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フードジャーナリストとしてはもちろん、 『買えない味』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞など、 名エッセイストとしても活躍されている平松洋子さん。 季刊誌『考える人』での連載をまとめた本書は、 台所の思い出とともに、 料理をつくるたのしさ、 食べることのたのしさを教えてくれます。 テンポのよい文章ときれいな写真で、 おなかがすいてくること間違いなしです。 この本を担当された新潮社の 疇津さんにお話をうかがいました。 (「ほぼ日」小川) ****************************************** 担当編集者/ 新潮社 出版部 疇津(あぜつ)真砂子 『夜中にジャムを煮る』は、 季刊誌『考える人』の創刊3号から19号まで、 足掛け5年にわたった連載「台所でにっこり」を まとめたものです。 世界の食文化(と食の世界)に対する造詣の深さと、 住まいや骨董についての美意識でも定評のある著者が、 ふだんこんなふうにごはんをつくってます、 と開陳する人気の連載でした。 「“ものの考え方”と“暮らし”は ウラとオモテのようなもの。 plain living があってこその high thinking であり、 high thinking あってこその plain living なのです。」(『考える人』編集長) という雑誌創刊の辞を体現するような 平松さんの簡素で凛とした暮らしぶり。 連載の途中から担当をひきつぎ、 最初の取材は忘れもしない 「手でつくる」というテーマでした。 ![]() ▲「手でつくる」 動きのある写真は、 最初のショットが良いことが多い。 撮影・日置武晴(すべて) 書籍出身でグラビア頁の進行もわからず、 打ち合わせで 「ほうれん草のナムル」、 「トマトと牛肉のぎょうざ」、 「薬味たっぷりのそうめん」、 「キャベツのレモン風味炒め」等々をつくりましょう、 と言われ (それは手だけではつくれないんじゃ‥‥) という不安を飲み込んだりした記憶があります。 フォトグラファーは日置武晴さん。 驚くほどシンプルな機材で 雰囲気あふれる写真を撮ってしまう彼は、 多くの仕事で平松さんとコンビを組んでいるためか、 おおまかなコンテで品数・段取りを確認すると、 もう撮影の始まりです。 段取りというのはしかし、 下ごしらえの逆算、動作を撮る、 出来上がりの瞬間を撮る‥‥ などのタイミングだけではなかった! 午前11時に開始だと、1時頃には一段落し、 お腹もぺこぺこ。 つまり撮影したものをそのまま「賄い」にするわけで、 時間が経つとまずくなるものを直前に回す、 なども平松さんはぬかりなく段取ります。 もちろん、途中経過と出来上がりを それぞれ用意するような食材の無駄は一切なし。 この、食材を無駄にせず完璧に撮影しおおせる、 それが美味しくみんなのお腹にきれいにおさまる、 ということは毎回、奇跡のように思えました。 ![]() ▲「蒸し物名人になりたい」 シンプルな一皿こそ、平松さんの真骨頂。 ところが、2週間後くらいに上がった原稿を読み、 わたしはふたたび「奇跡」のような感動を覚えます。 「口に入れるよりひと足先に、 手がほうれんそうを味わっていた。 手はおいしさをつくり出す。 いや、それ以上に、 おいしさの意味を教える。」(本文より) (ああ、「手でつくる」って、こういう意味だったのか。) その後の連載のタイトルは「わたしのだし取り物語」、 「ぴしり、塩かげん」、「飲みたい気分。」、 「今日は何も食べたくない」というものまでありましたが、 どれも平松さんの暮らしの基本、 大切にかんがえること、ゆるがせにしないことが、 もうひとつ深くまで掘り下げられている。 しかも母や各地の人々の教えなど、 やさしい記憶とともに綴られていく。 あの、無駄のないたしかな手さばきの向こうに、 連綿とつづく物語がひそんでいました。 ![]() ▲「こんなものを食べてきた」 平松さんの思い出の味、チキンライス。 さて、『考える人』のデザインを手がける島田隆さんは、 「文章を読んでレイアウトするデザイナー」です。 (編集者が参りました、となる場面もしばしば‥‥ ま、それはさておき。) 連載中ずっと島田さんにさまざまな要求を突きつけ、 印象的なデザインで応えてもらった平松さんは、 単行本化が決まると 迷わず島田さんを装丁者に指名しました。 見本が出来上がって、 表紙カバーと見返し、口絵や本文に触れたとき、 もういちど「奇跡」を見たように感じました。 ああ、この本は、こういう姿だったのか。 著者と写真家と装丁家の力、 取材に応じてくれた方々と、制作の力、 どれが欠けてもこの姿にはならなかった ──本を作るのには馴れているはずなのに、 そんなことに今更のように感動し、 しかもいまだに嬉しさが続くのはなぜなのか。 あの、取材の日々が、 なつかしい「母のご馳走」を楽しみにしていた日々と どこかで重なっているのかもしれない。 そんな風に思える趣深い本です。 舌や手の感覚とむすびついたよろこびや切なさ、 誰にも覚えのあるほろ苦くてあまやかな記憶を、 じっくり溶け込ませた芳醇なエッセイ17編。 素晴らしい写真と美しい造本でお贈りします。 どうぞお楽しみください。 ![]() ▲「飲みたい気分」 春の野外で昼酒を‥‥実は木枯らしに震えた撮影。 ******************************************
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2008-04-04-FRI
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