担当編集者は知っている。


『新宿駅最後の小さなお店ベルク
 個人店が生き残るには?』

著者:井野朋也(ベルク店長)
価格:¥ 1,680 (税込)
発行:ブルース・インターアクションズ
ISBN-13:978-4860202774
【Amazon.co.jpはこちら】


JR新宿駅東口、改札からすぐのところにある
「ベルク」
は、ビールにコーヒー、
おつまみにホットドッグなどが
「早くて、安くて、うまい」、個人経営の小さなお店です。
もともとは同じ場所で喫茶店をやっていたご両親から
お店を引き継いだ、著者の井野店長。
飲食店のノウハウをまったく知らずに始めたそうで、
さまざまな工夫やこだわりにあふれたユニークな経営論を
本書で語ってくださいます。
現在、毎日1500人くらいのお客さまがいらっしゃるそうで、
スタイリストの伊賀大介さんも常連さんだそうですよ。
この本を担当されたブルース・インターアクションズの
稲葉さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」小川)


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担当編集者 /
   ブルース・インターアクションズ
   Pヴァイン・ブックス・編集 稲葉将樹


新宿駅のビア&カフェ「ベルク(BERG)」。
知ってる人は知ってるけど、
足早に通り過ぎてしまう人も多いのでは?
そんな新宿駅東口の通路にある
ファーストフードのお店です。


▲こんな場所にあります。たった15坪のお店。
 都内で生活している人なら一度は通ったことがあるはず?



<孤独のグルメ>

最初に「ファーストフードのお店」と書きましたけど、
僕にとってのベルクはそんなもんじゃないんです。
ベルクに行くのは主に夕方。
新宿の書店やレコード屋を流した後、ベルクへ直行。
へっぽこ編集者にとっては、
書店ってけっこう凹む場所でもあるんですよ。
あ〜また俺の作った本が売れてないとか、置いてないとか、
セコく悩んだり、他人の作った本に嫉妬したり、
なんか表紙が寂しくないかとか、
タイトル失敗したなぁとか。
(ノリノリのときは逆に、こんなオモロイ本、
 俺も作りたい! とか思うんですがね)
そんな凹みモードで、
一人で向かうのが僕にとってのベルク。
(嫌な客ですみません‥‥)
誰とも会いたくないとき、僕はベルクに寄るわけです。
一人ポツネンとビール(エーデルピルス派!)とおつまみ。
で、山手線に乗れば、ほどよい揺れでほろ酔い気分。
ホント幸せ感じます。
そんな「孤独のグルメ」としてのベルク利用者だったので、
帯の推薦文は名著『孤独のグルメ』 の久住昌之さんに
お願いしようと決めてました。
実際、久住さんもベルクに来店され、
その時の日記も素晴らしいです。

その時の日記は、どうぞこちらからご覧ください。


<大衆娯楽接客業?>

そんなやさぐれ気分で一杯やってる僕ですが、
最初は、そのただならぬ雰囲気と、
お味にノックアウトされました!
付け合わせの野菜までもが、なんともやさしい味。
「自然食」ともいえるんだけど、
「誠実な味」っていうんでしょうか。
丁寧に注がれたビールのうまさ。
エンジェルリングもすげぇ数ですよ!
たぶん食器も中性洗剤で洗ってないのでは?
そこまで明らかに違うんです。

スタッフの接客も自然体。
某居酒屋の大声張り上げ系、膝立ち接客とは違う、
ニンゲンとしてお客と対等に接する感じ?
(「お客様は王様です!」みたいな店は苦手だ。)
例えば、対価以上のライヴを観たときの感じに近いかも。
アンコール1時間やってくれたよ、みたいな?
本当に「ありがとう!」って帰路に着く感じ。
安くてうまい! ただそれだけで、
店を出るころには闇雲なパワーが涌いてくる。
ベルクに行くと、モノづくりに必要な精神とは
サービス精神であることを強く思うんですよ。
本書には
ベルクの「新人向けマニュアル」の文章も載せています。
そのマニュアルの冒頭が
「大衆娯楽接客業とは何ぞや」でした。
しかも、「芸術とは?」「娯楽とは?」っていう
店長の哲学問答が繰り広げられている! 
現場から生まれた接客哲学は、飲食店経営者のみならず、
ぜひみなさんに読んでいただきたいです。


▲店はこんな感じです。L字型で、大きな柱が2本。
 細長いたった15坪に、多種多様なお客さんがひしめき合う。



<モダンさと土着さと>

あと、内装も素晴らしいんですよ。
モダンデザインが溢れまくる都心において、
なんて土着な佇まいなんだ! というのが
ベルクの第一印象でした。
しかし、中に入ると、
なんともコスモポリタンでモダンな気品が漂っている。
店員とお客さんの関係性とか、
お客さん同士の譲り合いなどが、
すごく都会的で洗練されているのです。
常連同士のべたべたした感じもない。「弧人」でいられる。
でも、敷居の高さはなく、すごく大衆的。
看板、メニューのすべてが力強い表現で溢れている。
モダンな均質感がない。
でも田舎臭さくもない(当たり前、ここは新宿!)。
本にもそんな土着さとモダンさが欲しいと思ってました。
これは、ブックデザイナーの川畑さんにも伝えました。
おじいちゃんでも安心して手に取れて、
かつ、美しい本になりました。


▲ベルクでは店内の壁を写真家や美術作家に提供し、
 月代わりで展覧会をしている。
 写真は西口のホームレスのダンボール村の写真展。
 副店長の迫川さんは写真家でもあります。
 コーヒーを飲みに来ただけなのに、
 どんな美術館よりもガツンとやられた!



<「繁盛する飲食店10の方法」?>

さて、そんなベルクに打ちのめされ、
こんな店がどうしてできたのか? 誰でもできるのか?
グローバリズムとか言われてひさしい日本で、
こんな個人店がやっていけるのか?
さっそく店長の井野さんにラブレターを書きました。
井野さんの文章は店で毎月配られる
「ベルク通信」で拝見してました。
悶々とした哲学を語ってるのがなんともユニークです。
(バックナンバーはこちらでも見れます)

実は、井野店長に書いてもらいたい本は決まっていました。
ビジネス書をやりたい! 経営書を書いてくれって
店長にはお願いしました。
あまりベルクの名前もタイトルには出したくなかった
(結局出しましたけど)。
「みんなが満足できる経営」とか
「繁盛する飲食店10の方法」とか
そんなベタベタなお題で行きたかったんですよ。
最初、井野さんは困惑してましたね(苦笑)。
でも、2008年の日本で「ビジネス」抜きに
「文化」は語れないし、
こだわりと利益を、都会のど真ん中でどう両立させるのか、
それこそが、まさに
スリリングなエンターテインメントではないのか。
少し前のベンチャー企業とも違う「個人店経営」にこそ、
これからのカルチャーがある! と
井野さんを説得しました。

あと井野さんからは
「ウチは一等地だから特殊だよ」とも言われました。
しかし、僕は
「都心のど真ん中でインディペンデントな店を続ける」
というのは、普遍的なテーマだとも思ってました。
「恵まれた環境だからこそ、
 自分にできることを精一杯やる」
というメッセージは、大企業に勤めるサラリーマンでも
共感できる部分が多々あるんでないかと。


<携帯で原稿を書きまくる店長>

さて、そんなわけで、街場の哲学者である井野店長に、
僕はガシガシ質問をぶつけていったのです。メールで。
それに対して、けっこう長大な文章で答えてくれました。
携帯メールで。
そう、店長は朝4時〜夜9時ってライフスタイルで、
オフも大事にする方なので、
やっぱりメールが一番でした。
原稿も携帯から送られてきました。
オフレコですが、この本は携帯で書かれたのですよ。
凄いね!

本書はエリック・ホッファーの引用文で始まりますが、
最初は「なにワケわかんねぇこと言い出したんだ」って
思うかもしれませんが、
最後まで読むとちょっとわかります。
「考えないで読むことは
 咀嚼しないで食べるのに似ている」って、
エドマンド・バークさんも言ってます。
店長の文章はじわじわ効いてきますので、
何度か読み返してみてください。
(「書物の本当の悦びとは何度も読み返すことである」と
 言ったのは誰でしたっけ?)
ライフステージに応じた読み直しに耐える文章なんですよ。
僕も何度も読み返していきたいと思うし。
店長にとっては仕事=ライフワークでしたから、
この本も、
単なるビジネス書にはおさまりきれないところがあります。
哲学あり、資本論、労働論あり、都市論だったり‥‥。
便宜上、書店では
飲食店経営の棚で売っていただいてますが。


▲日本一の回転率をほこる。
 立ち退きに際してなんと1万人が署名した脅威の人気店!
 でも、店長はわりとマイペース。
 スタッフにも無理させない仕組みで運営してる。



<都内から個人店が消えようとしている問題>

本書の最終章は、「個人店を取りまく法律や制度の問題」
についてふれています。
大企業の戦略が短期決戦型になっていることなど、
それとどう向き合えばいいのかについて書かれています。
長期熟成型のビジネスが成立しづらくなっている‥‥。
コンビニは新製品の嵐。本もそうですね。
なかなか既刊本が売れない状況がある。
最近、観た映画にいい台詞があったので引用しましょう。

「レース業界を変えることはできないが、
 レースは我々を変えることができる」
(by『スピード・レーサー』

「レース」を「飲食店」に置き換えれば、
まさに井野さんが本書で伝えたかったことかもしれません。
「レース」をあなたの仕事に置き換えて、
本書を読んでもらえればうれしいです。


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『新宿駅最後の小さなお店ベルク
 個人店が生き残るには?』

著者:井野朋也(ベルク店長)
価格:¥ 1,680 (税込)
発行:ブルース・インターアクションズ
ISBN-13:978-4860202774
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2008-08-22-FRI

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