YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson14 メッセージを伝える
  ----私とあなたの出会った意味----


いきなりですが、
これから、あなたは好きな人に、プレゼントをあげます。
さあ、どうしますか?

自分があげたいものをあげる。

何が欲しい? と聞いて、相手が言ったものをあげる。

相手の趣味をよく調べ、ピタッとくるものをあげる。

相手のこれまでの趣味にない
新しい引き出しをあけるようなものをあげる。


どれを選びました?

プレゼントも自分からのメッセージだとすれば、
これは、送り手と受け手を考える手がかりになる問いです。

あなたが言いたいことを言うか?
それとも相手が言ってほしいことをいうか?
言いたいことばっかり言ってると相手がしらけたり、
相手に合わせてばっかりだとこっちがつらくなったり、
ってこと、ありませんか?

このひろーい世界で、相手とあなたが出逢った意味、
それがスパークするような、
メッセージを伝えたい。
今日はあなたと、それを考えたいと思います。

私はよく、表紙のクリエイティブ担当になりました。
プレゼントの問いは、この時の苦い経験から出たものです。

表紙は雑誌の最初に、読者に放つメッセージ。
私が担当したのは17歳へ向けたものでした。

いーちばんはじめ、編集者になったばかりのとき、
もう、本当にはずかしいのですが、
私はクリエイティブの「ク」も考えることなく、
なんの恐れも、疑問もなく、
自分の感性だけで表紙をつくったことがあります。
季節に応じて、デザイナーさんが
セレクトしてくださった写真から、
最終的に私が好きなものを決める。

プレゼントで言えば、
「これ、私が好きだから、あなたも好きでしょ?」
っていう発想。
当然のことながら、1年12ヶ月がすんだとき、
私はすごくこのシリーズが好きでした。
ご満悦、ご満悦。

しかし、読者はどうだったんでしょう?
それに気づくのはかなり後になります。

●相手のことは相手に聞いてみないとわからない?

17歳の感性は、大人が
「いま時の17歳はこうだろう」
と思うのとはちょっと違う。
それに気づいたのは、私が
「読者は、つくり手の
 都合や好みと関係なく、そこに居るのだ」
ということに、やっと気づいてきたころでした。

そこで、読者の感性で表紙をつくろう! と思いました。

制作段階で、
複数のサンプルを見ながら、読者十数名と、
個別に、たくさん話し、その感性で表紙をつくっていく。
読者投票で決めるというのとはちょっとちがっていて、
話をしていくなかで、17歳の感性を、
編集者の中に染み込ませていくような作業でした。

プレゼントで言えば、
「あなたが何を好きか、あなたに聞いてみないと
 わからない。だから、欲しいものを教えて」
っていう感じです。

もちろん、個人差はありますが、
当時の17歳の傾向は、大人が考えるより、
ずっと地味でシンプルでした。

こうしてつくられたものは、嫌われるはずがなく、
好感度が大きくアップしたのはもちろんのこと、
「自分の感覚にピッタリで好き」
という声がたくさん聞かれました。

毎月読者と話していると、少しづつ、
読者の感覚がしみてくるようでした。
すると、より多くの読者に好まれるものが
予想できるようになってきます。

プレゼントで言えば、
「聞かなくても相手にピタッとくるものをあげられる」
ような段階。
「え? 私がこれ欲しかったの、どうしてわかったの!」
「まるで、頼んで買ってきてもらったように気に入った!」
といわれるのは、贈り主にとってうれしいことです。
あなたはそう言われたことがありますか?
それは、相手の好みをしっかり調べたり、
日ごろのコミュニケーションのたまものだと思います。

私は、読者の好みの傾向をノートに書きとめました。
また、読者が嫌う傾向やモチーフも書き出しました。

私はまだ、知りませんでした。
よかれとやっていたこれらの作業が、
実は、自分を息苦しいところに追い詰めていることに。

●相手のことを聞いてばかりだと自分が見えなくなる

1年もしないうち、私は先が見えなくなり、このやり方を
どうしても続けていくことができなくなりました。

相手に好かれよう、嫌われまい、
と相手にあわせて行動していくと、自分が見えなくなる。
そんな経験ありませんか?

プレゼントで考えてみると、
相手に聞いて、欲しいものをあげる。
聞かなくても、まるで頼まれたように相手の要求に
はまったものをあげる。
どちらも裏をかえすと、
「相手はほっといても、自分でそれを買ったかもしれない」
ということです。

自分という存在が、関わる意味って何?

アートディレクターの方も、読者スタッフも、
100%、本当にいい仕事をされていました。
足りなかったのは編集部の志、
うちらが、うちらである意味です。

17歳のことは、17歳に聞けばいい。
それは正論です。
でも、そういう多数の17歳に好まれる感性は、
ほっておいても、
17歳の部屋の中にも、友だちの中にもあふれている。
そういうものをどんどん、どんどん追っていくと、
うちらがつくるものは、読者にとって新鮮でもなんでもない、
17歳の日常に埋没していくでしょう。

20代、30代の編集者が、
17歳の感性の皮をかぶってすりよっていっても、
しょせん、偽者。不自然です。
相手は17歳のプロ、自然、天然、かなわないのです。

読者にすりよる必要はない。
20代・30代まで生きてきた大人が、
17歳の読者と向き合ったとき、何を伝えたいか?
自分は、相手にとって何者か?

そこで、メッセージ性のある表紙をつくろう!
 という発想が出てきました。

プレゼントで言えば、
「相手の、今まで開いてなかった、別の引き出しをあける」
っていう発想だと思います。
例えば、相手の洋服の好みはモノトーン、
いつも白か黒を着ている。ワードローブも白黒だらけ。
こんな時、
「相手はこういうのが好き、だから、どうするか?」
が大事なんだと思います。
あえて、きっと相手に似合うだろう「赤」をあげてみる。
相手が、
「今まで赤を着たことなかったけど、意外によかった。
 何か、別の世界が開けた!」
と、新鮮な、うれしい気分になってくれたら、最高です。
「もっといろいろなおしゃれも、きっとあなたには、
面白いとおもうよ」というメッセージ、伝わりま した。

もちろん、このやりかたは、はずれることもあり、
やりようによっては、おしつけになることもある。
だからこそ、慎重に、勇気をもって、
あなたが相手に向き合う意味があるのだと思います。

翌年、編集部の志をこめた表紙をなんとか送り出しました。
人のものの見方・生き方は実に多様である。
その中で光るのは、他人とは違う「自分らしさ」だと。
そんなメッセージを伝えたかった。

さあ、すばらしい表紙の誕生…とこはいかなかったのです。

●反応をみながら、じっくりコミュニケーション

気持ちよい、かわいい、きれいなもの、
例えば、かわいい子猫、きれいな花、青い空
は、好感度が高い。
それに比べて、
他にはない、自分たちらしい
メッセージを伝えようとすると、
「うざい」という人もでてきます。

でも、だからやめてしまうのか?
あなたは「うざい」とおもうかもしれない。
だからあなたと私が会った意味がある、
ともう少しつづけてみるか?

メッセージを伝える表紙への評価は、はじめ、
昨年より好感度が下がり、
感想も「いい」と「悪い」の真っ二つにわかれました。
でもこういう時、
あきらめてしまうのはもったいないです。

いいか、悪いかの数ではなく、
その理由が大事なんだと思います。

悪い、と言っている子の理由は浅いのです。
「かわいい動物とか花がいい」
「有名人じゃない人が出るのはイヤ」
でも、それならよそでも見られるでしょ。
お部屋の中にもあるでしょ。

一方、いい、と言っている子の意見は、深い。
「同じ世代にも、ずいぶんいろんな
 考え方・生き方の人がいることがわかって
 勇気がわいた。」
半数の子にはメッセージがちゃんと伝わっている。
そして発見がある。
これは尊い、大事にしていくべきもの、
うちらにしかできないことだと思いました。

メッセージや、志を伝えるということは、
技術や、熟練を要すると思います。
質にとことんこだわらなければならない。
すぐにすぐ、できるものではありません。
だから、時間をかけて取り組もうと思いました。

結局、この表紙は回を追うごとに、
じっくりと尻上りに評価が伸びていきました。
不思議なことに2年後には、数字の面でも、
好感度路線のものより支持されるようになりました。
最初は表面的だった読者の感想が、徐々に、
人の内面に向かっていって、
伝わってるなあ…っていう手ごたえがありました。

ひろいこの世界で、
あなたと私が向き合ったからこそ、伝えたいこと。
その人だからこそ、伝えたいこと。
私にしか言えないこと。

●メッセージ性のあるデートって?

デートはいつも彼女のいいなり。
彼女が見たいという映画みて、
デパートの化粧品、洋服売り場とつきあって、
彼女のいきたいレストランで食事をする、
なんていう優しい人がいたら、
もうリサーチは充分。
そろそろ冒険に出てもいいころかもしれません。

私だったら、
そろそろ秋だし、寺、とか、滝、とかつれてくかなあ。

2000-08-30-WED

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