アーカイブ 2003/07/01
 
第16回 スーパースターは不器用。
ここからの5回分は、
ほぼ日刊イトイ新聞が2003年に開催したイベント
「智慧の実を食べよう。300歳で300分。」の
打ち合わせのときのようすをまとめたものです。
ちなみにこのうち会わせは、
先の対談から半年後に行われました。
糸井 今度の講演で、
藤田さんにうかがいたいのは、ぼくにとっては、
「気持ちの強さ」というところなんです。

どういったら、いいんでしょう。
みんな、先が見えちゃってるようなつもりで、
生きていますよね。
そこのだるい部分を超える何かについて、たぶん、
経験が、たくさんおありになられると思うんです。
藤田 いやぁ、自分のじゃなくて、
人の経験を、見てきてますからね。
やっぱり、一緒にやった連中がすごかった。
自分は大したことないんですけどね(笑)。
糸井 その経験が、すごい分量だと思います。
藤田 自分では、
「これだけやった」なんていうのは、
なかなかわからないし、言えないですよね。
「あいつは、あれだけやってる」
なんていうのは、見えるんだけど。
糸井 はい。
藤田さんのお話って、膝を打つことが多くて。
「才能が十分にありすぎるような人は、
 育ちにくいんだ」とか・・・。
藤田 そうなんです。
才能に甘えちゃってね。
ちょっと、足りないぐらいがいいんですよね。
糸井 いい話ですよねぇ。
藤田 うん。
それで、ぶきっちょなヤツがいいですよね。
器用なヤツはだめなんですよ。器用貧乏で。
糸井 じゃあ、スーパースターって言われる人は、
みんな、ぶきっちょなんですか?
藤田 なんか、どこかに
ぶきっちょなところがありますよ。
糸井 はぁー・・・。
藤田 「天才的に何でもできる」
っていうのは、あんまり、こう、
「ひとつの壁を突き抜ける」
っていうようなところまでは、行かないです。
糸井 ご自身は、どっちなんですか?
藤田 ぼくは、どっちかと言うと、適当に、
壁を突き抜けない手前でちょっと休んで(笑)。
で、また挑戦して、また休んで、っていう……。

でも、例えば王なんかは、
そういうところを一途に突き抜けてしまう。
糸井 王さんも、なんか、
不器用そうに見えますね。
藤田 あれは、ぶきっちょですよ。
糸井 あ、そうですか?
藤田 ええ。

ああいう連中を見てると
特徴的なところっていうのは、
「ひとつのことにこだわってるときには、
 他のことは頭にない」ってことなんですね。

おもしろいですよ、あれ見てると。
長嶋にしても王にしてもそうでしたけど。
糸井 ひとつのことにこだわっている時には、
「他のこと」は、頭から消えちゃうんですか。
藤田 ええ。
もの忘れは、すごいし……。
だって、そういうヤツの座った後は、
必ず誰かが見ておいてやらないと、
何か忘れてるから……それから、
「自分のものも人のものもない」
というような状態が、何年間か続きますよ。
糸井 (笑)「何年間か」!
藤田 おもしろいですよ。
そういうヤツらは、だいたい
似たようなところがありますから。

特別なスーパースターっていうのは、
そういうところ、ありますよね。
「構わない」っていうか。
もうね、物事には、構わない。
糸井 それって、失礼だけど
「スーパースターは監督には向かない」
ってことですか?
藤田 ええ、
ちょっと向かないかも知れないですね。
ええ、向かない。
糸井 (笑)困りますよね、監督やったら。
藤田 でもね、川上さんあたりがね、
転身するんですよね、コロッと。
糸井 川上さん、じゃあ、
選手時代は違っていたんですか?
藤田 川上さんは、選手時代はね、
40分のビジターのバッティングの持ち時間を、
30分、自分がひとりで打つんですよ。
糸井 (笑)
藤田 あとの10分、
残りの10何人で打つわけですよね。
3割打って中心打者だから、誰も文句言わない。
それで、本人は何にも感じないんですよね。
糸井 「あー、今日は打ったぁ!」みたいな(笑)。
「あんた、30分も打ってるよ……」という。
藤田 (笑)そういうところはあります。

スーパースターとしての、物事に構わない、
人の思惑なんて関係ないみたいなところは、ある。
糸井 スターは、ひとつのことで、
一杯になっちゃうんですね。
藤田 いっつも一杯になってるね。
ところが、川上さんは、監督になったら、
もうガラッと変わってしまいますね。
あそこが、見事。
立場でガラッとこう、
生き方を変えられるというのは……。
糸井 ふつう、考えられないですよね。
藤田 ふつうはそのまま行っちゃいます(笑)。
糸井 へぇー。
藤田 「ひとりでやりゃあいい」っていう人が、
全体でやらなきゃいけないっていうことに
変わるわけですからね。
糸井 川上さんが勉強した気配とかは、
やっぱり、あったんですか?
藤田 やりましたよ、やっぱり。
糸井 やっぱりやってらっしゃるんだ。はぁー……。
藤田 そうとう、凝り性のほうですから。

例えば、ぼくが釣りを教えたときには、
徹底的に本を読むし、
工具で何でも作ろうとするし……。
糸井 自分で、やるんだ。
 
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