YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson12  メール入門 ---- その1 わかりやすく書く

プライベートのメールはともかくとして、
用件のメールは「わかる」ことがいちばん。

これから、不定期のシリーズで、
「メールの書き方」をやっていきます。
初回の今日はキソのキソ、超〜キソ、の
とにかく「わかる」メールを書くコツです。
よって、わかるメールを書いてる人は教室を出てよーし!
残った人だけはじめましょう!

メールは「シーソー」です。

知らずに相手は疲れてる?

メールは、こっちが考える手間や負担をとれば、
相手の負担は軽く、つまりわかりやすくなります。
こっちが手間をはぶくと、
相手の負担は重くなります。
「この人は何がいいたいんだろう?」
「私にどうしてくれと言ってんの?」
って、いちいち埋めて読むの、疲れますよね。
それは本来、送り手が頭の中でやっておくべき作業を
受け手がかわってやるからなんです。

わかりにくいメールは、「決め」ができてない。
たとえば次のメール。ザッ!と流し見てください。
何ひとつ、決めてないんです。

<わかりにくいメール 例1>
> -----Original Message-----
> From:田中 迷留
> Sent: Wednesday, August 16, 2000 5:07 PM
> To: 越智 月子
> Subject: 表紙のクマ

越智先輩へ
今、出張先からメール打ってるんですけど。
頭の中整理されてなくて、
ちょっとわかりにくいメールになるかもしれないんですけど。

例の企画、まずいと思うんです。
行って、まず、企画書見られて、
「表紙にクマは他社とかぶるんじゃないの?」
という指摘がされました。
ま、それ以外の企画意図やら、
全体的なことは問題なく通されたんで、
たいしたことじゃないんでしょうけどね。
今日問題にされたのは費用のことです。
デザイン会社側から、予算について、
ふつう倍ではないかという指摘がされました。
でも、明日の時点ではもうだいたいのことが決定されます。
うちの予算ってかなり低めに設定されてますよね。
確か、夏の特別号の時も別のデザイン会社から
同様の指摘がされました。これってもう予算、
増やしていただけないんですよね。
デザイナーさんのやる気も予算に影響されますよね。
こんなんでいいクリエイティブが実現されるんでしょうか。

つらつらとながくなってしまいました、
変な文章になってすみませんでした。
でも、予算のこと、検討されねばならない課題ですね。

田中 迷留
--------------------------------------------------
もし、新人の教育係で、こんなメールをもらっている
先輩社員の方がいらしたら、ホントにお疲れさまです。

さて、このメール、わかりやすくするためには、
いくつか「決め」なくてはいけません。
決めることは考えることです。
決めるとは、生じるリスクをとることです。
まずは、小論文の基本の「あれ」から。

●一番いいたいのは何か? を決める

「意見」と「理由」は、メールにも通ずる小論文の大原則です。
言いたいことをはっきりさせ、その理由で構成する。
あなたの、いちばん言いたいこと(=意見)は何でしょうか?
それを決めましょう。
いろいろあっても、いーちばん言いたいことを一つだけにする。
決めたら思いきって頭に持ってきましょう。
こんなふうに。

「私は、デザイン予算は、とても低いと考えます。なぜなら…」

あとは、「理由」
(先方からの予算に対するクレーム、
 社内基準の相場から見た低さ、
 予算がクリエイティブに与える影響)
を整理して書けばよいでしょう。
頭に結論をもってくれば、以下が少々だらだらしても、
あなたが一番言いたいことだけは、まっさきに伝わります。

おっと、もう一つ、大切な「決め」を忘れてました。

●相手にとっての意味、を決める

文中の先輩は悩むと思います。
「自分にどうしてくれと言ってるんだろう?
報告として、とりあえず聞いておくだけでいいのか?
それともこれは、相談か? 何か助言すべきか?
それとも、予算をあげろという、遠まわしの要求か?
返信はいるのか? いらないのか? 急ぐのか?」

相手は、このメールでどうすればいいんでしょう?
それを決めましょう。
決めたら、さらに頭にもってきましょう。
例えばこんなふうに。

<相手にとっての意味 例>
越智先輩、今日のデザイン依頼の状況、
とりあえず報告までです。
お読みいただければ特に返信はいりません。
デザイン予算について、相談です。
7時に電話しますので、下記、相談にのっていただけますか?
出張に関してまとまってない所感までです。
お忙しかったら、読み飛ばしていただいてかまいません。

こうしておけば、あとのメールがさんざんわかりにくくても、
相手はとりあえず、自分のすることだけは心配しなくてすみます。

あと二つ、ちょっとした「決め」で
さらにメールはわかりやすくなります。

タイトルを決める
今、田中迷留さんがつけているタイトル
「表紙のクマ」はカメラでいう「寄り」の状態です。
自分の心の中の関心事がそのままタイトルになっている。

出張でデザイン依頼した会議の→企画書の中の
→表紙の図案について→自分が指摘されてショックだったこと

ところが、読むほうは、いろんな仕事をかかえていて、
そのことばかり考えているわけではないから、
「表紙? 表紙って何の表紙?」
「クマって?、そんなのあったけ?」と負担をかけ、
開いてみると「なーんだ」と疲れます。
自分の内的関心から、カメラをぐっと「引き」、
相手側から見た表現に変換します。

「秋の特別号について」というように、

欲を言えば、タイトルは、
「論点」(取り上げた問い。デザイン予算は適切か?)
プラス、「相手にとっての意味」(ここでは、報告まで)
の2要素をアレンジするとさらにわかりやすくなります。

秋特別号デザイン費について(報告まで)

親切なタイトルです。あと、文レベルで、
このメールには「人」がいないんです。

主語はだれか? を決める

わかりやすく書くには、
「受動態を使わない。人を主語にする」ことです。
例えば、
「明日の時点ではもうだいたいのことが決定されます。 」            

じゃなくて

「明日、私とデザイナーの高橋さんで、だいたいのことは決めてしまいます。」


「今日問題にされたのは費用のことです。
 デザイン会社側から、予算について、
 ふつう倍ではないかという指摘がされました。」

じゃなくて

「今日、高橋さんから、予算はふつう倍だとお聞きし、
 私は、費用の設定に問題を感じました。」

どうですか? 人間が主語になるだけで、
ぐっと文はわかりやすいでしょ。

主語があいまいということは、
責任があいまいということです。
リスクがとれない人の文章は受動態が多いです。

逆に、主語をはっきりさせると、いろんなことが見えてきます。

「頭の中整理されてなくて、ちょっとわかりにくい
 メールになるかもしれないんですけど」

              ↓じゃなくて

「私が頭を整理してないので、
 私は、これからわかりにくいメールを書きますが」
(だったら、整理して書けばOKですね。)

「うちの予算ってかなり低めに設定されてますよね。
 でも、予算のこと、検討されねばならない課題ですね。」

  ↓じゃなくて

「私は、当社基準にのっとって、相場からみれば
 かなり低めの予算を設定していました。
 でも、予算のことについて、
 今○○が、検討しなくてはいけませんね」

これから予算のことを検討する○○ってだれ?
はらほら、責任がどこにあるか見えてきましたよ。

さて、これで、わかりやすくなりました、おしまい。
…ってわけにはいかないんですよね。「おとな」だから。
いっちばん大事な「あれ」を決めてないんです。

●自分の腹(ハラ)を決める

「自分の根っこにある気持ちにうそはつかない」
ことは、わかりやすい文章の第一条件です。
奥歯にものをはさむから、わかりにくくなるんです。
この田中迷留さん、根っこにある気持ちはどうでしょうか。
なんでメールを書いたのでしょうか?
予算が少ないというグチを先輩に聞いてもらうために? 
これでは、いいクリエイティブが実現できませんよ、
とあらかじめ断っておくために?
もしかしたら、先輩が気をきかして
予算をあげてくれないかという期待をこめて?

田中迷留さんは、この予算設定に、納得してないようですね。
本当に言いたいことはなんでしょうか?
それを仮想して、わかりやすく書き換えた例を最後に
あげておきます。


> -----Original Message-----
> From:田中 迷留
> Sent: Wednesday, August 16, 2000 6:07 PM
> To: 越智 月子
> Subject: 「至急!秋特別号デザイン費に関するお願い」

越智先輩

秋特別号、デザイン予算アップのお願いです。
急ですいませんが、アップ可能かどうか、
明日の午後の会議までに結論を出したいので、
相談にのっていただけますか? このメールを
お読みいただいたあと7時に電話を入れます。

結論からいいますと、デザイン費をいまの30%、
20万アップさせていただきたいのです。

理由は、先方から予算についてクレームがきたこと、
私が設定した予算が業界平均から
低いことなどがあげられます。
ちなみに、当社の他事行部が、
同様の発注をした金額や、業界の相場を
添付ファイルでつけているのでごらんください。

私は、このままの予算では
デザイナーさんのやる気にも影響するし、
クリエイティブも下がると考えます。

予算アップ分は、通常号予算を削る方向で、
いま検討していますので、後ほど電話で相談させてください。

田中 迷留
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●今日のおさらい―わかりやすく書くコツ●

自分がもっとも言いたいこと(意見)を、一つ決め、頭に置く。
相手はこのメールを受け取ってどうすればよいかを決め、
前書きに入れると親切。
タイトルは、取り上げた「問い」+「相手にとっての意味」から
アレンジし、なるべく客観的な表現(引き)で書く。
責任のあいまいな受動態はつかわず、人間を主語にする。
自分は、根っこのところでは、
このメールでどうしたいとおもっているのか。
自分の腹を決めたら、思いきって書く。

次のメール入門の機会には「短く書く」をやる予定です。
みなさん、メールに関する悩みを自由にお寄せください。

(※メールは postman@1101.com まで)

2000-08-16-WED

YAMADA
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