体温のある指導者。藤田元司。
悪ガキから、慕われるリーダーに。
(「これでも教育の話」より)

 桑田のノート




こんにちは!

今日から、元・巨人の監督、
藤田元司さんと「ほぼ日」糸井重里による
チカラのこもった対談連載が、はじまります!

かなり濃い内容の会話が、ぜんぶで20数回続き、
土曜日を抜かして、「毎日連載」になるんですよー。

この対談、野球ファンはもちろん、
野球ファンならずとも興奮する内容であること、
「まちがいなし!」だと思っています。

「昨日、元・巨人の監督の
 藤田元司さんと電話で話した。
 ぼくには、年上の尊敬する人が何人かいるのだけれど、
 藤田さんについても、特別な思いがあって、
 それはもう、宗教的ななにかに近いくらいのものだ。
 ちょっと電話で話しただけなのに、
 目が潤むほど
 なつかしくてうれしくて、元気になってきた。
 無理を承知で、ああいう男になりたいものだと、
 ぼくだけでなく、藤田さんのチームにいた人たちが
 みんな思っているらしい」


darling糸井重里にとって、
藤田元司さんとは、そんな人なのだそうです。

野球シーズン最高潮の時でもありますので、
連載初回の今日は、対談の中盤あたりの会話を、
まずは、「ハイライト」的におとどけいたしますね。

今年最優秀防御率獲得の復活をとげて、
日本シリーズ第2戦でも大活躍の、桑田真澄投手に対する、
藤田元司さんの「あれはみごとだ」というコメント。

エースとは、チームの中で、どういう存在なのでしょうか。

「仕事論」にもつながる話になっています。
さっそく、おたのしみください!!







糸井 長いペナントレースの中で、
逆風が吹いた時というのは、
それまでがトントン拍子だと、余計に
「あの方針は、間違っているのかなぁ?」
だとか、迷いが出るものですよね‥‥。
藤田 ええ、出ます。
糸井 そういう迷いが出た場合、
藤田さんは、「迷い」は「迷い」として、
どっちつかずのままで、行くほうですか?
藤田 ‥‥まあ、打開策は
いろいろ研究しますけど。

野球チームなら、
そのためにコーチもいるし、
そういうときの頼りになるのが
コーチの手足ですから。

やっぱり学ぶというのは
マネるところからはじまりますから、
だから、まずイイものを見て、
マネをすることですね。

いいものを見て、マネをして、
それを取り入れていっているうちに
自分のものになりますから。

だから、「俺が最高だ!」なんて
いっているのでは進歩ないと思うんすね。
何だっていいから、マネるんです。
糸井 へぇー‥‥。
藤田さんも、そうしてきたのですか?
藤田 ええ、ぼくはよくマネしました。
糸井 それは選手時代からですか。
藤田 ええ、もう若いときからそうです。

だからね、
よくある話ですけど、
ひとつのチームに、エースがいるでしょう?
そのチームには、似たようなピッチャーが
どんどん同じような格好で、育ってくるんです。

糸井 あぁ‥‥。
藤田 だから、一緒に並んでやっていると、
かっこうや、カタチまで似てくるんですよ。
だから、ぼくはエースの背中のほうに、
これからの若い選手をつけてピッチングさせた。
糸井 そこから、学ぶんですね。
藤田 そう。
前の人のタイミングだとか、
腕の上げ方だとか、
足の上げ方だとか‥‥似てくるんです。

口で方法を教えていくよりは、
エースが投げているのを見て、
一緒になって投げているほうが、
早く育つんですね。

あれもマネで、育てる一つの方法なんです。
糸井 犬を飼うときに、
先に飼っている犬と、あとから来た犬がいて、
おしっこのトレーニングを
前の犬が教えるというのがありますよね。
‥‥あれですね!
藤田 あれなんです。
不思議ですよ。
糸井 ということは、
「マネされるばっかりのほう」にまで
至らない限りは、エースじゃないんですね。
藤田 そうです。
糸井 今、巨人でいうと
エースは、誰なんですか?
藤田 今のエースですか。
今は、成績からいえば上原ですよね。
糸井 マネされるところまで‥‥?
藤田 精神的なものだとか
全体的なものからいくと、桑田だと思うんです。
フォームからいっても、
組み立てからいっても、
物の考え方や、野球に取り組む姿勢、
そういうものまでを見ると、桑田です。
あれは立派なエースだと思います。
糸井 じゃあ、今のジャイアンツには、
精神的なエースと稼ぐエースと、
2人いると、藤田さんは思うわけですね。
藤田 そうです。
糸井 一時期、桑田をかばったのは、
あの時代、けっこう、
監督としては考えられたでしょう?
藤田 桑田のふだんの野球に対する取り組みかたや、
生活を見ていますと、
ほんとうに大事にしてやりたい‥‥。

あれだけの素質を持って、
あれだけの生活をしている人間って
野球界には、いないですから。

一時期、桑田に対して、
首脳陣から、ああしろこうしろと
言おうとした時があったんですよ。
練習方法だとか、コーチと多少ありまして。

その時、桑田がぼくのところに
「ちょっと話を聞いてくれますか」
と来たとき、抱えてきたノートが‥‥
(腕をひろげて)こんなに、あるんです‥‥。

桑田は、高校時代からずっと、ずっと、
自分の1日の過ごしかた、
練習方法、何を食べて何時に起きて、
何時に寝て、きょうは何をした‥‥
それをぜんぶ控えていました。

ノートを、ぼくのところに、抱えてきたんです。

それを見たとき、ぼくは、
「こいつにはもう、一言も言うまい」
と思いました。
それぐらい自分を律する力というのがスゴいですね。

不幸にも、マスコミが善玉と悪玉とを
2つ作りあげてしまった時に
一時、悪玉の方に入れられちゃったものですから、
あんなにいい子をね‥‥それはかわいそうでした。

あれは、ぼくは尊敬します。
みごとな人間です。
糸井 桑田が、悪玉の報道の渦中に
入れられた時って、まわりとしては
「どうカバーするか」
みたいなことがあったと思うんですけど。
藤田 カバーのしようがないんです。
ああいうように大騒ぎになってしまうと。
「そうじゃない!」とこちらが何度言っても、
新聞に出てしまうんですから。
かわいそうでした。

ああなってしまうと、
何かの機会があったときに、
「桑田はそんな人間じゃないよ」
と個人的に話をするしか、手がない。
糸井 しかし、桑田は
よく何回も乗りこえましたよね‥‥スゴい。
藤田 あれは、強いですね。
糸井 強いです。
あんな人は、やっぱりいないんですか。
藤田 あそこまで徹底して
やり遂げているのはいないね。
糸井 それを監督に
わかってもらえているというだけで、
桑田のほうも、きっと、うれしいんですよね。


(※明日につづきます。おたのしみに!!!)

2002-10-30-WED

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