YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

そう言えば、最近、
質問されることって自分にはないなあ。
               (読者 仁美さん)


Lesson93 私に、ききたいこと。

自分を質問ぜめにすることで、
自分の内面はあぶり出せる。

自分は、自分にとっての
良いインタビュアーになることをめざそう。

それには、
具体→抽象、現在→過去→未来など、
質問のレベルと配列に、ひと工夫がいる。

WHY?(なぜ)のような、
大切だけど、むずかしい問いを、
早々と立てると、自分を追いつめてしまう。
答えやすい質問から先にしていき、
「ここぞ!」というところで、
「なぜ?」を自分にぶつけよう。

というところまで前回おさえた。

今日は、10の質問について、
読者の方からきた回答を見ていこう。
(まだ答えていない人は、
次の質問に心の中でささっと答えてから、
後を読むと、よりいいでしょう。)

1. いま、食べたいものは?
2. 今週中にどうしてもやりたいことは?
3. 今月中に予測できるもっとも楽しいことは?
4. 今年中に会いたい人は?
5. この1年でいちばんつらかったことは?
6. 明日の自分、現実的に考えて、最悪のシナリオは?
7. 明日の自分、現実的に考えて、最良のシナリオは?
8. 最悪のシナリオになるとしたら何が原因? ←WHY
9. 最良のシナリオになるには何が必要?
10. 今から24時間以内、いちばんやりたいことは?
質問に回答していく中で、
あなたが感じ、考えたことを聞かせてください。

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<Kさんの場合>

「10の質問」ですが、こんな、フツーの質問にも
詰まってしまう私って、いったい・・・

私はふつうの主婦、パートで働く、そのへんの
いわゆる「おばさん」です
社会の一線で働いている人たちや、未来のひろがっている
若い人たちからは、きっと想像もつかないような
(そういう人たちからは露骨にバカにされるような)
日常を送っているのです、そう「10の質問」の最初、
今食べたいものが、とっさに思い浮かばないほど・・・

主婦って毎日忙しいのに、そのどれもが、
自分以外の人(家族)を基準に動いているのだと気付きました
毎日夕食の献立を考えるのに、
「自分の食べたい物」が基本にきたりはしません
そういう日常を送っていると、
こんな質問にも答えられないのですね

これらの質問で
「考えて行動していない」毎日、
自分のことをみつめることなく過ぎていく日々、
それなのに、(主婦は、家庭の中では王様なので)
世の中の人はみんな、自分と同じ、
自分こそ主流と思ってしまう、等々
緊迫感のない私を思い知らされました

こんな おばさん読者がいることも、
覚えておいていただければ、と思っています。
………………………………………………………………………

いただいたメールには、
自分にとって大切なものや、
やるべきことが見えてきて、
前に向かえる、というものが多かった。

だが、Kさんのように、
質問の回答が出ないという人も少なくはなかった。

たとえば、「すーぱーおかん」さんも、
「食べたいものなんか何もない。
三食家族の健康と好みを考えて作る食事、
私自身はもう飽きた
今週中に・・・なんにもやりたくない。
今月中に・・・楽しいことなんて予測できない。
私は、48歳のおばさんです。
私自身の希望とか期待、欲望なんてなんもなし。」
と、言っている。

何も出てこない自分に、
愕然としたり、おろおろした、
という人もいた。

でも、答えがでないことは、悪いことなのだろうか?
次の2人のメールを見てほしい。

………………………………………………………………………
<さいしゅーさんの場合>

特にいま食べたいものもなく、
今週中にどうしてもやりたいこともなく、
すべての問いに対して、はっきりとした答えが出ず、
特になにもないという答えでした。

普通でしたら、こんな自分じゃ駄目だと思って、
何かをしようとしてもがくのが良いのかもしれません。

昔の自分ではそう思うのかもしれませんが、
今は別にそうは思いません。

どうせ何をやっても無駄だからと
なげやりに思っているわけではなく、
これらの問いにはっきりした答えが無いというのも
自分らしいなと思います。

これらの問いに対して答えが無いのが自分なんだと
受け入れている気持ちに気がついたことが、面白い発見でした。

<ヒミコさんの場合>

逢いたい人という質問に 
具体的な人間が浮かんでこなかったのは、
逢いたい人にいつでも逢っている状態だからなのだろうか。
実際に逢いたい人はいないからなのか。

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質問に答えられないという事実を、
どちらかといえば否定的にとらえる人、肯定する人、
また、否定するでも肯定するでもなく
WHY? と、次の問いを組み立てている人が観られる。

正解のない問題を、自分で考えるとはどういうことか?
私自身が改めて気づかされた。

性格診断テストなら、
10の質問に答えて送れば、
だれかが答えを持っていて、自分を診断してくれる。

そうではなく、これは自分で考えたいとなったなら、
そこには、ただ、自分と自分をとりまく現実と、
考える道具としての「問い」、
問いかけて、自分が出した「答え」が、
ただ、ごろんと、ころがっているだけだ。

どこにも正解がないのだから、
自分が出した答えに、いいも悪いも、本来ない。
どんな答えを、どんな答え方を、良しとするか?
そのモノサシぐるみで自分で決めて、引き受けていこうという
のが自分で考えていくということだ。

砂漠に放り出されたようで不安になるかもしれないが、
逆に言えば、
出てきた答えを、どう受け取ろうが、どう発展させていこうが、
これがまた、スカッ、と自分の自由なのだ。

出てきた自分の答えへの先入観をまず取り去ろう。

これが、メールを観ていて最初に、想ったことだ。
次に、「明日のシナリオを分けるものは何か?」
という疑問が湧いた。

8.9の問いで、明日をよくするのも悪くするのも、
自分次第だという人と、
自分の外の力、運だという人の
どちらかに傾いた回答が目立った。

自分の人生を自分で切りひらいていけると感じた人は、
さらに2つに分かれた。
だからがんばろうとやる気を沸かせる人と、
明日の困難の全責任を自分で背負ってつらくなっている人だ。

明日のシナリオを分ける原因、
この分析が、多角的に、また丁寧にできているかどうか、が、
その人の行動を分けていると想った。

そして、今言ったことともつながるのだが、
いただいた全メールを3度読み直して、
私の中に突き上げてきた疑問がある。
それは、Kyonさんの言ったこの言葉、

「あっ、そっかぁ、私ってば、
最良のシナリオのために向かってないことに気づきました。」

そうなのだ。私を含め、全体的にこのことが強く感じられた。
現実的に描ける、ほんの明日のこと、
他のだれでもなく自分が想い描く未来だ。
なのに、なぜ、多くの人が、日々、
最良のシナリオに向かっていないのか?
この問いを、もっとたいそうな言い方に発展させれば、
なぜ自分から幸せになろうとしないのか? につながる。
なぜ? それをやらない?

WHY?



『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2002-04-24-WED

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