担当編集者は知っている。


『生きる
 わたしたちの思い』

著者:谷川 俊太郎 with friends
価格:¥ 1,260 (税込)
発行:角川SSコミュニケーションズ
ISBN-13:978-4827531206
【Amazon.co.jpはこちら】


谷川俊太郎さんの代表的な詩のひとつに、
「生きる」というのがあります。
「この『生きる』をもとに、
 みなさんの『生きる』をつなげてみませんか?」
という、インターネット上での呼びかけに、
半年で2000件を越す投稿があり、現在も続いております。
それらの投稿から抜粋したものがこの本です。
谷川さんの「生きる」全文はもちろん、
書き下ろし「コトバの波紋」も収録。
この本を担当された角川SSコミュニケーションズの
亀井さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」小川)


*********************************************


担当編集者 /
   角川SSコミュニケーションズ 亀井史夫



谷川俊太郎さんの「生きる」という詩が、
インターネットの世界で
ちょっとしたブームになっているらしい。
今年の1月、あるテレビ番組でそんなことを知りました。

生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木漏れ日がまぶしいということ
(「生きる」谷川俊太郎、冒頭より)

「生きる」は、こんなふうに
シンプルな言葉が淡々と重ねられた詩です。
何気ない日常のスケッチの中に、生きることの
本当の意味が隠されていることを教えてくれる詩です。
番組では、
あるSNSの谷川俊太郎ファンコミュニティで
「名作『生きる』をお手本に、
自分なりの『生きる』を表現して
みんなでつなげていこう」というトピックが立ち、
ものすごい勢いで投稿数が伸びている
ということを伝えていました。
早速そのコミュニティを探して覗いてみると、
面白いコトバたちが目に飛び込んできました。

●机に向かって30分で 眠くなっちゃうこと    しずか

●クレヨンの先が丸くなること          トロロ

●波の音を いつまでも 聞いてしまうこと     Anne

(すべて本書より)

これは本になるんじゃないか。
そうひらめきました。
各方面に連絡し、確認を取った後、
谷川俊太郎さんに話を持っていくと、
谷川さんはとても面白がってくれました。
そしていろんなアドバイスをしてくださいました。
「ただの詩集ではつまらない。ビジュアルを工夫したいね」
「これは僕の作品というより、
 みんなで創り上げた作品だから、
 そのムーブメントの熱が伝わる本にしたらどうだろう」
「1行の詩に込められた、
 ひとりひとりの思いみたいなものも知りたいね」

そんなわけで、ムーブメントの熱を伝えるため、
常連投稿者を集めて
谷川さんを囲む座談会を催すことにしました。
いきなりのメールでの誘いに
「新手のサギ?」と疑われもしたようですが、
お誘いした7人全員が集合してくれました。
みんな初対面だけど、ネット上では
どんな詩を書くのか知ってる仲間たちばかりです。
懐かしい友人たちに再会したような感覚で、
座談会は非常に盛り上がりました。
谷川さんはインターネットの世界に対して偏見もなく、
むしろ新しい文化発信の手段として
大きな期待を寄せられているようでした。
参加者の皆さんも、
コトバのもつ不思議な力について熱く語ってくれました。
3時間にわたる座談会の模様は、
この本にあますことなく収録されています。
まさに奇跡のような、編集者冥利に尽きる夜でした。


©高須力

しかし大変だったのがこの後です。
2000本以上の投稿作品の中から
100本くらいを収録しようと決めたのですが、
それにはひとりひとりの許可を取らなくてはなりません。
100人ですよ、100人!
気が遠くなるじゃありませんか。
こういった仕事は信用が大切なので、
相手に誠意が伝わらなくてはいけません。
だからひとりひとり文面も変えて、
ひたすら地道にメールを送り続けました。

すると驚くほど早く反応がありました。
みなさん快く掲載を許可してくださいました。
そして、再び奇跡が起きました。
詩だけでなく、その言葉に込めた思いや背景についても
コメントをいただくようにしたのですが、
胸を打つコメントが続々と寄せられたのです。
たとえば‥‥。

もみじのようなちいさなてのひらの
ぬくもりをまもりつづけること         Kokoro*

私は最近シングルママになったばかりです。
独りになった寂しさや辛さに押し潰され、
泣きそうになる事がよくありました。
でも、まだ何も知らない幼い娘が
「ママ、あそぼ」と伸ばしてきた手を握り返した時、
私はこの手を守るために、
どんな事にも負けてはいけないと心に誓ったのでした。
ちいさな手は未来を持っているのだと。

(本書より)

痛みを感じるということ

昔、今は亡き兄に言われた言葉です。
幼い私がどっかにぶつけて痛がったら、
「心配すんな! 痛いってのは生きてる証拠だ!」  朔月

兄が病で余命わずかと宣告されて、
私は兄にはっきりとこう言いました。
「私、死ぬことが全ての終わりだとは思ってないから」。
兄はそのとき頭を起こして初めて
「まぁな、そういう考え方もあるわな」と
強く返事をして頷きました。
それがここで、一つ証明されたような気がして
感謝しています。兄はよく痛みに耐えました。
動物好きでもあった兄は、
生きるという事のあらゆる履修をして
卒業していったのだと、私はそう思います。

(本書より)

思わず、つるーっと涙が零れました。
よかった、夜中で。
編集部にはほかに誰もいなかったので、
冷やかされずにすみました。

こんなふうに、1行〜数行の短い詩から、
さまざまな人生模様が透けて見えるのです。
生きることは楽しいことばかりじゃない。
むしろつらいことのほうが多いかもしれないけれど、
みんな、誰のせいにするでもなく、
自分と向き合って生きているのです。

それからこの本は、ビジュアルも充実させました。
すべての写真を詩の投稿者から募るという、
ある意味賭けみたいな試みに取り組みました。
素人写真で大丈夫だろうかという不安もあったのですが、
さすがデジカメ時代。
素晴らしい写真がどんどん送られてきました。
表紙に採用した、赤ちゃんが親の指を握っている写真も、
投稿者の方のお子さんが生まれたときに
撮影したものだそうです。
これなんかもいい写真ですね。



大好きなのに 大嫌いだ! と、
言ってしまうということ             peco☆



そっと手をつつんでささやく
だいじょうぶ おやすみ            ・・うた
(ともに本書より)
 
そんなわけで、たくさんの人の思いが集まって、
奇跡の化学反応が起こった本です。
ひとはなぜ生きるのか。
その答えはひとつではありません。
ひとの数だけ答えがあります。
そんな当たり前だけど大切なことを教えてくれる本です。
読み終わった後に、心がふんわり軽くなります。
流した涙の温かさに、気付かせてくれる本です。


*********************************************



『生きる
 わたしたちの思い』

著者:谷川 俊太郎 with friends
価格:¥ 1,260 (税込)
発行:角川SSコミュニケーションズ
ISBN-13:978-4827531206
【Amazon.co.jpはこちら】

担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2008-09-02-TUE

BACK
戻る