CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第11回 この戦争、いつまで続くんだ?

糸井 小野田さんの部隊は、
退却戦をやっていたわけですよね。
小野田 そうです。
相手の軍のいないところを
いろいろ潜って歩いて。
糸井 だから、
あれだけうわさがあったわけですもんね。
小野田 ええ。
糸井 その辺になると、笑うしかないですね。
想像できないんですもん。
小野田 島民にいわせれば、
「この島をいちばんよく知っているのは
 小野田だ。
 こんなところを探したって、いっこないよ。
 いまごろは、遠くへ行って
 うまいものを食って
 休んでいるんじゃないの」
もう島民は、そのぐらい
よく知っているんです。
糸井 (笑)プ!
・・・ふ、吹いちゃいました。
小野田 捜索隊が現地でそれほど
情報を得ていなかったから。
糸井 だから、地元では、
名前がわからなくても有名人ですよね、
何だか、そういうヤツ(笑)として。
小野田 ええ。
ぼくの名前は知らないけど、
顔は知ってますよね。

向こうの軍隊の大隊長だとか、
町長なんかは、ぼくのことを
「山の王様だ」といっていましたよ。
「何を思っとるんだろう、
 本当に自分の好きなことをやっている」
というかんじで見てた。
何が目的でやっているか
彼らにはわからないかもしれないけど、
とにかく好きほうだい、
「そんなことせんでもいいのに」
ということをやる。
糸井 宮崎駿さんの「もののけ姫」の
あの、「オッコトヌシ」といわれている
動物がでかくなったやつみたいだな(笑)。
小野田 住民の家に
ガッと押しこんで行ったって、
「おまえ、貧乏だなぁ」なんていって
帰っちゃうんだから。
糸井 そういうお話は、
ほんとにいくらでも聞けるし、
おもしろかったり、
いろんなことを考えられるんだけど、
普通はどこかで想像が届かなくなるんですよ。

でも、子どものときからの話を聞いていると、
そのころからそういう人だったんだ、
ということがわかって。
小野田 だから、まとめていえば、
「らしくあった」んですよね。
糸井 「らしくあった」(笑)。
小野田 結局、
子どものときは子どもらしかったし。
暴れ馬でね。
軍隊に入れば、軍人らしくしたのです。
糸井 何度も聞かれたかもしれないですけど、
フィリピンにいるとき、
じゃあ、ここで終わりにしようと説得されたときに、
何が変わったんですか。
小野田 ここで終わりにするというのは
・・・何の話?
糸井 つまり、
ずうっと見つからないままに来たのに、
捜索隊が来てしまったにせよ、
意地っ張りとしては、
試合をそこで終わりにしたわけですから。
小野田 我々の肉体的な能力からいくと、
60歳になったら無理だろうと・・・。
糸井 そこも、理詰めなんですね。
小野田 やはりだんだん体力が落ちるのは
わかっていました。

銃でしとめた牛の肉40キロを
5時間も6時間も背負って歩いて、
山で乾燥させないと
我々は生きていけないんですよ。
食糧の獲得という点で
それ以外に、生きていく方法はなかったんです。
だから、それが
30キロしか背負えなくなったとしたら、
もう生きていけない。
糸井 (笑)いやぁ・・・まるで、
野球選手の引退理由みたいですね。
小野田 だから、
ずうっとそのまま命令をもらえなきゃ、
まあ、60歳で終わりだろうと思ってた。
糸井 その覚悟もあったわけですね。
小野田 だから、60歳までに弾がなくなって
終わりになっちゃ困るから、
撃ちたい弾も我慢して、
年間60発以上は撃たないことにしていたわけ。
だから最後に、
52歳で 600発という弾が
残っちゃったんです(笑)。
糸井 ハハハ。
計算づくなんだ。
小野田 これははじめから考えてたんだけど、
ほんとはね、最後は、
ありったけの弾を撃ちまくって、
敵にハチの巣のように体に穴をあけてもらう。
それで終わりはどうかな、と。

でも、まだ命があって元気があるのに、
わざわざ首をくくることないですよねぇ。

というのは、
もともとの戦略は
中国大陸で戦闘する計画だったから、
後方を牽制するために
軍事基地があったその島へ
強者を入れたんです。
そこは離れ小島だったから、手を抜いたら、
敵の遊撃隊が島の滑走路を占領する
心配がありますからね。

ところが、朝鮮戦争がはじまったでしょう。
もうスービックだとか、
クラークの飛行機が動きますよね。

もちろん、島のなかにはレーダーの基地がある。
軍事基地のなかにいたんだから、
アメリカの本国が丸見えといえば丸見えなんですね。

でも、その戦争の相手が
てっきり日本軍だと思っていたわけ。
日本本土が占領されるかもしれない
という前提で
たてられた戦略が頭にあったからね。
糸井 そこだけが大きな誤解だったわけですね。
小野田 そうです。
戦争が終わったから
そんなことはだれもいわないけど、
本当は、上陸されたら国内を遊撃する。
それで、大陸での戦争を長引かせて
戦争をやめさせてやろうと
思っていた。
大陸で有利に戦うために、フィリピンに
そういう部隊を残していった。

ところが、船があるわ、漂流物があるわ、
爆撃機は飛ぶわ、
「ああ、向こうでやっているんだから」と思ったら
こっちも頑張りますよね(笑)。

何にもないところだと、
「あれ? こりゃ、どうなっているんだ、
 これ、ずいぶん長いなぁ」
ということになるかもしれないけど、
目に見えて上で戦争しているから
いけなかったんですね。
糸井 ちょうどその場所がまた
誤解を生みやすいところで。
小野田 そうなんですよ。
相手は違ったけど
アメリカは戦争していたんですよね。
糸井 活字のなかでそういう要素は
たくさん書いてあるんですけど、
実際に声で聞いたときの、そのリアルってすごいです、
やっぱり。
(続きます。)

2002-01-15-TUE

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