一生を、木と過ごす。
宮大工・小川三夫さんの「人論・仕事論」。
「これでも教育の話」より。

第2回 ちょっと、緊張して寝てくれ



木のいのち木のこころ 地
小川三夫
新潮OH!文庫
文庫: 215 p
出版社: 新潮社
ISBN: 4102900934

糸井 小川さんが出演された、NHKの
「課外授業ようこそ先輩」の中で、
弟子入りしたいという子どもが来たじゃないですか。
あの時に、小川さんが、
「とっても楽しい仕事だけれども、
 家族との関係は、むずかしいですよ」
と、それだけおっしゃっていたのが、
すごく印象に残っていて。
小川 あぁ。
糸井 「そうだろうなぁ」とは思ったんですけど、
小川さんご自身のご家族との関係みたいなのは、
むずかしいなりに何とかなっているわけですよね?
小川 そら、むずかしいでしょうなあ(笑)。

もちろん、自分は楽しいですよ、毎日毎日が。
正月でもいないぐらいですから。
でも、そうすると、
子供は何もかもわかりませんよな。
家内も、ちょっといろんな点で不満はあるでしょうな。
いや……「すごくある」んじゃないですかね。
糸井 (笑)
小川 それがわかってきたのは最近でしょうなぁ。
30年ぐらい一緒にやってきて、
やっと「こういうもんだなぁ」という……。
糸井 それまで、気づきもしなかった!(笑)
小川 気づきもしないですよ。
糸井 それ、おもしろいなぁ。
小川 はじめの頃は、嫁さんをつかまえて、要するに
「おまえも弟子とおんなしように
 教育してやればよかったな」
みたいなことを言っていたもの。
そしたら、「わたしは弟子じゃない!」と怒ったよな。
ハハハハハ。
糸井 (笑)小川さんにとっては、
それは親切だったんですよね?
小川 そうだよ。
仕事は、おもしろいことであり、
日常生活のことであり……と思ってた。
糸井 奥さんが
「わたしは弟子じゃない!」
って言ったのも、おかしいですね。
小川 今から思えば、そら、そうでしょうな。
嫁さんで来てるんですからね。
糸井 だいたい、小川さん、
なんでお嫁さんをもらったんですか?
小川 それは、やっぱし、
面倒くさかったんですよね、生活するのが。
糸井 (笑)あはははは!
小川 それで、嫁さんでももらおうかなぁ、
という気になるわけですわな。
糸井 つまり、宮大工の仕事にかかわらない
生活が、ぜんぶ面倒くさかったわけですね。
小川 そうでしょうな。日常生活としては、
ずうっと仕事をしていた方がいいのに、
やっぱし飯つくりをしなくちゃならないとか、あるから。
糸井 (笑)すごい理由だ。
小川 はじめ、嫁さんが来て、
嫁さんの寝相がちょっと悪いんですよ。
悪いといったって、普通の人でしょうけど。
西岡棟梁や俺は、ものすごく訓練しているから、
いつも、ピクリとも動かんで、寝ているわな。
それに比べたら、よく動くように見えたんだ。

だから、嫁さんに、
「ちょっと悪いけども、緊張して寝てくれ」
と言うて……そしたら、
「わたしは緊張しては寝られん!」と。
糸井 (笑)小川さんのそのセリフ!
「ちょっと緊張してくれ」って……。
理不尽な。
小川 悪いこと言ったよなぁ。
自分はそれまで西岡棟梁のところにいて
弟子入りをしているわけですよ。
そんで、棟梁の寝てる2階で、自分が寝てた。

棟梁はものすごい偉い人ですから、
それこそ物音一つ立てずに生活するわけですよ。
布団でもちゃんと下に置いて、
それを音をたてずに、静かにスーッと伸ばして、
そこに潜り込んで朝まで待つという寝方ですよ。

俺もそういう寝方を学んだわけだから、
いまだかつて目覚まし時計で目が覚めるとか、
そういうことはないですね。
何時といったら、すぐ起きる癖がありますので。
徒弟というのは、そういうふうなもんなんですよ。
棟梁とおんなし生活になっちゃうんですね。

だから、それはたしかに、
ふつうは緊張して寝られないわな。
緊張して寝たことがない人は。
糸井 (笑)普通は緊張したことないですよ。
小川 ハハハハハ。
ですから、一度でいいから
目覚まし時計で起こされて起きてみたい、
と思うときありますよ。しかし、だめですよ。
糸井 起きてしまう?
小川 うん。
目覚まし時計が鳴る寸前に起きますから。
目覚まし時計がかわいそうですよ、
役に立たなくて。ヘヘヘヘヘ。
糸井 こんなに珍しい人だとは、
思いも寄らなかったですよ。
小川 そんな生活が普通なんです。
自分たちは、そういう毎日の中で、
仕事をしていくんですよ。
糸井 なるほどなぁ。

(つづく)

2002-09-16-MON

BACK
戻る