YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

*今週はほぼ日2周年でいっぱいいっぱいだったために、
 「おとなの小論文」は木曜日更新です。
 来週からは、いつも通りに水曜日に更新いたします。
               (ほぼ日編集部より)



Lesson2 考えるための小道具を手に入れる

もし、運命の神さまが現れて、
「あなたの進路を、3日以内に決めなさい。
どんな道にもいかせてあげよう。
ただし、その後、絶対変えてはいけないよ」
と言われたら、あなたはその3日間、どういうふうに
意思決定をしますか?

1.直感で決める。
2.信頼のおける人に判断を仰ぐ。
3.占いで決める。
4.自分で考える。
5.「エイ・ヤー!」で決める。
(そもそもエイヤーってなんでしたっけ!?笑)

意思決定って、大変ですよね。
今日は4番の「ちゃんと自分で考えたい」
という人のために、小論文の視点から、
ちょこっと役立つ小道具を紹介したいと思います。
いざ、という人生の岐路、チャンスをのがさないために。

4番を選んだあなた、
「考える」って、頭の中でどんな作業してますか?
あなたは「考える方法」を習ったことがありますか?


●「考えない」という傷

読者のY・ Fさんからのメールです。

「プロローグの"考えないって自由じゃない"に
 どきりとしました。
 高校生・浪人生の個人指導をしていますが、
 彼らが、自主的に"考える"ことを放棄して、
 その結果、苦しんでいるように見えてしかたありません。
 学習のみにとどまらず、自己発見や進路についても。

 苦しんでいることを自覚していれば
 まだ良いと思います。
 "なんとなく"で生きている子たちこそ、いま
 受けている傷は深いのでは、と胸をいためています。」
なんとなくで生きる「傷」…。

自分が考えてないことにさえ無知な人は、
一見オメデタイのではないかと思えるんですが、
実は深く傷ついている。
人は不思議です。


●考えがとまったAさん

私は、17歳の女の子の奇妙な文章に出会いました。
自分の進路を語る、たった600字の中に、
「とりあえず」が頻発しているのです。こんな感じです。

自分の将来について  Aさん17歳
「人生は、とりあえず、進学、就職、結婚、老後など
 一大イベントがありますが、目の前にあることから
 順に片付けていくべきだと思います。
 だから、今はとりあえず大学進学です。
 学歴がすべてではないと思うけれど、
 とりあえず、一流の企業にでも入りたいなら、
 やはり高学歴をめざすことがてっとりばやいと思います。
 今は、とりあえず自分の目の前にある問題から
 解消していこうと思います。」

居酒屋で「とりあえずビール」というような、
その場しのぎの感覚で進路を語るAさん。
なんとなくで生きる「傷」…。
レコードは傷が入っていると、
同じところを何回も再生します。
おなじようにAさんの頭は、

・私の将来をどうするか
 →とりあえず目の前の問題から順にかたずける
・なんでそうするか→てっとりばやいから
・今どうするか→目の前にある問題から解消していく

同じところをグルグル回っていて、
一向に前に進んでいない。
もしAさんが目の前にいたら、あなたは、どうしますか?


●考えない檻から出るカギは「?」の形をしています

考えない、あるいは、考えられない、
そんな頭が止まってしまってた状態を、
小論文では、

----「問い」が立たない----

と言います。裏返すと、考えるとは? そう、

----「問い」を発見することです----

今のAさんに必要な小道具とは「疑問文」です。


●具体的で小さな「疑問文」を、いくつも用意する。

思考がとまってしまう時、
大きな「問い」を、まるごと相手にしていること
が多いんです。
「自分の進路をどうすべきか?」という大問題に、
いきなり答えはでません。
だから、考えるのがおっくうになったり、イヤになったり。
こんな時は、「答え」でなく「問い」を探すこと。
問題を考えるのに有効な、
具体的で、「小さな疑問文」を洗い出すことです。

・今の進路は? それは、どう考えて決めたのか?
・あなたが、今、ぼーっとしている時などに、
 ついつい考えてしまうことは何か?
・自分の心がワクワクするものは何か? 
 そのどういうところか面白いのか?
・自分がいちばんイキイキしているのはのは
 どんな時か? なぜか?
・今の世の中をどう思うか? 
 これからどんな時代になっていくと思うか? 
 変えたいところはあるか?
・こうなりたいという人物はいるか? 
 その人のどんなところがよいのか?

というようにいくつも疑問をなげかける。
Aさんが答える。
その答えにさらに疑問をなげかける…、
という作業の最後にもう一度、
「自分の進路をどう考えるか?」
と聞いたところ、Aさんは、
「自分のやりたいことと、
 周りがすすめることが食い違って、せめぎあう」
と言いました。
素直で、頭の良いAさんはやりたいことがあるのですが、
親が期待する進路にあわせようとしていたのです。

Aさんには、引き続き、自分で問いをつくって、
自分にインタビューすること、改作すること、
をお願いしました。


●問題の正体がわかった

Aさんの改作(主旨)
「進路を考えている私にとって、一番切実な問題は、
 自分のやりたいことを表現せず、
 両親や周囲の期待に合わせてきた自分の殻を、
 いかに破るかだ。そのために今、私は、
 日常の両親との意見の食い違いにも、
 正直に自分の気持ちを伝えるように
 がんばっているのだ。」

最初の「とりあえず」の文章よりも、
心の葛藤は強くなっているにもかかわらず、
Aさんは、より自由に見えました。
最初の論点が、
「進路の問題をどうクリアするか?」 
だったのに対し、改作のメモには、
「自分にとって切実な問題とは?
 →どうして?
 →それがどのように自分と関わりを持つ? 
 →どうすれば解決できる?」
と書いてありました。
自分で「問い」が立つようになった。
問題解決はまだですが、
考えるべきことは何か?がはっきりしたようです。


●今日のおさらい−考えが止まってしまった時は?●

・思考停止は「問い」が立たなくなる状態でもある。
・大きな問題に、一足飛びに答えを出そうとすると、
 考えるのが億劫になる。
・そんな時は、「疑問文」をつくってみる。
・慣れないときは、疑問文は出にくいが、
 無理やりにでも、疑問文をつくってみる。
 いい問いでなくても、いっぱい洗い出してみる。
・問いが立ったら、自分にインタビュー。
 自分の答えにまた質問…を繰り返す。
・「何を考えなきゃいけないかがわかるまで」を、
 まず目標にしてみる。
・いい質問をしてくれる人と友達になるのも手。
・相談する時は答えじゃなくて、
 その問題を考えるのに有効な「問い」ももらおう!
・相談されたら、よい「問い」を立ててみよう。

解決できない問題も多いのですが、最初の段階よりも
「問い」のレベルがあがっていればOK! 
悩むより、批判するより、
いい疑問文をつくる。これなかなか愉快です。


●あなたへの宿題●

自分の進路、自分の将来を考えるための「問い」を、
試しに一つ作ってみよう。
(良い・悪い関係なし、
 疑問文をつくってみることに価値があります。
 メールでじゃんじゃん送ってください。)

2000-06-08-THU

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