担当編集者は知っている。



『球体』2号(2008Spring)
責任編集:立花文穂
価格:¥1,680(税込)
発行:六耀社
ISBN-13: 978-4897376073
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『球体』は、年4回発行予定の季刊誌です。
責任編集を務めていらっしゃる、
アーティストの立花文穂さんは、
文字と紙を主とした作品を制作していらっしゃいます。
また、『球体』で連載もされている
石田千さんの『部屋にて』や、
高山なおみさんの『高山なおみの料理』などの
ブックデザインも手がけられておられます。
1号では、「文字のはなし」、
2号では、「東北圏」と平田五郎さんの特集。
なにかのジャンルに固定することもなく、
中身も写真だけだったり、横にして読んだりと、
自由に作られています。
毎回どんな特集、誌面になるのかとても楽しみです。
この季刊誌を担当された六耀社の
久保さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」小川)


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担当編集者 /
   六耀社 久保万紀恵



いま世の中は情報で満ちあふれています。
雑誌やテレビでは、
同じような人やものがさかんに取り上げられ、
偏った情報が多いように思います。
さらにインターネットで簡単に情報が手に入るから、
自ら判断したり、調べたり、考える力が、
どんどん衰えているように、
自分自身も感じていて、
このままでは、
流行りをなぞったものばかりが増えてしまい、
残すべき大切なものがつくり替えられたり、
丁寧なものづくりがしにくくなってしまう‥‥。
そんな危機感を抱いていたので、
雑誌を新たに作ることになり、
この状況に一石を投じるものにしたい!
と思い立ちました。

我ながら、熱く高い志です。
しかし、具体的にどんな内容にすればいいのか、
考えあぐねてしまいました。
早くも失速‥‥。
そこで、責任編集者として
一緒に『球体』を作ることになる
立花文穂さんにご相談しました。
立花さんは、文字や紙、本をテーマや素材に、
作品をつくるアーティストなのですが、
タイポグラフィやブックデザインなど、
グラフィックデザイナーとしても活躍されている人です。
私はもともと立花さんがデザインされた本がまとう
独特な佇まいが好きで、
アートディクレターをお願いしたいと思っていたのですが、
立花さんの反応は、
「全部できるのであれば相談に乗る」
というものでした。

ぜんぶ??
思いがけないひと言に、正直たじろぎました。
どんな雑誌になるのか、想像ができなかったからです。
逆に考えれば、
おもしろいことができるかもしれないとも思い、
これまでのお仕事や話されていたことを思い返しました。
立花さんは、ものづくりの現状に、
私が抱く以上の危機感を感じていて、
効率よく表層的なものがつくられる状況に抗うように、
作品づくりやデザインをされています。
例えば、活版印刷で紙に線が引かれた作品があります。
一見、線に目がいきがちですが、
ハンコにあたる版では、線よりむしろ余白の部分に
びっしりものが詰まっていることを
感じさせる作品です。
このように、目に見えるものだけではなく、
その過程や背後にあるものを想像することを
表現により伝える意図も感じられ、
雑誌を丸ごと託してみようと、
改めてご相談することにしたのです。

立花さんからは、
ストックされていたアイデアが次々に出されました。
これは、ほぼ1年前のことです。
それから何度も編集会議を重ね、
現状を批判したり、嘆くのではなく、
まずは自分の目でちゃんと見ること、
さらにしつこく観察と発見を繰り返すことが、
ものづくりや表現の原点であることを
伝えようということになりました。

創刊号は、雑誌の基礎づくりのような目的で、
立花さん自らの特集「文字のはなし」が
半分以上を占めています。
ご自身で撮られた風景や人、作品などの写真が
淡々と続く構成です。
文章は冒頭と最後にありますが、
写真自体には、いわゆる文字は見当たりません。
立花さんのお話を私なりに解釈すると、
“文字”というものは、
昔の人が神様や大切な人、
あるいは後世に伝えたいことがあって、
日頃から見ている風景をイメージして、
形作られたものであり、
今も変化しながら存在している。
そんなさまざまな思いや過程を経て現れた文字が、
立花さんにとっての表現の原点であり、
目指すところでもあるのです。
現代の風景からも文字が生まれるかもしれない、
そんな視点で写真を見ると、
きっと違った世界が広がります。



『球体』1号表紙




1号の特集「文字のはなし」より。
活版印刷による立花さんの作品です。
(クリックすると大きい画像で見られます。)


2号の特集は、東北各地の
さまざまな表現を集めた「東北圏」と
アーティスト・平田五郎さんの2本立てです。
「東北圏」の冒頭、
河童に扮してずぶぬれになった男性が直立しています。
次のページには、杖を突いたお婆さんが現れ、
パンツひとつで踊る姿も見られます。
すべて舞踏家の森繁哉さんです。
遠野地方に伝わる民話や神話を
柳田国男が書き残した『遠野物語』
その地で体現されています。
お地蔵さんやお団子、大きな数珠など、
懐かしくも不思議な写真は、
山形の湯治場・肘折で撮られたものです。
立花さんが滞在しながら、
古くから続く風習をアートへ派生させた過程が、
昔話のように展開します。
そのほか、
僧が厳しい修行の末、絶命し自ら仏となった即身仏、
建築家・白井晟一が手掛けた稲住温泉が、
建築家亡き後、どのように受け継がれているか?
など、ある思いと過程を経て
つくられたものを取材しています。
平田さんは、自作のカヤックでアラスカを移動しながら、
石や砂、貝などで、神話に基づく作品を制作。
過酷で孤独な制作活動の様子も綴られています。





2号の特集「東北圏」より。
上は座敷わらしに扮する森繁哉さん。
下は肘折の大きな数珠。
年に1度36人で回す「数珠回し」という風習があり、
その様子も掲載しています。(クリックすると大きい画像で見られます。)



連載陣は、作家の石田千さん、
アーティストの伊勢克也さん
演出家の立花英々さん、
建築家の荒木信雄さん、
コントユニットのテニスコート
と多彩な顔ぶれです。
エッセイ、小説、コントなど表現方法は
人それぞれですが、
観察と発見を繰り返すなかで生み出された
独自の視点が感じられるものばかりです。

『球体』には、すぐに役に立つ情報はありませんが、
一度読んでわからなかったことが、
何度か読んだら霧が晴れるように鮮明になったり、
写真や文章からさらに想像をめぐらすと、
どんどん世界が広がって、
目に写る風景も少し違って見えたりと、
『球体』ならではのおもしろさがあると思いますので、
その感覚をひとりでも多くの人に
味わっていただけると嬉しいです。

最後に、青山ブックセンター本店のトークショーで、
立花さんが『球体』について語られたことを引用します。

「ちっちゃいけれどちゃんとあるってことが、
『球体』には出ていると思うので、
そういうことを気にすることが、
ものをつくることの大事なところだろうなって
僕は思っています。」


私もちっちゃいけれどちゃんとありたいと思います。
そして、『球体』も決して派手ではないけれど、
ちゃんとあるものとして、続けていきますので、
これからもよろしくお願いします!

※6/10(火)に発売される
 世界のデザイン誌『アイデア』でも、
 『球体』が紹介されますので、ぜひご覧ください。


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『球体』2号(2008Spring)
責任編集:立花文穂
価格:¥1,680(税込)
発行:六耀社
ISBN-13: 978-4897376073
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担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2008-05-27-TUE

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