映画『エンディングノート』が、 あまりによかったので。 『エンディングノート』オフィシャルサイトはこちら。 予告編も、ごらんいただけます。
*公式サイトは終了しました。
10月1日に公開された映画『エンディングノート』。 この作品が監督第一作となる砂田麻美さんによる、 みずからの家族のドキュメンタリーです。 砂田さんは、娘として、人生を終えようとする父親と、 彼をとりまく家族のすがたを撮りつづけ、 それを1本の作品にまとめました。  まじめに書くと、そういうことになるのですが、 ポスターやチラシには かじりかけのトーストを片手に笑いかける、 人懐っこそうな「お父さん」の姿があります。 そして、「わたくし、終活に大忙し。」というコピー。 明るい! どうやら、悲しいだけの映画ではなさそうです。 それから「感動のエンターテインメント・ ドキュメンタリー」という言葉も。 ‥‥エンターテインメントって?!  観て、納得しました。 たしかにこれはエンターテインメント。 泣いて笑って、また泣いて、揺さぶられて、 観終ったあと、何時間も誰かに話したくなる、 そんな映画なのでした。  この映画のこと、語ります。 まずは、いっしょに観ただれよりも 泣いたかもしれない糸井重里と、 この映画を見いだしたプロデューサーであり、 砂田監督の師匠でもある是枝裕和さんのふたりによる 愛情たっぷりの“カゲグチ対談”、 そして、観たばかりで感激さめやらぬ乗組員による 砂田監督へのインタビューです。 映画『エンディングノート』応援コンテンツ、 2本立てで、おたのしみください。
監督・砂田麻美さんのプロフィール
プロデューサー・是枝裕和さんのプロフィール
この映画を観るきっかけになった、 宣伝担当のSさんからのメールはこちら。
是枝裕和×糸井重里【カゲグチ対談篇】
その6 いやぁ、いい映画だなぁ。
糸井 今は何してるんですか、砂田監督は。
是枝 「公開までには、
 次のフィクションの脚本を、
 企画書でもいいから、
 とりあえず書きなさい」
とずっと言ってたんですけど、
まだできてない。
糸井 まぁ、そんな簡単に
できるもんじゃないんじゃないでしょうか。
是枝 それがね、意外とパーッと書けるやつなんですよ、
脚本とかも早いんです。
それも癪にさわるんですけどね。
1週間ぐらいでポンと
1本分の映画の脚本とか書いてくるんですよ、
どうしたわけか。
糸井 すごいですね。
是枝 早いんですよ。
糸井 それは、よく名前が出てくる、
西川美和さんと比べると、なんか違う?
西川さんは広島まで行かないと書けないと
以前ご本人から伺ったんですが。
是枝 そうそう。実家戻って籠らないと
書けないんですけど、
砂田、意外と早いんですよね。
ただ、今まで書いてきたフィクションは、
「これで行けるね」
っていうものはなかった。
糸井 なるほど。
是枝 それにはダメ出しをずっと続けてたんです。
先にこっちができちゃったから、
今これを観たら、
「砂田監督がフィクションやるんだったら
 お金出すよ」
って言う人は出てくるだろうと思ってて。
だから、
「公開の時に次の企画書があったほうがいいよ」
って、ずっと言ってたんです。
糸井 そうですね。
いや、なんかとんでもなく
違うものを観てみたいですよね。
是枝 そうですね。まったくタイプの違うものを。
最初に見せられてたフィクションの脚本って、
もうちょっとね、ベタッとしてるんですよ。
書かれてる人物と、書いてる筆致が。
で、『エンディングノート』は
やっぱり非常にドライに、
批評しながら笑える距離で撮っていて。
僕の映画の現場の撮影日誌を
砂田が書いているんですが、
これと同じ距離で
僕のことをすごくこう、
シニカルに見てる感じで。
でも、ちゃんと笑いで救ってくれるんですよ、
僕でさえも。
見事に書けてる。
僕が読むと、
すごく僕いやなやつなんですけど(笑)、
周りに聞くと、すごくよく書けてるって言う。
撮影現場の記録としては、
本当におもしろかったです。
「この感じでフィクション書け」
って言ってるんですけど。
逆になんかフィクションだとね、
どうもまだ書けてないんですよね。
これをやって、
次、どう出てくるかなんですよ。
糸井 よくね、漫画家が、
連載ページで荒々しい絵を描いてる時は素敵なのに、
「カラーページをあげるよ」って
表紙を描かせると、
こんなん誰も求めてないよ、
っていうのを描くみたいな、
そういうことはよくありますよね。
是枝 そうですかね。
なにかがずれちゃうみたいなんですよね。
僕もわかんないんですけど、そこが。
糸井 責任感じたりするのかね。
でも、「直せよ」とかって言われてるうちに、
よくなるかもしれないですね。
是枝 そうですね。
でも僕、まだまだわからないな‥‥。
糸井 砂田監督は、
フィクションを一作撮っても
いい頃なんでしょう、33歳だと?
是枝 はい。そろそろやらないと。
もう来年でも撮れるんだったら、
撮ったほうがいいと思っています。
糸井 楽しみですね。
映画の感想とか
聞こえてくる時期だと思うんですけど、
いかがでしょう。
是枝 とてもいいです。
この間、スペインのサンセバスチャン映画祭に
一緒に行ってたんですけど、
上映後にお客さんが寄ってきて、
みんな感想が熱かったです、
身内をそういう形で
失ってる人もたくさんいるんでしょうね、
“語りたい映画”みたいですね。
監督にも語りたいし、
友達とも語りたいしっていう。
糸井 僕は何年か前に、吉本隆明さんが、
「病気がどんどんひどくなってるんだ」
っていう時にお会いしたんですね。
「死に損なった時もありますけど」
っていうくらいの時、
「やっぱり落ち込むことはあった」って。で、
「俺はもう死んじゃったほうがいいのかな、
 ぐらいなことは思ったんだけど、
 考えてみたら、死っていうのは
 自分に属さないんですよね」
って言ったんですよ。
是枝 はい。
糸井 こうおっしゃるんです。
「そうか。俺が死ぬとか、
 死なないとかっていうのは、
 結局、なんか波形を見てて、
 機械を切るだとか切らないとかいう場面も、
 家族に『いいですか、切って』って言うわけだし、
 生かす生かさないっていうのは
 自分が決められないことなんだな、
 ってことがわかった。
 じゃあ、自分で死ぬとか言ってても、
 しょうがねぇなと思って、
 生きることにした」って。
僕らやっぱりどうしても
「死」っていうのは、
自分の所有物みたいに考えたがる。
自分の所有物としての「死」について、
「俺のものだから、振り回させてくれ」
ってやられるんだけど、
そういうさまざまなドラマは、
子どもっぽいなと思うようになった。
是枝 そうですね。わかります。
糸井 で、その「死」の子どもっぽさみたいなのを
乗り越えた人の作品を観ると、
やっぱり「うぅー」っとこう、
うれしくなるんです。
この映画に関しては、
これはもうお父さんが砂田監督に
教えたとしか思えないですね。
是枝 そうですね。あのお父さんは、
自分が死んでいくことが、
周りにどう残っていくかっていうのを、
自分の死ぬのにもかかわらず、
周りの生を意識しながら接してるんですよね。
糸井 そうですね。
是枝 そこがすごく大人なんですね。
今聞いて思いましたけど。
糸井 で、それを、論争するでもなく、
口ごたえするでもなく、
フィルムにおさえていってる人と、
その映画の中に登場している家族たちっていうのは、
哲学しなくても、スッと、
“自分の死をわが物として
 勝手に扱っている人たち”に対する
答えになってるなぁって。
だから、やっぱり救いなんですよね。
死を自分の所有物にしない考え方っていうので、
客席にいただけでそれが伝わってきて、
拍手になって表現できるっていうのは、
いやぁ、いい映画だなぁ(笑)。
是枝 (笑)
糸井 いい映画ですよ、本当に(笑)。
是枝 糸井さん「なんか悪口言って下さい」
って言ってなかったでしたっけ。
糸井 そうだなぁ!
是枝 (笑)
糸井 是枝さんと『奇跡』の対談でお会いした時に、
「家族が一緒にいないっていうのも
 答えじゃないか」っていう、
ひっくり返したところに
笑顔になれるっていうことがあったんで、
これも「死」っていうもので
笑顔にさせちゃったっていうところが、
やっぱり‥‥あ、まだ褒めてるな。
是枝 (笑)
糸井 「砂田監督、
 なんでそんなことがわかったかっていうと、
 お父さんのおかげだぞ!」
‥‥これじゃ、説教だし(笑)。
是枝 「いつもこんなにうまくいくと思うなよ!」
糸井 それも説教ですかねぇ。
お父さんはなんで覚えたんでしょうね、
っていう辺りの興味は、
想像させる余地だけあって、
答えがなくていいですね。
なんかあるんですよね。
お父さんは、
あの年代だけ生きてきて、
何度も、いろんなことを、
やっぱり考えてきているんですよね。
お祖父さんが医者だったのもあるかもしれないし、
孤独になっている時間もあっただろうし。
是枝 そこはあんまり、なんていうんですかね、
決めつけてないところが、
いいところなんですよね。
糸井 なんていうんだろう、
踏み荒らさない作り方ですよね、
人の心をね。
‥‥どうしても褒めてるな。
是枝 (笑)
糸井 『エンディングノート』は、
小さい劇場でロングランみたいなことなんですか。
スタッフ いや、わりと大きな映画館で。
糸井 じゃんじゃんやりますか。いいですねぇ。
是枝 最初に相談した時、
別にそれが悪いという意味じゃなくて、
アート系でインディペンデントの
ドキュメンタリーをかける映画館に行くのか、
いや、むしろこれを
エンターテインメントとして出していくのか
どっちだって話をしたんです。
エンターテインメントで勝負してみようか、
っていうコンセンサスが取れたので、
大きな劇場にアタックしてもらって。
そうしたら、
担当の方がすごく気に入ってくれたんです。
糸井 通じるんじゃないですかね。
通じると思いますけどね。
やっぱりね、
「お父さんが死んだっていうのを
 娘が撮ってる映画だよ」って、
そういう縮め方しますからね。
「でもさ!」って言いたいんだよね。
ぼくらも、試写会を観させてもらって、
楽しかったです。
大勢で観たから、
帰りのタクシーの中でも
まだ喋ってるんですよね。
15人だったかな、社内で希望者を募った時に、
あんなにいるとは思わなかった。
地味な映画に見えるんだけど、
あんなに観たいって言うとは思わなかったですね。
是枝さんは、この映画は、
プロデューサーっていう立場なんですか?
是枝 これはプロデューサーです。
糸井 プロデュースって大事ですね。
大事な仕事ですね。
是枝 ただ、僕は(本業の)
プロデューサーではないので、
やむを得ない時だけ、
ちょっとこう応援をするくらい。
糸井 そういう人必要ですよ。
是枝 今、本当にプロデューサーいないんですよ。
映画のプロデューサーが。
糸井 音楽もそうです。
興業収入のことしか考えない人のことを
プロデューサーって言っちゃうみたいな。
是枝 相談相手的なプロデューサーでいられるのであれば、
いたほうがいいなと思ってるんです。
ぼくはお金のことは誰か
任せる人がいないと無理ですが。
糸井 あれは別の問題ですからね。
ご自分の映画も
また新しいのをやってらっしゃって?
是枝 今、書いてるところです。
来年の春に、たぶん撮ると思います。
公開は再来年になっちゃうんですけど、
また是非。ご連絡します。
糸井 西川監督は何してるんですか。
是枝 西川は今撮ってます。
昨日ちょっと現場に行ってきました。
西川のほうが来年の秋公開ですね。
阿部サダヲさんと松たか子さんが夫婦で
結婚詐欺の話です。
糸井 あ、よさそうだな! へぇ。
是枝 元気そうだった。
糸井 へぇ、いいねぇ。羨ましいです。
是枝 ほんとうにありがとうございます。
糸井 ありがとうございました。

(けっきょく、褒めて終わっちゃいました。
 今回で最終回です。
 機会がありましたらぜひ
 『エンディングノート』ごらんくださいね!)
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砂田麻美監督【感激インタビュー篇】*会話のなかで  「あのシーンがよかったです」というように、  映画の内容について触れています。  ネタバレは困る! というかたは、  ぜひ映画をごらんになってから、  このコンテンツを読んでくださいね。
その5 答えでも、意見でもなく。
── 「ほぼ日」でずっと追いかけている、
吉本隆明さんっていう
思想家の方がいらっしゃるんですけど。
砂田 よしもとばななさんのお父さまですよね。
── そうです、そうです。その吉本さんが
「マルクスの生き方が0点だったら、
 100点はたぶん一般の人で」
っておっしゃっていたのが、
本当にこのお父さんのことかもしれないって
思うんですよ。
砂田 そう、でも、私、
いちばん、今、思い悩んじゃうことっていうのは、
別に、父の生き様とか、
「こんなにいい最期でしたよ」
みたいなことを言いたくて
作ったわけじゃないんですよね。
── そういうふうには、
捉えられてないと思いますよ。
砂田 そうなんだと思うんですけど、
なんかこう、やっぱり突然ね、
命を落とされる方もいっぱいいるし、
同じ病気でも、全然、やっぱり違うから。
── はい、違いますね。
砂田 複雑な瞬間もあるんですよ。
こういうものを見せるっていうことが。
── 答えとか意見とかじゃないっていうことですからね、
監督が提示したいのは。
おひとり、おひとりの話ですものね。
別にお父さんを絶賛してる映画じゃないと
受け取ってもらえると思いますよ。
砂田 それはすごく気を付けたんですよね。
伝えたいことは、もっと別の次元にあった。
自分が個人的に、父親に
抱いていた感情っていうのは、
別に家族内だけで話せばいいから、
ものを作る時は、もうできるだけ
引き離したいと思って。
それで、父親の一人称の語りにしたのも、
「私の父は」って語り始めると、
それは父と娘の物語になっていっちゃう。
離したかったんですよね、できるだけ。
── はい、それは伝わっていると思いますよ。
ちょっと思ったのは、
外国にも広がればいいのにってことでした。
こんなにいい家族が
日本っていう国にいるんだっていうことが、
海外に伝わればいいのになとも思いました。
ただ、アジアとかだったら、
すごくわかってくれる気がするんですが、
西洋の人が観ると、
あの「愛してるよ」を
やっと言えたお父さんのシーンは、
意外とスルーされちゃうんじゃない? とも。
砂田 そうなんですよ。
今回、海外の映画祭にご招待いただき、
字幕をつけることになったんですが、
翻訳する時に、
その部分が、一番議論になりました。
お願いしたのはリンダさん
(リンダ・ホーグランドさん)という、
是枝裕和さんや西川美和さん、
黒澤明さん、黒沢清さん、宮崎駿さんなどの
映画の英文字幕を担当なさってる方なんですね。
ご自身も映画を監督なさっていて、
私、そのリンダさんの映画に
助監督で付いていたことがあったご縁で、
今回、お願いしたんですけど、
父親が「愛してるよ」って言ったとき、
母親は「こちらこそ」って言うんです。
素直に訳せば「I love you, too」なんですが、
でも、「こちらこそ」って言ってるんですよ。
その「こちらこそ」って、
外国人だったらね、
「私も愛してるわ」の意味として
受け取る思うんですけど、
母親的には、「こちらこそ」が精いっぱいだった、
そこがすごい日本人的だなぁと思ったんですね。
だからリンダさんも
いろいろ知恵を絞って下さいました。
── そのニュアンスは
きっと翻訳しづらいでしょうね。
あの状態でも、お母さんには照れがあった、
あの感じ。
砂田 そうなんですよ。
でも、死にゆく人は、ちょっと一段
次のステージに行ってるので、
たぶん「愛してる」なんて、
本当に言ったことなかったと思うんですけど、
それを、言った。
それでも母親は「私も愛してる」とは言わない。
そこに、なにか、日本人のよさがあると
思うんですけど(笑)。
── そこ、わかってほしいですね。
あのシーン、もう今でも泣きます(笑)。
あそこまで結構我慢をしてたんですが、
あそこで、ドッカーンって来て、
なのに「パパがこんなにいい人だったなんて」
みたいなこと言うから、可笑しくなっちゃって(笑)。
糸井もそこで一番笑ってました。
砂田 「じゃあ、どう思ってたんだ」みたいなね(笑)。
── そう。あそこで泣きながら笑かされて、
その後はもうそのまんま、
泣いたり笑ったりしながら、転げて観てました。
あのシーンって、
カメラをそうっと置いて出て行ったんですか。
砂田 そうです。ずっとその前から回してたんです。
姉と私がいたのかな。
それで、中座したときもそのままにして(笑)。
── あのシーン、
ばっちり撮れてましたよね。
砂田 そうなんですよねぇ。
だから、不思議なシーンですよね。
── 不思議なシーンですね‥‥。
話が尽きないんですが、
このあたりで締めたいと思います。
どうも、ありがとうございました。
お忙しいのに、ありがとうございました。
砂田 ありがとうございました。
この映画、映画館に足を運んでくださるまでの
ハードルが高いんじゃないかって思っているんです。
どうやったら、その、
ただ悲しいだけじゃないっていう感じを予期して、
お客さんが映画館に足を運んでくれるかなぁ、
っていうことが、まずあるんですよね。
── あ、でも、それはすごく成功してますよ!
砂田 あ、そうですか。
── だって、チラシ、この笑顔(笑)!
僕らは少なくとも、この映画は観終わった後、
絶対に暗い気持ちにならない気がするって、
そう思いました。
砂田 よかったです。

(今回で最終回です。砂田監督、
 どうもありがとうございました!
 みなさまも機会がありましたらぜひ
 『エンディングノート』をごらんください。)
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2011-10-21-FRI

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