YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

121 動機ウキウキ

何を書くかより、
どんな気持ちで書くか、
つまり、動機が大切と、
わたしは、ここで何度か言ってきた。

このコラムも、
自分の頭を動かしてものを考える人や、
自分らしい言葉で伝える人が、
一人でも二人でも増えてくれたらいい、
そう想って書いている。

では、はやくから動機がはっきりしていた自分は、
迷いがないのだろうか? 

とんでもない。
むしろ、動機がはっきりしてから問題は起きた。
コラムをかきはじめて1年たったころだろうか、
邪念が浮かぶようになった。

書いていて、褒められたいとか、
認められたいとか、
仕事を得たいとか、
不純な動機がでてくるようになったのだ。
欲といったらいいか。

読者の目はごまかせないから、
書き手の想いは、見透かされてしまう。
なんとか、しなければ。

そこで、私は、構想メモに、
「この文章に向かう動機は何か?」はっきり書いて臨んだ。
迷ったときは、つねにそこを読み直す。
あるいは、徹底的に考え抜いて、
邪心を排除することに努めた。たとえば、

「自分だったら、人がそんな気持ちで書いたものを
 読みたいと思う?」

「認められてどうしたいの?
→人の力を引き出す仕事をしたい 
→だったら今、純粋に人の力を引き出すものを書けばいい」

というふうに。
滑稽に見えるかもしれないけれど、
わたしは、大まじめに考え抜いて、自分を納得させ、
不純な動機を一つひとつ消していった。

そしたら、なんと! 書けなくなった。

初夏だったとおもうが、
家でパソコンに向かっていることもできず、
下北沢を歩き回り、
歩き回っても、どうにも、どんどん、追いつめられていき、
なにひとつ、わき起こってこないまま、
家に帰り、再びパソコンに向かったときの
自分のふさがりようといったらなかった。

そのとき体の芯がつかんだ。
動機が1つ、は、いけないんだ、と。
動機はいくつもあったほうがいいのだと。

褒められたい、と言う気持ちがわいたら、
それも自分と受け入れる、
仕事を得たいと思ったら、
それも、素直な気持ちと認める。
そうやって、清濁あわさったものの中から、
もっと太くて、あったかい、
自分の動機を立ち上げていけばいいのだ。

そういうふうにしていったら、
逆に、まわりを気にせず書けるようになっていた。

発見したとき、興奮して、
当時書いていた本の編集者さんに話したら、
しごく当然ですよ、という顔をして、
『学ぶ意欲の心理学』という本を見せてくれた。
そこには子どもが勉強に向かう6つの動機が書かれていた。

学習自体が楽しい  (充実志向)
他者につられて    (関係志向)
知力をきたえるため (訓練志向)
プライドや競争心から(自尊志向)
仕事や生活に生かす(実用志向)
報酬を得る手段として(報酬志向=*勉強できたら、
                おこずかいなど)

動機は、
「やればトク、やらないと損する」というようなものから、
「その内容だからこそやりたい」というものまで、
複数の軸で編み上げられている。そして、そのあとに

「いろいろな動機に支えられている学習者というのは、
 なかなかくじけない学習者だと思うんです。(市川伸一)」

とあった。
自家発電する、ということを、私は考えていた。
他から、目標が設定されない、尻もたたかれない、
自分の力だけで、前に、前に進んでいかなければいけない。
そんなときに、

あんな燃料はだめ、これはだめ、
と燃料から不純物を排除して、小さく小さくし、
やがて発電もできなくなるよりは、
どんな燃料でも、つかんで、燃やして、
前に前に進んだほうがずっといい。
燃料は「意欲」で、そこには「欲」という字も含まれる。

生きる方へ、生きる方へ、
自分を生かす方へ、生かす方へ、
岐路では、それを考えたらいいんだなと思う。

あなたは、いま、どんな燃料で進んでいますか?



『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2002-11-06-WED

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