YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson113  運をはこぶメール


食事など、誘いのメールを出して、
返事をもらい、日時を決める。
たったこれだけのやりとりにも、性格って、出ますね。

トラブルメーカーのA子さん、
先輩から「来週あたり食事でもしませんか、都合はどう?」
と、誘いを受けて、こんな返事をしています。

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えっと、来週ですか?
わたし、けっこうバタバタしてんですよね。

月曜は、会議が長引くかも。
火、水は、広島出張なんです。
木曜日は、一応なにもないけど、
金曜、発表なんで落ち着かないかなと思うんですよね。

土曜は8時まで、新橋で英会話なんですけど、
そのあとじゃ、おそいですかねえ?
日曜は、大学の同窓会で箱根なんですよね。

A子
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相手は、どうしたらいいか、迷います。
A子さんは、自分が思ったことを、
思った「順番」で書いています。
メールを書くとき、自分が言いたいこと、と、
相手が知りたいこと、の二つの情報がある。

それを、どういう「順番」で書くか? 

迷ったときは、「相手が知りたい情報」を先に、
その後で、自分が書きたいことを書くようにしてみましょう。
これに基づいて、A子さんのメールを、整理してみます。

………………………………………………………………………
せっかくお誘いいただいたのですが、
来週は忙しく、無理のようで、とっても残念です。
ほんっとに、ホントに、ごめんなさい。
また、ぜひ誘ってください。

月曜は会議、火・水は広島出張。
金曜はプロジェクトの発表、
土曜は英会話、日曜は大学の同窓会で箱根、と
盛りだくさんですが、がんばります!

A子
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先輩の知りたいであろう「返事」を考えて、決めて、頭に、
自分の「都合」は後に、
これで、わかりやすくなったのですが、
何か、まだ、たりない。
それに、後半は、相手にとって必要なんだろうか?

ここには、「相手が本当に知りたい情報」がないんです。

ときどき、チケット売り場などで、
「この窓口は只今つかえません」
って、ふさがっていることがあります。
じゃあどうすればいいんだ、と困る表示ですよね。

「この窓口は只今つかえません。申しわけありませんが、
2番、3番窓口をおつかいください」

と書いてあったら親切です。
さらに、この表示、前半は必要ありません。

「2番、3番窓口をおつかいください」

むしろ、これだけのほうが、
見た人は迷わず、一発で次の行動に移れます。

相手がいちばん知りたい情報は何か?

A子さんのケースで、先輩が本当に知りたいのは、
おそらく、いつがダメか? なぜダメか? ではなく、
「では、いつならいいのか?」です。
そこで、こんなふうにしてみたらどうでしょうか?

………………………………………………………………………
メール、うれしく拝見しました。

再来週、2日(水)、または3日(木)、
7時くらいからはいかがでしょうか?
少し先ですが、この日なら落ち着いて食事ができます。

もし、お急ぎで、来週のほうがよかったら、
土曜8時半、銀座など新橋からアクセスしやすいところなら、
何とか行けます。

でも先輩とは久しぶりだから、
ゆっくりできる日のほうがいいかなと。
お返事おまちしてます。たのしみです!

A子
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このメールでは、相手がいちばん知りたい情報は何か? 
と考え、頭に置いています。
以降、相手が知りたい情報を、
相手の都合から順番づけしていき、
A子さんの都合はカットしています。
情報は、配列が命。
相手にとって必要な順番で情報が組まれていれば、
表現を飾ったりしなくても優しいメールになります。

大抵の場合、相手が、いちばん知りたい情報とは、
「いつがダメか、何がダメか」という否定要素ではなく、
「では、どうすればいいか?」
次のアクションを起こすための指標です。

「では、どうすればいいか?」をひとつだせば、
だめな事項や理由をいくつも並べたてたり、
おおげさに謝ったりしなくても、事は運べます。

運(うん)は、運ぶと書きます。
人の想いを自分で止めず、前に運ぶにはどうしたらいいか?
そのために、ちょっとだけ頭を動かしたメールが、
「運をはこぶ」といえないでしょうか。





『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2002-09-18-WED

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