担当編集者は知っている。


『誰も国境を知らない
 ー揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅』

著者:西牟田 靖
価格:¥ 1,785 (税込)
発行:情報センター出版局
ISBN-13:978-4795848924
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竹島をひと目見てみたいというおもいから、
この島を周遊するツアーに参加した著者。
これをきっかけに、著者は
日本周縁部の島々についてふかい興味を抱き、
一般立ち入り禁止な場所もふくめ、
竹島のような「国境の島」を訪れることで、
戦争の先にあるいまの日本を、あぶり出していきます。
取材に5年を費やした、著者渾身のノンフィクション。
内容はもちろん、丁寧かつ力のある文章に、
ぐいぐいっと引き込まれました。
この本を担当された情報センター出版局の
田代さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」小川)


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担当編集者 /
   情報センター出版局 編集部 田代靖久



「ほぼ日」読者のみなさん、こんにちは。
情報センター出版局・編集部の田代と申します。
今回ご紹介させていただくのは、
西牟田靖さんというノンフィクション・ライターが
5年をかけて書き下ろした長編最新作です。

著者の西牟田さんは1970年生まれの38歳。
大学卒業後、少しの会社勤めを経たのち、
地球一周の船旅に出ると、以降、
ライターとしての活動を始めました。
沢木耕太郎さんの『深夜特急』の経緯をたどる
香港〜ロンドンへのバス旅、
北インド、北ベトナム取材、
タリバン支配下のアフガニスタン潜入、
空爆停止直後のユーゴスラビア突入、
サハリン、台湾、韓国、北朝鮮、中国、ミクロネシア
という、かつて大日本帝国だったエリアの踏破など、
旅にこだわり、現場にこだわり、実感にこだわり、
世界各地に挑戦的な旅を続けています。
前作の書き下ろし『僕の見た「大日本帝国」』は、
果敢な行動力と大胆なテーマ、等身大の視点が
幸い多くのメディアで評価され、ベストセラーを記録、
2005年の新潮ドキュメント賞にノミネートされました。
行動派の若きノンフィクション・ライターとして、
いまもっとも注目を集める存在です。

西牟田さんとのあいだで、
今回紹介する『誰も国境を知らない』の企画の話が
立ち上がったのは、2005年の春、
前記した『僕の見た「大日本帝国」』を刊行した
数ヵ月後のことでした。
次はどんな企画をやろうかという打ち合わせの最中、
「実は‥‥こんなことをしてるんですけど‥‥」
おずおずと西牟田さんが切り出したのです。
2002年の秋ごろからその時点までに、
西牟田さんは、竹島や北方領土など、
本書で取り上げた「国境の島」のいくつかに
すでに足を運び始めていました。
(そして韓国に不法に占拠された日本領土である
 竹島では、現地を訪ねた韓国人たちの
 熱狂的な愛国心の発露にも直面しました。)
竹島のように海を隔てて外国と対峙している島や、
日本列島の周縁に位置する島、
いわば「国境の島」とでも呼ぶべき
日本周縁の“特別な場所”を訪ねて回る
という企画はどうでしょうか――
それが西牟田さんの話してくれたプランでした。

正直言って驚きました。凄い人だなぁ、と。
4年をかけてようやく一冊本を作ったばかりなのに、
その本が完成する前から、
すでに次のテーマにも取り組んでいたのです。
しかもそのテーマも、やり遂げるまでには
何年かかるかわからない大きなテーマなのです。
控えめなその語り口とは裏腹に、
豪胆な書き手としての
ポテンシャルを見せてくれた瞬間でした。

「ほぼ日」読者のみなさんは、
自分たちの生きているこの「日本という国」について
普段の生活の中で意識することがあるでしょうか?
なるほど、確かに島国ニッポンに生きる私たちは、
普段、「国境」や「領土」というものを
意識することはほとんどありません。
実際、目の前に日本周辺の白地図を広げられて、
「日本の領土ってどこまでだと思う?」
と質問されたとして、
正確に答えられる人はどれほどいるでしょう?
中国人や韓国人に比べると、日本人の領土意識というものは
かなり希薄だといえるかもしれません。
ならば、「国境」や「領土」というものを通して、
実際にその地に足を運んでみて、自分のカラダで
日本という国の姿を見つめ直すというこの企画は、
いまの時代にとても大きな意味のあることなのではないか。
――と、そう思いました。
こうして本書の企画はスタートしたのであります。




竹島(東島)の頂上には、
韓国によってアンテナ塔と有人灯台が建てられていた。


5年をかけて本書で西牟田さんが訪ねたのは‥‥
北方領土(国後島)、沖ノ鳥島、竹島、対馬、硫黄島、
小笠原諸島(父島、母島)、与那国島、隠岐、
北方領土(色丹島)、尖閣諸島、
‥‥といった島々です。
取材は決して簡単なものではありませんでした。
これら日本の周縁に位置する島のいくつかは、
一般人の立ち入りが制限されているからです。
しかし、西牟田さんは、さまざまな障害を乗り越え、
立ち入りの難しい島にも果敢に足を運び、
みずみずしい感性と等身大の視点・探究心で、
その土地の歴史と現実を丹念に掘り起こしていきます。



国後島の南西部、オホーツク海に面した海岸からは、
知床半島の姿がはっきりと見えた。




ソ連崩壊後のロシアでは次第に姿を消したレーニン像が、
国後島にはまだ残っている。


隣国に奪われたままの領土、
上陸を禁じられた政治的秘境、
いまも戦後が終わらない島、
日米の間で揺れ続けた島、
国境の手前でもがく島、
歴史が止まったままの島‥‥など、
かつて誰もなしえたことのないこの旅の中で
西牟田さんが掘り起こした「国境の島」の歴史と現実は、
私たちの生きる日本という国の姿を鮮やかにあぶり出し、
そこに行かなければ見えない、知られざるニッポンを、
実にわかりやすくあらわにしていきます。



かつては人の住んでいた尖閣諸島・魚釣島は、
いまでは訪れることのできない政治的秘境だ。




いまも戦後が終わらない島=硫黄島。
米軍上陸地点から擂鉢山を望む。
手前は米軍の水陸両用車の残骸。


本書を読み終えたとき、読者のみなさんは、
きっと日本という国に対して
それまでとは違ったイメージを持つでしょう。そして、
自分の国のことなのに「何も知らずにいる」ということが、
いかにコワイことなのかを実感するはずです。
また、いま私たちが当たり前のものとして考えている
日本という国のかたちは、決して絶対的なものでもなく、
不変のものでもないということが、改めて、
ひしひしと伝わってくるに違いありません。

最後にひとこと。
私は二十数年、ノンフィクションの書籍を中心に
編集の仕事をしてきましたが、
西牟田さんほどの行動力を持った書き手と出会えたことは
幸運だったと、心の底から思っています。
西牟田さんの行動力と執念、まっすぐな好奇心なくして、
この本は成立しませんでした。
特に西牟田さんの場合、
どこかの組織に属しているわけではなく、
まったくのフリーランスの立場で、
単行本の書き下ろしを中心に執筆活動を続けています。
これって実は、かなり凄いことなのです。
なにしろ数年かけて一冊の本を書くということでは、
ほとんどの場合生計が成り立たないからです。
特にノンフィクションの場合には。
しかし、手間と時間をかけた良い作品は、
やはり報われて然るべきだと思います。
完成までに5年という年月を費やしたこの本を
なんとかしたい、なんとかせねばならない――
そんな気持ちで私も編集しました。
贅沢な手間と時間のかけられたこの本を、
ぜひ一人でも多くの読者のみなさんに
手にとっていただければと願っています。
「へえー、日本って、こういう国だったのか」
という新たな発見が必ずあるはずです。

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『誰も国境を知らない
 ー揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅』

著者:西牟田 靖
価格:¥ 1,785 (税込)
発行:情報センター出版局
ISBN-13:978-4795848924
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2008-10-03-FRI

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