからね。」

わたしが、取材ものを書きはじめたときを想いだした。

編集の仕事をしているおかげで、
いろいろ面白い人に取材で会えた。
でも、それは、たくさんの読者を代表して、
会わせてもらっているのである。

読者が、その人について知りたいことと。
わたしが取材のために、その人のことをいろいろ調べ、
現場に行って、その人に会ってこそ、感じた面白さには、
温度差がある。
読者は何を求めているのだろうか?
どういう軸で記事を立てていったらいいのか? 

でも、いま、私は、そこで悩むまいと思う。
わたしが本当に面白いと想ったことを、
読者に伝えるためにどうしようか、だ。

そこから先は、すっごい悩むと思う。

わたしが感じた面白さを伝えるには、
読者とは、温度差とか、
手続きとか、
共有しなくてはいけない情報とかいっぱいあるから。
その先は、これからもずっと悩みつづけると思うけど、

前提のところは、もう悩まないでおこう。

スポーツ選手にしろ、俳優さんにしろ、
多くの人が、その人に聞きたいであろう、
もっとも一般的な質問をし、
最も典型的なテーマでまとめるなら、
私でなくとも、
きっとだれかが、もっと上手にやってくれる。

その日、私しか、
つかめなかった本当に面白いと想ったことを、
読者に伝える方法について、考えぬこう。

小論文は、暗記に頼らず、
まったく未知のテーマを与えられて、
その場で、堂々と自分の頭を動かして考えることに
面白さがある。
その日その時、
ほんとうに自分が考えたことを伝えるために、
それで相手を説得するためにどうしようか、それだけだ。

場を盛り上げる話なんて、まだまだ十年早い私だけど、
たぶん次の問いを手放して場に迎合しようとしたとき、
すべてを失うのだろう。
話がすべっても、場を引き潮のようにひかせても、
私は、この問いから先だけを、悩んでいこうと思う。

「本当に想っていることを言うために、どうしようか?」




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2003-03-19-WED

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