浅草今昔展 編

その3 江戸浅草のにぎわい、「吉原」遊廓の彩り
11月16日(日)まで、
江戸東京博物館で開催中の『浅草今昔展』。
担当学芸員の沓沢博行さんに、
たのしくわかりやすく、お話をうかがっております。

さて、きょうのテーマは、ずばり「吉原」です。
そもそも吉原遊郭は、
東京の真ん中にあったって、ご存じでした?!

── もともと大きな盛り場だった場所に、
吉原というものがやってきて、
さらに人々が集まるようになるわけですね。
沓沢 1657年に明暦の大火という
大火事がありまして、
その後、吉原遊郭は浅草田圃に移されて、
移転後の吉原は「新吉原」と呼ばれました。
当時の江戸区域でいえば、
浅草ってけっこうはずれの場所なんですよ。
── そうだったんですか。
沓沢 ほんとに隅田川の端っこですから。
それはやっぱり、なんといいますか、
江戸の中心にそういう場所があってはならない、
という上の考えがあったのだと思います。
── なるほどお。
‥‥あの、無学で恐縮なのですが、
前の吉原はどこにあったんでしょう?
沓沢 日本橋の葺屋町、現在の人形町ですね。
── それは、浅草にくらべれば、もう‥‥。
沓沢 江戸のど真ん中です。
こちら、ご覧ください。

▲新改 吉原細見花車 館蔵
※各画像は、クリックすると大きくなります。
── これが、新吉原ですか。
沓沢 1716年のもので、当時のガイドブックですね。
── ガイドブック!
沓沢 お店の名前から、遊女の名前まで。
── こんなにびっしり‥‥。
沓沢 やっぱり、ちゃんと紋の入ってるところは
大きなお店なんですね。
この地図、上に入り口のようなものが
ありますでしょ?
── はい、すこし飛び出た部分が。
沓沢 ここが「大門(おおもん)」といって、
新吉原の唯一の出入り口なんです。
葛飾北斎もここの様子を描いています。

▲新板浮絵新吉原大門口之図 葛飾北斎/画 館蔵
── へえ〜、そうだったんですかあ。
みなさん、江戸のあちこちから、
吉原までは、交通手段は何を‥‥?
沓沢 ですから、それはもちろん。
── ‥‥あ、ああ! 舟。
沓沢 はい。
── そうか、舟で行ってたんですね、吉原へは。
沓沢 もちろん陸の道もあるのですが、
舟で行くのが「粋」だったようです。
遠くから舟でくる人もいれば、
深川あたりまで歩いてから舟という人も。
いずれにしても隅田川からお堀に入って、
この大門にやってくる。
── いやあ、その舟の上では、
たのしかったんでしょうねえ。
沓沢 まあ、そうでしょうね(笑)。
これは、大きな絵なんですけど、
妓楼(ぎろう)の様子が描かれたものです。
あ、妓楼というのは遊女を置いて
遊ばせる店のことです。

▲青楼二階之図 歌川国貞/画 館蔵
── 遊んでますねえ(笑)。
‥‥すみずみまでみていくと、
あちこちでいろんなことが起きていて‥‥。
あ、料理もゴージャスですね。
沓沢 料理を売りにくる人たちもいたんですよ。
── へえ〜。
‥‥いやはや、いけません、
これはずっと見入ってしまいます(笑)。
沓沢 吉原にはその、
遊女たちと遊ぶためにくる人たちが
もちろん多いのですけれど、
そればかりではなくて、
年中行事みたいなものもけっこうあるんです。
そのひとつが、吉原の桜ですね。

▲新吉原の桜(『江戸名所花暦』より)
 岡山鳥/著、長谷川雪旦/画 館蔵
── 歌舞伎の舞台でよくありますよね、
吉原で桜のシーン。
沓沢 ええ。で、この桜っていうのがおもしろくて、
レンタルなんですよ。
── え?
沓沢 3月の初めに借りてきて植えて、
花が散ったら全部撤去されるんです、毎年。
── はあ〜。
沓沢 この周りにあるお茶屋さんなんかでは、
その2階からちょうど桜が一面みえるような
サイズのものを選んで借りて植えるっていう。
── すごい、ぜいたくなことを‥‥。
沓沢 これも吉原の桜なんですが、

▲影からくり浮絵 吉原仲之町 館蔵
── 影からくり、とありますが、これは?
沓沢 裏から光をあてると、
提灯とか、透ける部分が何カ所かあって、
それで夜桜の風景になってるんです。
裏のあかりをけして表を照らせば、昼の桜。
── すごい‥‥。
沓沢 こういうのを何か箱で工夫して、
見世物にしていたようです。
── そうですか、吉原は桜でも有名で。
沓沢 あとは玉菊燈籠(とうろう)といって、
鶴ですとか、いろいろなかたちのデコレーションや
提灯をつるして楽しむ行事が7月にあったんです。
── へえ〜。
沓沢 9月には、にわか狂言という、
なんていうんでしょう‥‥
早い話がパレードみたいなことなんですが、
男性はダルマだの、鯛だの、獅子舞だの、
いろんな格好をして、
女性は踊りながら吉原を巡るという、
にぎやかな行事が行われていました。
── けっこう、イベントがあったんですね。
沓沢 そういうイベントがあるときは
一般の人もみにきて楽しんでたといいます。
── あ、遊女目当てじゃない人も。
‥‥あの、ズレた例えかもしれませんが、
吉原に行くということは、
京葉線に乗るのにちょっと似てると思いました。
沓沢 京葉線?
── あの、ほら、ディズニーランドにいくとき、
京葉線に乗るとそれだけでワクワクしますよね。
別世界につながっている電車のようで。
吉原に向かう舟に乗っているときも、
そんな気持ちがしたのかなぁと思って‥‥。
すみません、妙なこと言って。
沓沢 いやいや、日常から離れるっていう意味では
東京の中心から東に適度な距離ですし、
乗り物に1回乗ることで、区切るというか、
そういうものを感じる部分は
あったのかもしれないですよね。
── ありがとうございます(笑)。
‥‥ですが、家族が等しく楽しめる
ディズニーランドとはやっぱり違いますよね。
年中行事があったにしても
吉原は基本的に、男性の遊び場でしょう。
沓沢 まあ、そうですね。
いろんなことを調べてて思うんですけど、
浅草なんかはとくに、
「参拝に行く」っていうのが
いちばんいい口実になるんですよ。
── なるほど(笑)。
「参拝に行く」といって、吉原に。
やはり男性の口実で。
沓沢 いや、でも‥‥女性の口実にもなりますね。
── え? それは、どういう?
沓沢 お芝居見物。歌舞伎です。
── ああ、そうか!
浅草には歌舞伎がありましたね。
  (つづきます)
2008-10-29-WED

 

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