担当編集者は知っている。


『最後の授業
 ぼくの命があるうちに DVD付き版』

著者:ランディ・パウシュ+ジェフリー・ザスロー
翻訳者:矢羽野 薫
価格:¥ 2,310 (税込)
発行:ランダムハウス講談社
ISBN-13:978-4270003503
【Amazon.co.jpはこちら】


著者のランディ・パウシュさんは
グーグルや、ウォルト・ディズニー・イマジニアリングで
働いていた経験もある、大学教授です。
彼が行った「最後の授業」。
その内容は、彼が専攻とする、
コンピュータサイエンスについてでもなく、
彼が抱えていた病気、すい臓がんのことでもありません。
「子どものころからの夢を本当に実現するために」と題され
彼のこれまでをユーモラスに語ったものです。
講義の模様は、インターネットで動画配信もされており、
講義から1年近く経ったいまでも、
そのアクセス数はふえています。
この本を担当されたランダムハウス講談社の
常盤さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」小川)


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担当編集者 /
   ランダムハウス講談社 常盤亜由子



ランディ・パウシュという名前を私がはじめて
耳にしたのは、2007年11月のことでした。
カーネギーメロン大学教授。
バーチャルリアリティの第一人者。
最愛の妻と3人の幼い子を持つ家庭の主。
そして、すい臓がん患者。
そのどれもが私にとってなじみの薄いものだったけれど、
パウシュ先生が「最後の授業」を行ったこと、
アメリカでは動画投稿サイトを通じて
その授業の模様を600万もの人たちが目にしたこと、
そして、
その講義の内容を下地にした書籍が
企画段階にあると知って、
さっそく私もYouTubeでパウシュ先生の「授業」を
受けてみることにしました。




講義をしているパウシュ先生は
闘病中の身とは思えないほどの闊達さ。
(Photo: Carnegie Mellon University)



‥‥驚いた。
余命宣告を受けた身だというのに、悲壮感がまったくない。
「子どものころからの夢を本当に実現するために」と
題された講義のあいだじゅう、
一流のプレゼン力と最高のユーモアで講堂中を沸かせ、
子供のようなまなざしで聴衆に語りかける
パウシュ先生の姿にただただ圧倒され、
時のたつのも忘れて80分近くの授業に聴き入りました。

動画を観終えたとき、
英語のリスニングテストを受けたあとのような疲れと
言葉にならない興奮でふにゃふにゃになりながら、
私は企画書を書きました。
「これは、重い病を背負った男の悲しい物語ではない。
 全身で人生を楽しみ、
 全力で人生をまっとうしようとする男の物語。
 そして、彼の生きざまから
 何かを感じとってくれるはずの、
 読者自身の物語」
それから4日後の企画会議では、最初に一言。
「ぜったいに、やらせてほしい企画なんです」

晴れて企画が通ったあと、私の頭を悩ませていたのは
「日本ではまだ知る人の少ない
 ランディ・パウシュの最後の授業を、
 どうすれば多くの人に紹介できるだろう?」
ということでした。
さんざん悩んで、盛大に悩んで、
今回の企画では「本」をつくるという意識を
捨てることにしました。
この企画は、動画がなければ始まらない。
でも、本がなければ動画を味わい尽くせない。
映像と活字がたがいに寄り添うことではじめて
ランディ・パウシュという人間の輪郭が見えてくる
「コンテンツ」――そう思ったからです。

そこで、書籍のみのバージョンに加えて
字幕付きの映像を収めたDVD付き版も
つくることにしました。
ついでに
日本語字幕付きの動画もYouTubeにアップすることに。
ここまできたら、ケチなことは言いっこなし。

翻訳を引き受けてくださることになった矢羽野薫さんとは
ミーティングでこんなお話をしました。
「時間的な余裕はあまりないかもしれないけれど、
 先生がご存命のうちに日本語版を出しましょう」
オリジナルの原稿が届いたのは2008年2月上旬。
矢羽野さんから訳文原稿が届いたのが3月下旬でしたから、
1ヶ月半ほどで翻訳を上げていただいたことになります。
本の翻訳作業と並行して進めていた動画の字幕も、
訳者の中山典子さんに1ヶ月足らずで
作業していただきました。‥‥まさに神業。

多くの方のご尽力の甲斐あって、
猛スピードで仕上げた日本語版は6月19日に
書店に並びました。
うれしいことに、パウシュ先生は医師から告げられた
命の刻限を過ぎてなお、懸命に闘病中とのこと。
「間に合った‥‥」
書店に並んだ『最後の授業』を手にとりながら
頭に浮かんだのは、そんな気の抜けたような感想でした。




編集部に届いた読者ハガキ。
たくさんの方から感想をお寄せいただきました。



けれど、ほっとしたのもつかの間。
7月25日、
パウシュ先生は永遠の眠りについてしまわれました。
日本語版の刊行から、たった1ヶ月と少し。
YouTubeの日本語字幕付き動画も徐々に口コミで
広がりはじめていた矢先の訃報を、
複数の全国紙が報じてくださいました。

もしかしたら、こちらからお贈りした日本語版を
パウシュ先生がその手にとることはなかったかもしれない。
日本でも「最後の授業」の動画を観たたくさんの方が
先生の言葉にどれだけ勇気づけられたかなんて、
もっとご存知なかったかもしれない。
それでも、
『最後の授業』の次の一節を読み返しているうちに、
海を隔てた日本からのたくさんの想いが
きっと先生には伝わっていたはずだと信じたくなりました。

「友人たち。愛する人たち。牧師。
 まったく知らない人たち。
 僕の幸せを祈り、僕を励ましてくれる人たち。
 人間のいちばん素敵な部分を知ることができて、
 心から感謝している。僕が歩んでいるこの旅で、
 一人だと思ったことは一度もない」
                (p.224より)

この本との出合いから刊行までの約半年間に、
私はついぞ一度もお会いすることのかなわなかった
「恩師」から、とてつもなく大切なものを
学んだように思います。
私がそう感じたのと同じように、
パウシュ先生の授業から「何か」を
感じとってくれる人がひとりでも増えてくれることを、
今はただ願うばかりです。
そして、この本を読んでくださった方の心のなかで
パウシュ先生が生きつづけるのだとしたら、
それは担当編集者にとって
最高に贅沢なご褒美かもしれない。


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『最後の授業
 ぼくの命があるうちに DVD付き版』

著者:ランディ・パウシュ+ジェフリー・ザスロー
翻訳者:矢羽野 薫
価格:¥ 2,310 (税込)
発行:ランダムハウス講談社
ISBN-13:978-4270003503
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担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2008-08-29-FRI

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