担当編集者は知っている。



『セツローのものつくり』
著者:小野 セツロー
価格:¥ 2,310 (税込)
発行: アノニマ・スタジオ
ISBN-13: 978-4877586607
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ひとつひとつ石の説明がついたかんざし、
手彫りの木の匙や、ちょっとずつちがう土人形。
この作品集にある
小野セツローさんがつくったものを見ると、
なんだか心が温まります。
また、「もの」だけではなく、
スケッチや絵も多く収められており、
これまたなんとも味わい深いです。
セツローさんのつくるものには、
じんわりとあふれるぬくもりを感じます。
この本を担当された
祥見さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」小川)


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担当編集者 /
   祥見 知生 ( うつわ祥見主宰 編集者 )



小野セツローさんは野の花のスケッチ、
かんざし、匙、土人形などの作品を発表している、
79歳のものづくりびとです。
なかでも椿などの木の枝を削って作るかんざしは、
若い女性に大人気。
セツローさんのかんざしを挿したくて
髪を伸ばすファンもいるほどです。

初めての作品集『セツローのものつくり』では、
セツローさんのこれまでの仕事を、
木を削る、土で作る、画を描く、という三つの章で、
それぞれの作品を掲載しています‥‥と、
ありきたりの言葉で伝えると、そんなふうになります。
が、まず、見ていただきたいのは、
セツローさんの信じていることかな‥‥と思います。

「作品にはその人があらわれる」
昔からよく言われていますね。
わたしはふだん作家ものの器の展覧会を開きながら、
文章を書いたり、本を作ったりしているのですが、
この「作品は人」というのは、
「その人が信じていることが作品にあらわれる」
と言い換えてもよいのではないか、と思っています。



野の花や、小さな生き物。
セツローさんのスケッチには、
物言わぬものたちへのあたたかなまなざしが感じられる。

たとえば、セツローさんの一本の線。
えんぴつで線をひく、ただの線です。
でも、この線には、
セツローさんが何を美しいと考えているのか、
という「ものさし」が確かにあらわれているのです。
この、美の尺度の話になるとセツローさんはこう言います。
「ボクは、自分がよいと思うところで止めているだけ」と。
セツローさんにとって「ものさし」とは、
「どこで止めるのか」なのですね。
たとえば、申、寅など
干支の動物たちの「土人形」のその飄々とした表情、
やっぱり、その「ものさし」が生きています。
椿や桜の木を削り作る「匙」。
その削りの具合、ふき漆の塗り具合。
それは一本の線に通じるものです。
「なるべく下手に作りたいと思うんじゃ」
とセツローさんは語りますが、この言葉は、
ものつくりが上手になり、手が仕事を覚えたときに
無垢な輝きが失われてしまうことを知ってのこと。
実際、セツローさんの木の匙を使っていると、嫌味がなく、
まことに気持ちのよい道具であることがわかります。
「偉ぶることのない」朗らかなものつくりの妙技を感じます。



飄々とした顔の干支人形「申」。
「これは下手の見本じゃね」とセツローさんはおっしゃる。




椿の匙。限られた道具で削り作られた作品。
かなりの力仕事なので、一日に一本作るのがやっとだった。


余計なものがなく、
ただ、すっと立っている一本の樹木のように潔く、
そして体温を感じられるほど、あたたかい。
初めての作品集となる本書では、
そんなセツローさんの作品の
なんともいえない奥深い味を、
ゆっくり見ていただけると思います。

わたしがセツローさんのことを知ったのは、
息子さんである陶芸家・小野哲平さんから届いた
一枚の展覧会葉書でした。
小さな葉書の中には、
愛らしく小粋なかんざしのスケッチ描かれていました。
それから半年くらい経ち、実際のかんざしを見た瞬間、
自分でもわけがわからないものが胸いっぱいに広がり、
こころが熱くなり、涙がぽろぽろ流れ
「こんなにもやさしい手の仕事がある」と感じ入り、
その後まもなく、松山のお住まいを訪ね‥‥というくだりは、
その後、セツローさんに惚れこんで一冊本を書いてしまった
『セツローさん』にくわしく書きました。
今、「書いてしまった」と思わず表現しましたが、
今回の作品集の企画もそうです。
セツローさんの作品を「伝えたい」。
好きな人に出会うと、
もっと誰かにその人を紹介したいと思うものですが、
セツローさんほど、誰かに「伝えたい」と思った人に
出会ったことはありません。



かんざしには「紀元前のローマングラス」など、
気が遠くなるくらい歴史のある玉も少なくない。
「甘くならない玉選び」は、男性にもファンが多い。


今回の作品集では出版を記念して、
高知、鎌倉、京都、東京で
「セツロー展」を行なったのですが、
訪れたみなさんは作品を見ていると、
ほんとうに幸せそうなんです。
これは、セツローさんの展覧会を開くたびに
感じることなのですが、訪ねられた方が朗らかに笑い、
会場はいつも穏やかで
なんとも気持ちのよい空気でいっぱいになります。
その様子を見ていると、
つくづくセツローさんはすごい人だなぁ‥‥と思います。
展覧会を訪れた人は、
作品を通じて、「セツローさん」に出会い、
ちゃんと何かを受け取って帰っていくのですから。

セツローさんはおしゃれですよ。
ヨーガン・レールや23区を79歳にして着こなす
そのファッションセンスは、ちょっとすごい。
そして、短い言葉の端々にあらわれる知性とユーモア。
余計な力がなくて人を包むようなあたたかな人柄。
そんな、まるごとの「セツローさん」が作品からにじみ出て、
次から次へと、セツローファンは増えているのでしょうね。



今年3月末に79歳のお誕生日を迎えられたセツローさん。
送られた和の花の花束を持って微笑む、
松山のご自宅での1シーン。


本の制作も大詰めになり、
本の顔である表紙カバーを決定する頃になって、
不思議なことがありました。
当初、表紙カバーは、別のデザインで進めていたのです。
それはそれで悪くないし、セツローさんも
「ええんじゃない」とおっしゃっていたのですが、
何か違うなぁ‥‥と。腑に落ちないというか、
もやもやした思いがあったのです。
ところが、そんなある日、
朝目覚めると、枕元に、なぜか一枚の葉書が。
それはセツローさんが初めてかんざしを発表された
展覧会のDMでした。
えんぴつで描いた
かんざしのスケッチが印刷されていました。
もちろん、その葉書は我が家にあったものです。
以前に資料としてセツローさんから送られたものですから。
でも、ベッドのまわりに棚があるわけでもなく、
どこからか落ちてきたというにも考えにくい。
いま思っても、それは本当に不思議なことでした。
「あのときのかんざしの画の原画はどこにあるのですか?」
すぐにセツローさんに電話をすると、
「どこじゃろか。わからんね。
 でも同じものじゃないけど、
かんざしのスケッチはあるからすぐ送るよ」
というお返事。
数日後、送られてきたスケッチブックには、
実に、100本以上のかんざしの画が。
そんなわけで、急遽、表紙カバーはデザインを変更。
見返し部分も広めにとって、表、裏、左右の見返し‥‥と
4箇所に、かんざしの画を5本ずつ配置することにしました。
手にされた方は、本か
らカバーをはずして
どうぞ広げてご覧ください。
この本の隠れた楽しみの一つです。
そして、セツローさんの「ものさし」とはなんぞや‥‥
と感じてもらいたいと思います。


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『セツローのものつくり』
著者:小野 セツロー
価格:¥ 2,310 (税込)
発行: アノニマ・スタジオ
ISBN-13: 978-4877586607
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2008-04-29-TUE

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