映画『エンディングノート』が、 あまりによかったので。 『エンディングノート』オフィシャルサイトはこちら。 予告編も、ごらんいただけます。
*公式サイトは終了しました。
是枝裕和×糸井重里【カゲグチ対談篇】
その3 スタッフには世話をかけてる。
糸井 砂田監督は、
「いろいろ、何、言われるかな」
みたいなことを
想像するタイプなんですか。
是枝 あはは(笑)。
糸井 笑ってるね。
是枝 僕、見せられた時に彼女に言ったのは、
いくつかの考えられうる批判的なコメントとか
批評を乗り越えるために、
何が必要かっていう話です。
糸井 いい先生だなぁ(笑)。
是枝 要するに、取材相手の内面を
モノローグで語っているっていうことは、
「わかってやってるんだよ」ってことを、
きちんとナレーションの中で明示しないと、
そこは絶対言われるからと。
頭の固い人たちは、
「これはドキュメンタリーじゃない」って、
絶対言ってくるから、
そこはクリアしたほうがいいっていう話と、
モノローグで語っていくのはいいとしても、
告知をされた瞬間、父親がいない瞬間に、
カメラは立ち会ってるけど、
モノローグはお父さん目線で
そこまで来てるから、
そこでいっぺん絶対に脱臼する。
その先もモノローグで行くんだったら、
その脱臼をどう乗り越えるかっていうのが
ポイントだよっていう話をしたんです。
ただ、本人は、今になって、
まぁ9割はいい感想だとしても、
1割ぐらいの人は拒絶反応がある、
そのことが、ちょっと想像できなかったらしくて。
糸井 ほぉ。
是枝 だから、言ってるじゃねぇかよっていう(笑)。
本人は意外と、
あまりそういうこと考えずに
サラッとやっちゃった。
糸井 メッセージですね、
本人がナレーションを
やってることはね。
是枝 それが実は苦肉の策で、
最初は、お父さんと同じ世代の役者さんに
ナレーションを頼んでたんです。
でも、それをやってたら、
たぶんそこで一遍引っかかっちゃったことが、
いろんな事情があって、
結果的に本人が
ナレーションを読むことになったから、
確信犯だよっていうことが、
明らかになっちゃったんですよ。
怪我の功名というかですね、
後付けでOKになっちゃったんですよね。
糸井 なるほど。
あの撮影に助手とかはついてないですよね。
是枝 ついてないです。
基本的に全部一人で撮ってるんですが、
お葬式のシーンだけ、
さすがに自分で回すわけにいかないんで、
TBSで働いてた時にお世話になった人たちに
回してもらったって言ってました。
糸井 ていうことは、
あのナレーションを誰に頼むって
思いつきもしませんでした、
とも言えるんですよね、人には。
是枝 そうですね。言っちゃおうと思えば、
そうだと思います。
糸井 ね。だから、お客さんは自然に、
あ、本当に勝手に作ったんだ、
っていうふうに観てたんじゃないかなぁ。
そうか、のほほんとしてるんだ、そこは。
是枝 はい、意外と。
糸井 かと思えば
計算がちゃんとできてる部分もあるしねぇ。
是枝 わかんないんですよ。
本人、一緒にいてもね、
すごく大人の部分とすごく子どもの部分があって。
大したもんだなと思うことと、
「なんだよ、こいつ」っていう、
腹の立つことが同居してるもんですからね、
どうしたらいいのかわかんないですよね。
糸井 今、何歳でしたっけ?
スタッフ 33です。
糸井 33。はぁ。33だったら、
遠回しに確信犯なんだろうな、全部。
是枝 どうなんだろうなぁ。
糸井 わかんない(笑)?
スタッフ かわいいところは本当にかわいいんですよ。
素直で、無邪気といえば無邪気で。
33歳の女性を掴まえていうのもあれだけど、
天然じゃないかと思ってるんですけど。
是枝 でも、一緒に仕事してみて、
みんなある部分、もう勘弁してくれ、
と思ってるところあるんですよ。
糸井 うん。
是枝 それは結果的に監督向きだと思う。
その自分のこだわりにハマりこんだら、
まったく周りの言うこと聞かないんですよ。ね。
スタッフ はい、はい(笑)。
糸井 激しく頷いてますね。
是枝 みんな振り回されて。
糸井 でも、天然の人ってそうですよ。
ほら、馬や犬がさ、
動かなくなっちゃうのと同じで。
是枝 そこ、でもね、ちょっとすごいよな。
スタッフ すごかったですね。
糸井 いいカゲグチだね(笑)。
これを読んで、あの映画を観ると、
またおもしろいね。
是枝 でも、本人はこんなふうに周りに、
なんていうんですか、迷惑とは言わないまでも、
いろんな意味でお世話を掛けてる、
っていう自覚がないんですよ。
スタッフ 一切、わがまま言ってると思ってないです。
是枝 だから、僕が、時々メールとかで、
「あんまり周りにね、迷惑をかけないようにね」
って、やんわりと、やんわりと、
でも、5回くらい連絡はしてるんですけど、
本人からは、「大丈夫です!」って
明るいメールしか返ってこないんですよ。
まったくスタッフワークはうまくいってると。
それは強がってるというよりは、
本人が本当にそう思ってる感じなんですよ。
でも、その辺の鈍感さが、
監督には必要なんですよ。
糸井 うーん、うんうんうん。
是枝 そこに全部気が行っちゃうと、
だめなところはあるんで。
糸井 ジャッジできなくなっちゃいますもんね。
是枝 だから、そこは監督向きなんだけど、
周りは大変だなぁと思って。
糸井 そういう意味では、是枝さんとかって、
監督としてはハンディキャップ
背負ってるんじゃないですか。
気が付いちゃうでしょう?
是枝 あのね、僕はそう思ってるんですけど、
周りに言わせると、
すごく似てるって言うんですよ。
スタッフ そっくりですもん。
糸井 えっ? そうなんですか。
スタッフ すごく似てます。
是枝 ‥‥。

(是枝さんがアレッ? となったところで、つづきます)
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砂田麻美監督【感激インタビュー篇】*会話のなかで  「あのシーンがよかったです」というように、  映画の内容について触れています。  ネタバレは困る! というかたは、  ぜひ映画をごらんになってから、  このコンテンツを読んでくださいね。
その2 是枝監督の指摘。
── ご自分でナレーションやろうと思ったのは
なぜですか。
砂田 自分でナレーションをするつもりは
全然なかったんですよ。
ずっと、男の人に読んでもらおうと思っていました。
信頼のおける、ある役者のかたに
お願いをする心づもりだったんですが、
ナレーション録りの直前でだめになってしまった。
それでゼロに戻したんですが、
同時に、「なんで監督が読まないの?」
って言われることもあったんです。
というのも、ナレーションを当初は仮に
私の声で吹き込んでたんですね。
なので、「そのままではいけないの?」みたいに。
でも自分は男性の役者さんの声でと決めていたから、
まったくそこはブレなかったんですけど、
それが難しくなって白紙になって、
今から別な方を頼むかどうするかってなった時、
そんなに簡単に見つからないんですよ。
そのかたにしても、ただ父に似てるとか、
ただ年代が一緒とか、そういう理由で
選んだわけじゃないですから。
で、どうしようと思った時に、
私が読むっていう選択肢も浮上してきて。
けれども私は、この映画をいわゆる
セルフドキュメンタリーから
できるだけ離したいと思ってたんです。
洗礼のシーンすら自分が出るのがいやだった。
だから、自分が読んだら
終わりだと思ってたんですね。
もう本当にどうしようと凄く悩みました。
でも、亡くなった人の言葉を
生きてる人間が勝手に語る、
っていうことに対してのタブーを、
作り手自身が分かっていて
やっているということを、
映画の中で何らかの方法をもってつたえなきゃ
いけないともずっと思っていて。
もし娘であり女性である自分が
父の言葉を読めば
もうこれは虚構ですよっていうことを
最初から提示してることになりますよね。
落語みたいに。
── はい。
砂田 「このある種の嘘に90分お付き合いください」
っていう風呂敷を最初に広げれば、
その責任の取り方のひとつに
なるかもしれないって思って。
そうしたら、ずぅっと1年悩んでた、
ラストのコメントもすぐ浮かんできて。
── ああ! あのことば、
すごく心に残っています。
砂田 ありがとうございます。
「ずっと娘が成り代わって喋ってますが」
っていうコメントがありますけど、
それもなかなか出てこなかったんです。
でも自分が読むって決めたら出てきた。
いろんな意味で着地したっていう感じですね。
でも、すごく迷って、本当に蓋を開けるまでは、
どっちがいいか全然わからなかったんです。
今は、よかったかなと思ってるんですけど。
── とってもよかったです。
砂田 そうですか。ありがとうございます。
── 最初はびっくりしたんですよ。
主人公は男の人のはず、あれ? みたいな。
それがやがて壮大なユーモアだってわかる。
「私の指導不足で」「未だ嫁にも行かず」
みたいなことは、
監督が自分で自分のこと言ってるわけですよね。
それがわかってくると、
どんどん楽しく、最後はまったく
何も気にならなってくるんですよ。
砂田 途中、是枝監督に、
「『声:砂田麻美(娘)』とか、
 入れたほうがいい」って言われたんですけど、
唯一、そこが私は抵抗したとこで(笑)。
基本的に是枝監督の指摘って、
そうしたほうが絶対いいなぁと思うことなんです。
けれどそれだけは、ちょっと違う感じがして。
最後までよくわからない感じで
行きたかったんですよね。
でも、きっとわかるだろうっていう。
── わかります、わかります。
それが別に引っかかることは全然なく。
すごく素敵な声ですよね。
砂田 ありがとうございます(笑)。
── 聞いてて心地いい声ってあるじゃないですか。
だから、もう、すぅって
連れて行ってもらう感じだったんです。
砂田 そうなんですね。
── というかいまお話しなさっている、
このままですよね。
とくにナレーション的ではなく。
砂田 「上手に読まないように」と、
是枝監督にすごく言われました。
── 普通ですよね。
砂田 自分で書いてるから、何回も読んでると、
饒舌になってきちゃうんですよね、
それを、上手になりすぎないように、
ギリギリのラインで保つようにって。
── むずかしいことおっしゃいますね(笑)。
砂田 この前、アナウンサーの友達にその話をした時も、
ナレーションの仕事の時は、
いかに自分の個性とテンションを
抑えるかっていうことがすごく大事だ、
ある意味淡々と読むっていうことが、
映像にナレーションを付ける時に
すごく気を付けるんだっていうふうに言われて、
あぁ、そうなのかもしれないなぁと思ったんですね。
── 声、とても合っていると思いました。

(次回につづきます)
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2011-10-18-TUE

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