YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

関係をつくる身体

批判・反論のシリーズに
たくさん、力になるご意見、ありがとう。
このテーマは、引き続き考えていきます、
安心してください。
ただ、今回、ちょっとだけ
別のことをお話しようと思います。

自分が持っている、
「からだ」の潜在力を活かす。
って、どうすることなんだろう?

きれいになること?
タフになること?

私は、一昨年くらいから、
一人こもって書く時間が多くなり、
身体がなまるので、
走ったり、泳いだりするようになった。

これで何とかバランスがとれているようだけど、
なんか足りない。

会社で多くの人と働いていたときと違って、
からだの何かが、
活かしきれてない感じがするのだ。
運動では埋められない、
放っておいたら衰えてしまいそうな何かに、
切実な危機感をもっていた。

なんだろう?

そのころ、
芝居とか、ダンスを観に、
自然と足が向いた。

長塚圭史さんの阿佐ヶ谷スパイダースという劇団を
知ったのも、そのころで、
すごい面白くて、
先週は、その長塚さんがワークショップをやるというから、
演劇のこと何もわからず、すっとんでいった。

4日間のワークショップで、
生まれてはじめて、お芝居のようなことをやった。
「エチュード」といって、
おおまかな流れと、
役割だけが与えられ、
あとは、セリフも動きも自分たちで考えて、
10分くらいの即興芝居をつくっていく。
今回、ひとつだけ示されたねらいは、

関係をつくる

ことだった。
親戚、
姉妹、
夫婦、
ライバル、
など、チームによって、
さまざまな関係が課せられた。
「面白いことをやろうとしなくていい。
 しゃべりたくなかったら黙ってそこにいてもいい。
 でも、関係をきちんとつくってほしい」
ということだった。

なかなかうまくはいかない。

無理もない。
はじめて会った人どうし。
それに、即興だから、
次、だれが、何を言うかわからないのだ。
間の悪い沈黙がつづくことも、
セリフがかち合うこともある。
相手の予想外の投げかけにとまどって、
一瞬、素の自分にもどったりもする。

結果、親戚の集まりが、
友だち同士に見えてしまったり。
男と女が向かい合って座っていても、
それが姉弟なのか、恋人なのか、夫婦なのか、
区別がつかないものになったりする。

ふだん私たちは、よく、
電車で男女のペアなどを見かける。
しばらく見ていると、その二人が

夫婦なのか、
ともだちなのか、
恋人なのか、
恋人なら、つき合いが浅いのか、長いのか、
わかってしまう。
あれは、何なんだろう?

関係をつくるって、どうすることなんだろうか?

初心者らしく、私が、まず考えたのは、
ふだん自分がやっているままをやる、ことだ。
例えば、相手を家族だと思って、
ふだん家族に接しているようにふるまえば、
何らかの家庭っぽさは出るだろうと。

でも、やってみたあとで、
何かちがうな、と思った。
自分の日常をそのまま持ち込んだだけ、
相手がだれでも同じ。
それでは、その相手と
関係をつくっていく、ということにはならない。

では、どうしたらいいんだろう。
どうしよう、どうしようで4日間が過ぎた。
いろいろ考えてアイデアも用意したが、
そうするとよけい悪くなった。

関係はちょっとしたことで、壊れてしまうのだ。

面白いことをやってウケようとした人がいたのだけど、
自分をアピールすればするほど、
周囲から浮いてしまい、
関係はうそっぽくなってしまう。

また、アイデアに頼って、
関係性を出そうというのも、
どうも、うまくいかない。

例えば、親密さをだそうと
一人が、何か特別な演出を考えてきたとしても、
相手がそれに驚いたり、
戸惑ったりすると、
関係はよそよそしく、もう親密には見えなくなる。

反対に、一人が突飛な行動に出ても、
相手が平静に受けとめれば、
「いつものことで慣れてるのか、
 二人はつき合いが長いんだ」 と見える。

相手の投げかけを自分がどう受け取るか?
自分の投げかけは相手にどう受けとめられたか?

「関係」、というのは、
何を言うか、何をするかよりも、
一瞬のリアクションの方に表れ、
つくられていくものかな、
と済んでしまってから気づいた。

だから、自分の中に、事前に、
あるアイデアなり、あるストーリーを持ってしまい、
そこに縛られてしまうと、もう、
相手と関係をつくっていくということではなくなる。

今回、私の相手をしてくださったのは、
プロの役者さんで、
せっかくいいフリをしてくださっても、
私が、鈍かったり、自分のイメージにとらわれたりして、
生かしきることができず、
後悔が残った。

もっともっと、人の気持ちを、
表情や全身から読み取れるようになりたい、
鍛えればそういう感覚は伸ばせる、と思った。

チームで何かやっていると、
「今、自分が出るべきところだ!」と
関係の中で、
暗黙の信号が発せられることがある。

そのタイミングを
逃さず、迷わず、生かしきる感覚も、
もっと鍛えたいと思う。

4日間、アドバイスを受け、
チームごとに、手さぐりしているうちに、
しだいに、親戚は親戚に、
姉弟は姉弟に見えてくる。
これは、新鮮な驚きだった。

人と人が、
どう関係をつくっていくかを見ていて、
表情、目線、タイミングなど、
一瞬の身体表現が強く影響していることがわかる。

一人のちょっとした動きが、
次の人の動きに影響し、
それを受けて、全体の関係は、
いい方にも、悪い方にもどんどん転がっていく。
他の人の影響を受けない人なんていない。
みんなが運命共同体なのだ。

今まで自分が生きてきて、
人との関係をつくるために、
身体は、ひっきりなしに、
よく働いていてくれたのだ、
と改めて思った。

人の気持ちを感じとる、
自分の気持ちを表す、
人と人との関係をつくる、
その場の流れを変える、
そんな力を持った身体を鍛えていこうと思う。





『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2002-01-30-WED

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