担当編集者は知っている。



『西の魔女が死んだ』
著者:梨木 香歩
価格:¥ 420 (税込)
発行:新潮社
ISBN-13: 978-4101253329
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もともとは児童向けとして発表された本作は、
その後新潮社より文庫化。
「新潮文庫・夏の100冊」でたび重なり上位に入るなど、
子どもから大人までたくさんの人に
読み親しまれてきた小説が映画化されることになりました。
この小説は、主人公のまいが「西の魔女」こと、
おばあちゃんの家で過ごすひと夏とその後のお話です。
傷ついたまいが、たくさんの草木に囲まれ、
大好きなおばあちゃんから
「魔女になるための修業」として、習ったこと。
それは「きちんと暮らし、自分で判断すること」でした。
一見あたりまえにみえるこのことが、
少女の背中を力強く押し、新しい毎日へ導いてくれます。
きっとあなたの背中も押してくれるとおもいますよ。
この本を担当された新潮社の
北村さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」小川)


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担当編集者 /
 新潮社 北村暁子


梨木さんのデビュー作であるこの本は
1994年に楡出版から刊行され、発売当初から
児童書の世界では話題の本でした。
私が梨木香歩さんのお名前を知ったのは
「飛ぶ教室」という児童文学の雑誌で、
ずっと気になりながら、
「西の魔女」というタイトルからのイメージで
異世界ファンタジーものかしら‥‥と思ったりもして、
すぐに読んでいなかったのです。
児童書に詳しい複数の友人からその読後感を耳にして
私が読んだのは、1996年に出た小学館版でした。
一読、感激! 再読、大感激。心ふるわす魂の物語でした。
刊行されたばかりだった
『エンジェル エンジェル エンジェル』(原生林)
すぐに読みました。
すばらしい!
「なぜ、もっと早く読まなかったのだろう、
 早く早くこの感動をお伝えしたい。
 一緒にお仕事がしたい!」
当時書籍編集の出版部にいた私は、
思いをこめて、祈るような気持ちで、手紙を出しました。
1997年6月8日に書いた読者としての感動を綴った手紙に、
お返事のお電話をいただいて、
梨木さんとのご縁が結ばれたのです。



『エンジェル エンジェル エンジェル』(文庫本)
文庫版の早川司寿乃さんの装画も素敵ですが、
この作品の元本はとてもうつくしい箱入りの素敵な本です。
文庫化で、ラストを改稿しています。
元本、文庫版、どちらも、それぞれによいのです。


児童文学とか、大人向けとか、
そういうジャンルにとらわれずに、今、発信したいことを、
新しい場で書いてみませんか? という想いをお伝えして、
お会いすることになり、お話しているうちに、
児童書として、人形のことを書く作品を構想していて、
その世界とパラレルなもう一つの作品を
書いてみたいと考えている、ということで、
「それをぜひ!」と長編小説の原稿を、
書下ろしでいただくことになりました。
この小説が『からくりからくさ』です。
二年間、京都のお宅に毎月通って、
梨木さんの小説のリズムに身を添わせるように、
ともに旅をするように、わくわくどきどきと
胸をときめかせ、原稿をいただきました。
1999年5月に刊行。
そのとき、私は小説新潮編集部に異動していましたが、
最後まで担当しました。



『からくりからくさ』(単行本)
単行本刊行のときには、「波」(1999年5月号)で、
池澤夏樹さんが書評を書いてくださいました。




『からくりからくさ』(文庫本)
文庫の解説は鶴見俊輔さんです。
装画は、どちらも早川司寿乃さんで、
それぞれの味わいです。




『りかさん』(文庫本)
単行本は偕成社から刊行されています。
『からくりからくさ』の蓉子と人形の物語です。
文庫化に際して、
書下ろし短編「ミケルの庭」を収録しました。


『からくりからくさ』の本作りのあと、
『裏庭』という大切な作品を文庫に入れていただき、
つづいて、『西の魔女が死んだ』も
文庫化させていただくことになりました。
『西の魔女〜』文庫化に際して、クライマックスシーンを
最初に梨木さんが考えたとおりの
(楡出版の単行本と同じ)組み方にしています。
また「渡りの一日」という
その後のまいが登場する短篇をあわせて収録しました。

『西の魔女が死んだ』は、2001年に文庫発売後、
ひと月で4回増刷、20〜30代の女性を中心に
とてもよく売れているという営業部の報告がありました。
児童書ではすでにベストセラーだったこの本が、
新潮文庫の若い女性読者に
さらにひろがっていることを実感、
その後、大きな宣伝もしていないのに、
くちコミのような形で読者が増えたようで、
「夏の100冊」に入れると、
そこでも既刊本のなかで常にトップ3に入る売れ行きで、
しずかにベストセラーになっていきました。
その間、これまでにもドラマ化、アニメ化など、
映像化についての申し込みは多かったのですが、
今回、梨木さんのご許可をいただいて、
初めて映画化されることになり、6月21日の公開を前に、
文庫は現在累計140万部と部数を伸ばしています。

映画は小説とは別な表現のメディアですから、
原作とはまた異なるものですが、
梨木さんの世界をできるだけストレートに
伝えられるものであってほしい、と思っていました。
スタッフの方々は作品をとても愛してくださって、
シンプルで、愛情に満ちた映画になっていると思います。
映画をご覧いただいた方には、
原作にもぜひ出会ってほしい、と、願っています。

この物語は単純な不登校の少女の更正物語ではありません。
「自分だけの独特の魂」を抱えて
周囲との違和に「生きにくさ」を感じている
新しい時代を生きる人間の痛みに寄り添い、
あらかじめ死んでいくことの定まっている人間という命を
自分らしく生き切る力を与えてくれる物語‥‥です。
愛読者の少女からの手紙などにも、
その痛みを共有してもらえた喜びが
つづられていることがあり、作品に流れている
大きな愛情に力づけられている読者の存在を感じます。
主人公まいと同じくらいの女の子が、
お母さんとともに読んでいる、
というようなこともよく耳にします。
かつて子どもだった(いまもその心をかかえている)
大人の心をもとらえ、世代を超えて、
大切な何かに気づかせてくれる、そんな本です。

作家は作品の前に出て行かない方がよい、
という梨木さんのお考えで、著者写真などの掲載はしない、
出来るだけ著者インタビューなどの取材は受けない、
というやり方で、
「読者には、作品とダイレクトに出会ってほしい」
と考えて、
これまでほとんどパブリシティー活動をしないできました。
今回、映画化を機に、梨木さんに特別にご協力いただいて、
「ダ・ヴィンチ」「いきいき」それぞれの7月号に
インタビュー記事を掲載しました。
梨木さんの作品世界の
全体像を知ることができる内容になっています。
梨木さんがエッセイを連載中の「ミセス」6月号 にも、
特別エッセイが掲載されています。
また、『西の魔女が死んだ』の
創作についてのエピソードは、
「考える人」2008年冬号(河合隼雄追悼号)の、
連載エッセイ「渡りの足跡」に
梨木さんご自身が書いています。

今回、映画のために『西の魔女が死んだ』を
何度も読み返しながら、この作品に、
その後の梨木さんの問題意識の萌芽を、
さらにはっきりくっきりと知ることが出来ました。
群れの中で「個」を生きること、
生きるのに必要な向日性と、
さらにそれ以外の新たな生き方の可能性をも探ること。
『西の魔女が死んだ』から始まって、
日常を深く堪能するエッセイ、
魂を探っていく創作‥‥
最新作『沼地のある森を抜けて』など、
命の深遠を問う物語、
そして現在進行形のさまざまな作品で、
梨木さんは、地に足の着いた、身近で実際的なやり方で、
はるかな宇宙とも繋がっている
――そんな生命の輝きを、じっと目を凝らして、
時には鳥のように俯瞰して探っています。



『沼地のある森を抜けて』(単行本)
センスオブジェンダー賞紫式部文学賞を受賞しました。
印象的な装画は気鋭の画家牛島孝さんの絵です。


梨木さんは現在、
『からくり‥‥』『沼地‥‥』につらなる物語を
構想(一部執筆)中です。
私はさらに深まっていく梨木さんの世界に、
刺激され共振しつつ、
創作の場に立ち会う喜びを感じています。
伝わっていくものをより確かに増幅し、
共感をひろげるような本作りをしたいと思います。
文庫編集の担当者としても、愛蔵版の単行本とともに、
後まで遺していく最終版として
作品集のようにそろえて収録していきたいと考えています。
次世代に伝えたい、共有できる作品にめぐり会えたことに、
感謝しています。

☆☆☆☆

映画『西の魔女が死んだ』は6月21日(土)より
全国一斉公開中です。
詳しくは、どうぞ下記サイトをご覧ください。
新潮社・特設サイト
オフィシャルサイト

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『西の魔女が死んだ』
著者:梨木 香歩
価格:¥ 420 (税込)
発行:新潮社
ISBN-13: 978-4101253329
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2008-06-20-FRI

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