担当編集者は知っている。



『夜中にジャムを煮る』
著者:平松 洋子
価格: 1,785 円(税込)
発行: 新潮社
ISBN-13:978-4103064718
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フードジャーナリストとしてはもちろん、
『買えない味』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞など、
名エッセイストとしても活躍されている平松洋子さん。
季刊誌『考える人』での連載をまとめた本書は、
台所の思い出とともに、
料理をつくるたのしさ、
食べることのたのしさを教えてくれます。
テンポのよい文章ときれいな写真で、
おなかがすいてくること間違いなしです。
この本を担当された新潮社の
疇津さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」小川)

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担当編集者/
  新潮社 出版部 疇津(あぜつ)真砂子



『夜中にジャムを煮る』は、
季刊誌『考える人』の創刊3号から19号まで、
足掛け5年にわたった連載「台所でにっこり」を
まとめたものです。
世界の食文化(と食の世界)に対する造詣の深さと、
住まいや骨董についての美意識でも定評のある著者が、
ふだんこんなふうにごはんをつくってます、
と開陳する人気の連載でした。
「“ものの考え方”と“暮らし”は
 ウラとオモテのようなもの。
 plain living があってこその
 high thinking であり、 
 high thinking あってこその
 plain living なのです。」(『考える人』編集長)
という雑誌創刊の辞を体現するような
平松さんの簡素で凛とした暮らしぶり。
連載の途中から担当をひきつぎ、
最初の取材は忘れもしない
「手でつくる」というテーマでした。


▲「手でつくる」
 動きのある写真は、
 最初のショットが良いことが多い。
 撮影・日置武晴(すべて)


書籍出身でグラビア頁の進行もわからず、
打ち合わせで
「ほうれん草のナムル」、
「トマトと牛肉のぎょうざ」、
「薬味たっぷりのそうめん」、
「キャベツのレモン風味炒め」等々をつくりましょう、
と言われ
(それは手だけではつくれないんじゃ‥‥)
という不安を飲み込んだりした記憶があります。
フォトグラファーは日置武晴さん。
驚くほどシンプルな機材で
雰囲気あふれる写真を撮ってしまう彼は、
多くの仕事で平松さんとコンビを組んでいるためか、
おおまかなコンテで品数・段取りを確認すると、
もう撮影の始まりです。
段取りというのはしかし、
下ごしらえの逆算、動作を撮る、
出来上がりの瞬間を撮る‥‥
などのタイミングだけではなかった!
午前11時に開始だと、1時頃には一段落し、
お腹もぺこぺこ。
つまり撮影したものをそのまま「賄い」にするわけで、
時間が経つとまずくなるものを直前に回す、
なども平松さんはぬかりなく段取ります。
もちろん、途中経過と出来上がりを
それぞれ用意するような食材の無駄は一切なし。
この、食材を無駄にせず完璧に撮影しおおせる、
それが美味しくみんなのお腹にきれいにおさまる、
ということは毎回、奇跡のように思えました。


▲「蒸し物名人になりたい」
 シンプルな一皿こそ、平松さんの真骨頂。


ところが、2週間後くらいに上がった原稿を読み、
わたしはふたたび「奇跡」のような感動を覚えます。

「口に入れるよりひと足先に、
 手がほうれんそうを味わっていた。
 手はおいしさをつくり出す。
 いや、それ以上に、
 おいしさの意味を教える。」(本文より)

(ああ、「手でつくる」って、こういう意味だったのか。)
その後の連載のタイトルは「わたしのだし取り物語」、
「ぴしり、塩かげん」、「飲みたい気分。」、
「今日は何も食べたくない」というものまでありましたが、
どれも平松さんの暮らしの基本、
大切にかんがえること、ゆるがせにしないことが、
もうひとつ深くまで掘り下げられている。
しかも母や各地の人々の教えなど、
やさしい記憶とともに綴られていく。
あの、無駄のないたしかな手さばきの向こうに、
連綿とつづく物語がひそんでいました。


▲「こんなものを食べてきた」
 平松さんの思い出の味、チキンライス。


さて、『考える人』のデザインを手がける島田隆さんは、
「文章を読んでレイアウトするデザイナー」です。
(編集者が参りました、となる場面もしばしば‥‥
 ま、それはさておき。)
連載中ずっと島田さんにさまざまな要求を突きつけ、
印象的なデザインで応えてもらった平松さんは、
単行本化が決まると
迷わず島田さんを装丁者に指名しました。
見本が出来上がって、
表紙カバーと見返し、口絵や本文に触れたとき、
もういちど「奇跡」を見たように感じました。
ああ、この本は、こういう姿だったのか。
著者と写真家と装丁家の力、
取材に応じてくれた方々と、制作の力、
どれが欠けてもこの姿にはならなかった
──本を作るのには馴れているはずなのに、
そんなことに今更のように感動し、
しかもいまだに嬉しさが続くのはなぜなのか。
あの、取材の日々が、
なつかしい「母のご馳走」を楽しみにしていた日々と
どこかで重なっているのかもしれない。
そんな風に思える趣深い本です。

舌や手の感覚とむすびついたよろこびや切なさ、
誰にも覚えのあるほろ苦くてあまやかな記憶を、
じっくり溶け込ませた芳醇なエッセイ17編。
素晴らしい写真と美しい造本でお贈りします。
どうぞお楽しみください。


▲「飲みたい気分」
 春の野外で昼酒を‥‥実は木枯らしに震えた撮影。


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『夜中にジャムを煮る』
著者:平松 洋子
価格: 1,785 円(税込)
発行: 新潮社
ISBN-13:978-4103064718
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2008-04-04-FRI

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